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『山賊デモンズキング②』

「ニナがまだ戻ってない!?」


 夜のコーストリバー。バーで男の声が鳴り響いた。

 焦りの表情を浮かべているのは金髪の青年、カインだ。


「ええ、夕方剣の稽古に行ったきりだわ」


 静かに口を開いたのは、茶髪で長髪の女性、シリアだ。


「さすがに遅すぎないか? 夜は魔物も増えて危険だ、探しに行こう!」


「そうね、森に残されたのがあなただったら見殺しにしてたところだけど、ニナなら仕方ないわ」


 笑えないジョークに顔をしかめるカイン。


「君の魔法に巻き添え食った回数を考えると、ジョークに思えないんだが……」


 そんなことを呟くと、剣を取り、バーをあとにした。



 ***



「とりあえず、今日はもう宿屋でいいか?」


 街に着いたばかりのシレンは、町並みを見回しながらリィナに問いかける。


「うーん。そうね、明日この子が目を覚ましたら話を聞きましょう」


 

 コーストリバーはここら一体の街の中では一番栄えていて、武器屋防具屋から始まり、占い、アクセサリーショップ、骨董品、服屋、仕立屋など、様々な店が立ち並んでいる。大きなギルドもあり、腕の立つ冒険者が傭兵として仕事を受けることもある。また4ヶ月に一度のコロシアムでは多くの強豪が集い、その腕を競い合う。夜である今開いている店は、バーとカジノ、宿屋くらいである。



「しかし広い街だなぁ。迷子になっちまうな、これじゃ」


「そうね、でも見たことないお店がいっぱいあるみたい! 明日少し歩いてみましょう?」


 にこっと微笑むリィナ。疲れているのか、いつもの元気は伝わって来ない。


「そうだな。しっかし、こんな広い街でカインを見つけるのは一苦労だな……」


 顔写真でもあれば早いのだが、そんな便利なものはない。

 そんな事を思い、とぼとぼ歩いている二人だが。


 どうやら街の奥から駆けて来る人物が二人。男と女、カップルだろうか。

 全く持って気にも止めていなかったが、横を通りすぎる時、男が驚いたような声をあげた。


「ニナ!?」


「えっ?」


 男の声に続いて女も声をあげた。どうやら目を丸くしてこちらを見ているようだ。

 何かと思ったが、抱きかかえている女の子を指した言葉だとすぐに理解した。


「え、ええと、この子、あなた達のお知り合いですか?」


 二人の目が、驚きの目から疑いの目に変わっているので、戸惑うシレン。


「ええ、ニナは僕達の大切なパーティですが。どうしてあなたが?それにニナのその格好は……」


 金髪の青年は一層眉をひそめ、シレンに疑いの目を向ける。


「ち、違うの! 私達、この子が山賊に襲われていたのを助けたんです!」


 しきりにリィナは弁解の言葉を入れる。


「山賊…? もしかして、《デモンズキング》のことかしら?」


 魔導師らしき茶髪の女性は怪訝な表情をしている。


「そうです。女の子一人に寄って集って暴行を加えるなんて許せなくて。まあ最初は興味本位の野次馬だったんですけど……」


「ちょっとシレン!」と、リィナはシレンを小突く。


「そういうことでしたか! 何とお礼を言ったらいいものか! 本当に感謝してます」


 金髪の男はさわやかな笑みを浮かべる。


「いえいえ、私達は当然の事をしたまでです」


 リィナはちょっと照れたように笑う。


「けど、デモンズキングに関わったのは少しやっかいだわ」


 困った表情を浮かべる魔導師の女性に「?」を浮かべてみるリィナ。


「やつら、筋金入りの粘着質なの。あなた達に報復に来ることは間違いないわ」


「……そうだ、僕達でかくまってあげるのはどうかな?シリア。元はと言えばニナを助けてくれたために奴らに目を付けられたんだ」


「そうね。私達が恩返しできるとしたら、それくらいしかないわね」


 そう言うと、女性はシレン達の方を見て話かける。


「そういうことなんだけど、しばらく私達と行動を供にしない?やつらが諦めるまで、あなた達と協力して戦うわ」


 どうしよう、と向き合うシレンとリィナ。自分達には使命があり、この街に来た。あまり寄り道している暇はない。ただこの広い街からターゲットのカインを探すにはそれなりに人の協力は必要だ。合理的に考えると、ここは一緒に行動しておくべきか。


「わかりました。ありがとうございます。俺は、シレン」


「私はリィナです」


「よろしくね、シレン、リィナ。私はシリア。あなたの抱いているその子はニナ、そして……」


「僕はカインだ、これからよろしく!」


 

「……!?」


 

 一瞬、衝撃のあまり言葉を失う。まさか目の前にいるのが”ターゲット”だなんて思いもしなかった。金髪で、銀の鎧をしている、確かに情報通りだ。しかしこの広い街、昼になれば何百何千という人が行きかう程の巨大な街で、最初に出会った人物がまさにその人だなんて、そんな奇跡のようなことが起こるとは。


「……あ、その驚きからすると、やっぱり僕の名前、知ってた? あーあ、やっぱり名乗らなければよかったなあ」


「そう思うなら少しは強くなりなさい。じゃあ、私達はそろそろ行くけど、あなた達はどうする?」


「俺達はこのまま宿屋に行こうと思います」


「そうか、僕らはいつもバーにいるから、明日の朝にでも顔を出してくれるかい?」


 頷くと、シレンはニナの体をカインに受け渡す。


「じゃあ、今日は本当にありがとう! また明日会おう!」


 カインとシリアは手を振り去って行った。



「……あの人がカインだったのか」


「思っていたのと、全然違ったわ。なんていうか、いい人」


「俺達は、あの人を”殺せる”のか……?」


 リィナは黙ったままうつむいた。


「今日はもう休みましょう、私、疲れた」


「ああ、そうだな。俺も今日は疲れた」



 二人は宿屋に向かい、その後何も話すことなく眠りについた。

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