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『山賊デモンズキング③』

 ――翌朝。


 眠い目を擦り、顔を洗い、軽い身支度を済ませたシレン。

 どうやら今日も快晴だ。カーテンの隙間から暖かな日差しが差し込んでくる。

 鳥達の鳴き声が聴こえ、なんとも清々しい。昨日疲れもすっかり吹っ飛んだようだ。


 さてと、カイン達に会いに行くんだったな。そんな事を思いながらリィナの部屋のドアをノックする。


「リィナ、まだ寝てるのか?」


 リィナは昨夜だいぶ疲れた様子だった。昨日の戦闘が祟ったのか、そっとしておくべきか。

 いや、昨日会ったばかりの人達だ。いきなり「まだ寝てるので一人で来ました」は失礼極まりない、少しくらいは顔を出させるべき。そう思い、もう一度ノックする。


「なぁ、疲れてるとこ悪いんだが、ちょっとくらい顔を出しに――」


 そう言ってドアノブをひねると、鍵はかかっておらず、キィという音とともにドアが開く。


 あれ、なんだよ、鍵かけなかったのか?


「リィナ――」


「あれ?」


 部屋にリィナの姿はない。見ると、窓が開いており、風でカーテンがバサバサ揺れる。

 部屋を見回すとベットの上に一通の置き手紙と、黄色いバンダナ。


「!!」


 急ぎ置き手紙を確認する。



---------------------------------------------------------


よう、昨日はうちの馬鹿どもが世話になったようだな。


これがどういうとこだかわかってんだろうな?


馬鹿なガキにはお説教が必要だ。


そういうわけで、女は預かった。


返して欲しければ、夜までに俺のアジトまで来ることだ。


お出迎えはたっぷりしといてやる。


もし来なければ女は殺す。安心しろ、それまでは何も手を出さない。


俺は紳士だからな、ははっ。



                《デモンズキング長 デモンズ》  


---------------------------------------------------------



「くっ……」


 歯を食いしばり、こぶしを握り、体を震わせる。

 まさか、こんなにも早くに。手下を一人逃がしたのは迂闊だった、しかし今は後悔している暇はない。一刻も早くリィナを助けださなければ…!

 しかし、アジトの場所も分からない。カイン達は何か知っているだろうか。アジトの場所さえわかればすぐにでも乗り込んでやるのに…。とにかくバーに向かおう。


 シレンは溢れ出す怒りの感情を抑え、バーへと走った。



 ***



 キィ、とバーの扉が開く。


 カインは、カインはいるか?バーを見回す。

 すると、バーのすみにカイン達がいるのが見える。

 シレンに気づくと、カインは手を振った。


「やあ、シレン。昨日はよく眠れたか?」


「あ、ああ、よく眠れたよ。疲れもすっかり取れたようだ」


 忙しなく答えるシレン。

 すると、隣から聞きなれない声がする。


「あの……」


 小柄な体がこちらを見上げる。黒い髪の少女、ニナだ。


「昨日はどうも、ありがとう……」


 人見知りをする子なのか、初対面の自分に少し恐怖心を抱いているようにも感じる。


「ああ、無事で良かった。でも、礼ならリィナに言ってくれ。助かったのはあいつのおかげだからな」


 そう言ってニナの頭を撫でると、ニナはニコリと笑った。


「そういえば、リィナはどうしたの?」


 疑問の表情を浮かべるシリアに、ふとここに来た目的を思い出す。


「そうだ、リィナがデモンズキングの奴らに攫われたんだ!」


 えっ、と顔を青ざめる一同。事件があったのは昨日の夜、さすがに手が回るのが早すぎはしないか?三人も同様に考える。だが、そんなことを気にしている暇ではない、今はリィナの救出が先決だ。


