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『山賊デモンズキング④』

「えーと、滝、滝は……」


 森の中を駆け抜けるシレン。勢いで出てきてしまったが、”滝”以外のヒントを得ていないことに気付いたのは、彼が森に入って30分経過してからだ。


「お、おかしいな……この川に沿って走ればそのうち着くと思うんだけどな……」


 なんの根拠もないその言葉を口にするのは、かれこれ5回目になる。

 事前の準備なしに飛び出すのは彼の悪い癖で、これまで何度も後悔してきたのに、未だに自覚していないようだ。


 昨晩とは一転、森には鳥や虫達の鳴き声が鳴り響く。木々が生い茂っているため、日はあまり差まず、夜ほどではないが少々暗い。そのためか、わずかに差し込む木漏れ日はどこか安堵感を与えてくれる。魔物の気配は多少するが、日中は大人しく、昼寝中のものまでいる。


 変わらぬ景色を突き進むと、ようやく広く切り開かれた土地に出る。キャンプするには持ってこいの広さで、湖(川はここにきて湖と合流した)を見渡せる絶好のスポットだ。


 さすがに走りっぱなしだったから、少し休むか。そう思い湖のそばに腰を下ろす。涼しい風が吹き、周りの木々から落ちてきた葉が水面に浮かぶ。透き通ったそのきれいな湖には、小魚が泳ぎ、アメンボが水を蹴っている。なんとものどかな光景だ。


 ふう、と一息つくと、後ろの方から言い争う声が聞こえる。


「キィ! それじゃあ話が違うっキィ!」


 なんとも特徴的なしゃべり方、多分これは人間ではなく魔物だろう。


「ああ、ああうるさいねえ。細かいとこは”アイツ”に聞いてくれ。”君らのボス”にさあ」


「キィ、許せないっキィ! 人間のくせに生意気だキィ! こうなったら腹いせに殺してやるっキィ!」


 穏やかでないその会話にさすがに振り返って確認せざるを得なくなる。どうやら浮遊している黒い物体は小型の悪魔で、その手にはその等身相応の小型の槍が握られている。対する人間の方は、深紅のローブに包まれ、深く被られたフードからは銀色の髪を覗かせている。身長はシレンより少し高めか、まだ若い青年だ。


「おいおい、これだから魔物ってのはやりにくいんだよねえ。まあ、交渉相手を殺せば証拠隠滅できちゃうしオッケー? アハハッ!」


「なめるなキィ! その口を利けなくしてしてやるキィ!」


 そういうと小型の悪魔は槍を構える。


 しかし、深紅のローブを着たその青年が手をかざすと、たちまち高火力の炎がその手から放たれ、一瞬にして悪魔を焼き焦がし、灰と化してしまった。



(え、詠唱なしだと!?)


 少し離れた場所から見ていたとは言え、会話が聞こえる範囲であり、詠唱するものなら聞こえているはずの距離である。それに、詠唱が聞こえる聞こえない以前の問題、魔法の発動が速すぎる。向き合った状態からの近距離戦闘に置いて、魔導師が先手を取るなんて聞いたことのない話だ。


 しばらく目を丸くして唖然としていると、魔導師の青年はやれやれと言った表情でこちらの方へ歩いてくる。


「……おや?」


 その青年はちょっと驚いた様子でこちらを見る。


「まさか人が居たとはねえ、キミ、今の見てた?」


 突然振りかけられた言葉にビクリとするシレン。


「……あ、ああ。なあ、今のってその……」


「あのさあ、出来れば他言無用にして欲しいんだ。じゃなきゃキミも殺さなきゃいけなくなるんだ」


 ニコリとこちらに微笑みかけてくる、その恐ろしい笑顔には、さすがに顔が引きつってします。


「わ、わかったよ。俺は何も見なかった。アンタと俺は会わなかった。これでいいだろ……?」


「うん、話がわかる人でよかった。あ、人じゃなくて、”魔物”って言った方がいいのかな?」


「え……」


「キミとはまたいつかゆっくり話がしたいねえ。この世界の行く末を決めるのは、あるいは君かもしれないからさ」


「?」


「あ、余計な事しゃべりすぎちゃったね。ボクは”アゼル”。じゃあね」


 そう言ってシレンに背を向けると、アゼルはテレポートの魔法を使ったのか、瞬きをする間に姿を消してしまった。


 しばらく茫然と立ち尽くした。あまりに信じがたい出来事の数々、頭の中は混乱していた。


 あの魔物との会話は何なのか、詠唱なしで魔法は出せるものなのか、”何故俺が魔物であるとわかったのか”


 全てが謎の男、計り知れない強さ、赤い瞳から発せられたあの威圧感。久々に背筋が凍るような思いがした。


 ――突如、突風が吹き、木の枝がシレンの頭にコツンと当たる。


 ――そうだ、行かなきゃ


 もやもやしたまま足を進める。木々を抜けると、激しい水のぶつかりあう音が聞こえる。

 滝の音。

 その音を頼りに歩いて行くと、そこには大きな滝が轟音と水しぶきをあげていた。

 カインの言っていた通り、すぐそばには洞窟の入り口みたいなものがある。


 シレンは顔をパンッとたたき、もやもやを吹き飛ばすと、一人洞窟へと足を踏み入れた。

 

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