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混沌の科学  作者: 藤原時照


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7/12

再会、そして――

 後藤は世界の仕組みについて歩きながら考え続けていた。

 すると、いつの間にか会社にたどりついていた。

 重いゲートを少しだけ開け、そこから中に入る。

 そして、閉める。

 ゲートの脇には守衛所がある。

 並行世界で三好たちはここに籠城中だという。

 後藤は三人の顔を思い出す。

 自分が孤独であることをひしひしと感じ、後藤は守衛所を見つめていた。

――これは夢で、気がつくと何もない真っ暗な空間に独り居るのでは?

 そんなことも考える。

 それは子どものころに見た夢。

 ひょっとしたら、母親の胎内にいたときの記憶なのかもしれない。

 幼い子が寝起きに激しく泣くことがあるのは、あの記憶が甦ったからではないか?

 そんなことを考えながら、後藤はかつて見た夢を思い出す。

――あの前に何かがあったような気がする。

 確かに何かがあった。

 恐ろしいが、この世の根本に関わる何かが。

 後藤はそれを意識する。

 意識すると、産まれる前に体験した何かを思い出せそうな感触がある。

 だが、それは思い出してはいけない――

――!!!

 突然の恐怖に襲われ、後藤はその思い出しかけた記憶を振り払う。

 それを打ち消すために、離れ離れになった仲間たちのことを考えた。

 強く念じるように。

 

 後藤は、ふと誰かに見られている気がして振り返った。

 だが、そこには誰もいなかった。

 この一年、世界が崩壊した理由を考えていると、誰かに見れていると感じることが何度もあった。

――高次存在がいるのなら、ホントに見られているのかも。

 後藤はそう考えた。

 それから――

「んなーお」

 気づくと足もとに猫がいた。

 キジ白。

 たぶん、いつか犬から助けた猫だ。

 腹が減っているのだろう。

 そう思い、後藤は荷物からツナ缶を出した。

 プルタブを持ち上げ、蓋をあける。

 塩分や油分が強すぎるかも。

 そう思いはしたが、たぶん猫も食糧難。

 一食くらいなら。

 そう思って、猫の前にツナ缶を置いた。

 ツナをむさぼる猫を見ながら、後藤は誰かと語り合いたいと思った。

 切実に。

「キミは……」

 後藤は猫の後ろに回った。

「ああ、キジ白君は男の子なんだね」

 後藤は猫相手に話し始めた。

 そのとき―― 

 また誰かに見られている気がした。

 だが、そこにはやはり誰もいない。

 再び守衛所に目を向ける。

 三好の言葉を思い出しながら。

 すると、そこには懐かしい三人の顔があった。

「まだ籠城中?」

 後藤は立ち上がりながら軽い口調で聞いてみた。

「後藤さーん」

 北川さんが守衛所を飛び出して来た。

「よかった」

 北川さんは後藤の手を取り、ぶんぶんと振り回す。

「二人の邪魔をしているみたいで、ちょっと居づらかったんですー」

 北川さんの言うことは、ちょっとずれているような気がする。

「ども、久しぶりです」

 山下さんがぺこりと頭を下げる。

「ちょうど後藤氏のこと話してたとこ」

 三好は笑顔でそう言った。緊張状態から解放されたからか、さきほど会った時の張り詰めた様子はなくなっていた。

――やはり思いが世界に作用している。混沌が世界を侵食している?

 そんな風に思いはしたが、後藤は自分の妄想を他人に話そうとは思わない。

 世界が壊れはじめているのだから、突飛なことを言ったところで誰も気にしないだろうが、後藤はどうしても体面を気にしてしまう。

――ところで、ここはどっちの世界なのだ?

 後藤の頭に疑問が浮かんだ。

 後藤のいた世界に三好たち三人が来たのか、あるいはその逆か。

 猫は――

 後藤はさきほどまでツナ缶をむさぼっていた猫をさがした。

 しかし、いなくなっていた。

 ツナ缶とともに。 

 グランドの方に目をやると、そこに答えがあった。

 そこにあったのは後藤の作った畑。

 トマトの赤が存在を主張していた。

 だが、猫とツナ缶は消えている。

 後藤のいた世界が新たに分岐したのだろうか?

「とりあえず、中に入ろう」

 そう言って後藤が一号棟に入って行くと、三人は警戒しながらついてきた。

 三人にとって、一号棟は敵地なのだ。

 だが、そんな彼らも、そこに誰もいないことを確認したら落ち着いた。

 四人は食堂に場を移し、お茶を飲みながら話し合う。

「えっ、あれから一年経っているんですか?」

 北川さんが声を上げた。

 彼女たちの感覚では、後藤が消えてから然ほど経っていないそうだ。

 後藤が消えてから、彼女らの世界がどうなったのかと言うと――

 技術部門のスタッフが消えていき、工場のラインで働く人たちが相対的に多数を占めるようになった。

 その結果、彼らが社内を牛耳るようになる。

 そのあと、彼らは仲間を呼んだ。

 ラインで働いていた人たちの多くは外国人。

 したがって、彼らが呼び寄せたのは彼らの同胞。

 地域の人たちが治安悪化の元凶と問題視していた外国人マフィアも含まれていた。

 彼らはいくつかのグループに分かれて抗争に発展した。

 日本人たちは、並行世界へ移動したのか、あるいは殺されたのか、どんどん消えていった。

 当初、三人は職場の同僚たちと一号棟にいた。

 だが、同僚たちは消えていき、その一方で外国人マフィアなどの勢力は一号棟へと支配領域を拡大していく。

 その過程で三人は追われ、一時的に守衛所で籠城していたという。

 そのとき、三好が並行世界を移動し、食料と武器を持って帰ったのだ。

 現在は、威嚇射撃で一時的な平和が訪れ、逃げる先を相談しているところだったという。

 

「武器と食料を渡してから一日しか経ってないんだ」

「そう。あれ、マジで助かった」

 武器と食料を渡して一日。

 彼らの感覚では、後藤が消えてから一週間。

 後藤が孤独に過ごした一年の間に、三人の時間は一週間しか経っていないという。

「こっちは、みんなが消えてから一年は経っているんだけど」

 空間座標だけでなく、時間軸でもずれがある……。

 後藤の頭には、この事態をうまくこじつける理屈が思い浮かばなかった。

 結局、混沌が答えなのかもしれない。

「とりあえず、これからどうするか考えようよ」

 山下さんが黙り込んだ後藤たちに向けてそう提案した。

「そうだね。こっちは一年間サバイバル経験を積んだから頼ってくれていいよ。畑も作ったし」

「すごーい。あとで畑見せてくださいね」

 北川さんは楽しそうだ。

 雰囲気を暗くしないよう無理をしているのだろうか。

 そんな彼女の態度は、後藤がかつて知っていた誰かを思い起こさせる。

 それが誰だったのかまでは思い出せないが。

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