「この手紙が置いてあった。あと、このバンダナも……」


 手紙を読み、バンダナを見るカイン。


「なるほど、確かにこれはデモンズキングの長、デモンズの筆跡だ。僕の所属するギルドにもデモンズからの手紙が送られてきた事があるから、間違いはない。ただ……」


 口を濁すカイン。


「ええ、デモンズは普段自ら行動を起こすことはしない。彼が直々行動を起こすとしたら、それこそ賊の一存に関わることくらい。それなのに、何故……」


 顔をしかめるシリア。どうやら異例のことらしい。


「それで、アジトのことなんだが……」


「ああ、奴らは森の奥の洞窟を根城にしている。すぐ傍に滝があるからそれが目印になるはずだ。そんなに遠くはないからすぐに見つかるだろう」


「そうか、助かった。これで奴らのアジトに乗り込める」


 そう言うと振り返り、すぐにでも向かおうとするシレン。

 それをカインが呼び止めた。


「待つんだ。一人で乗り込むのは危険だ。手紙にもある通り、奴らは手下を従え君に仕向けようとしている。僕らも一緒に行って、君の手助けがしたい」


 真剣に見つめるカイン。


「わかった。ありがとう。出会ったばかりの俺なんかに良くしてくれて」


「何、構わないさ。貸し借りはなしだろう?」


 にこりと笑うカイン。

 全く、こんな人間もいたんだな。そう思うも、すぐに複雑な思いが絡み、少しうつむくシレン。


「夜まではまだ時間があるわ。ここからなら昼に出発しても夜には十分に着くはず。準備は念入りにして行きましょう?」


「そうだね。急ぐ気持ちもわかるけど、準備を怠ってはいけない」


 シリアの提案にカインも頷く。


「あの、ペンダント……」


「ああ、そうだ。どうも昨日ニナがペンダントを取られてしまったみたいなんだ。」


「ペンダント……、あそこには落ちていなかったから、逃げたやつが持って行ったのかもしれないな。」


「じゃあ、向こうに行ったらペンダントも探してあげましょう? あのペンダント、ニナの大切なものみたいだから…」


「……お母さんに貰った、大切なものだから……」


「よし、わかった。俺がデモンズとかいう奴に接触できたらペンダントの場所も聞き出してやる。じゃあ、俺は少し外を歩いてくるよ。この街、まだよく見てないからさ」


 そう言うと、シレンは軽く手を振り、バーを去った。



 しかし、シレンが向かった先は街ではなく、その正反対の森だった。

 場所はわかった、カイン達に世話はかけられない。

 俺が一人で行くんだ。この手で、リィナを取り返す。



 ***


 薄暗い洞窟の一室、大量の髑髏の飾り物が飾られている。人間の骨格のものもあれば、そうでないもの(魔物や動物のもの)などもある。ここの主はよほどの髑髏好きなのか。

 

 濃いピンクの髪を肩まで垂らした女の子、リィナは辺りを見回しながら呟く。


「しかし、悪趣味な部屋ねぇ」


「おいおい、嬢ちゃん。アンタ人質になった身なんだからさぁ、もっと怖がれば?」


 カッカと笑う長身の男。がっしりとした体つきだが、他の山賊と比べると細く引き締まっている。無精髭を生やし、タバコを加えたその男はこの賊のリーダー、デモンズその人だ。


「もっと悪人面で気持ち悪いのがリーダーかと思えば、アンタみたいのだなんて、拍子抜けね」


 ロープでグルグル巻きにも関わらず、よく動く口だ。


「あ、賊ってやっぱそんなイメージかぁ? 俺性に合ってねぇのかな?」


 苦笑するデモンズ。すると途端に表情を変える。


「で、シレンってのは強えのか?」


 強きものへの野心、そんなものを感じさせる鋭い目だ。


「……さあ?」


「……いや、『さあ』って」


「私、あいつがマジで戦うとこ、見たことないのよ」


「なんだよ、一緒に旅してんならそういう場面、ないわけ?」


「旅って言ったって、今日で三日目よ? まぁあいつとは旅以前の付き合いだけど……アンタに言う義理はないわ」


「ふーん、まあ、そうだな。じゃあやつが来るまで待つかぁ。まずは俺の子分達がお出迎えすることになるけどな」


 ニヤリと笑うと咥えていたタバコを一気に吸い、吐き出す。


「早く戦いてえなあ」

 

 

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