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混沌の科学  作者: 藤原時照


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5/12

暗闇と孤独

 缶詰各種はダンボール箱に入れた。

 銃と刀もそこに突っ込んだ。

――入れすぎたかな?

 持ち上げてみると、腰に来そうな重量になっていた。

 ダンボール箱も底が抜けそうになっている。

 だが、何度もこんなところに来たくない。

 そう考え、後藤はそのまま持って帰ることにした。

 事務所から出てゲームセンターのエリアに入ると、後藤は段ボールを床に降ろした。

 床はすべすべのタイル張り。

 段ボール箱は押していけばいい。

 だが、床が滑るのはゲームセンター内だけ。

 ゲームセンターの出口に着いて段ボール箱を持ち上げてみたが、やはり会社まで運ぶのは無理だと確信した。

――カートが欲しい。

 駅のショッピングモールには、確か旅行用品店があったはず。

 そこに行けば、たぶん旅行用のカートがある。

 そう思いつき、後藤はダンボール箱を出入口手前で下ろした。

 懐中電灯もそこに置いた。

 誰も来ないとは思うが、ゲームセンターの自動ドアは一応閉めておく。

 そして、駅ビルのショッピングモールへと向かった。

――明るい。

 駅前のペデストリアンデッキに出ると、日の光が燦燦と降り注いでいた。

 さきほどまでいた暴力団事務所の暗闇とは対照的。

 知らず知らずのうちに力の入っていた首や肩の筋肉が緩んでいく。

 深く息を吸ってからゆっくりと吐き出す。

「よしっ」

 そう独り呟くと、後藤は誰もいない駅ビルへと入って行った。

 ショッピングモールには日の光が射し込んでいる。

 さきほどまでの暗闇とはちがう。

 探索するのに支障はない。

 それに、旅行用品店がある場所は知っている。

 後藤を阻むものは何もない。

 後藤には、周囲を見回す余裕が出てきた。

 視覚による情報が豊かに流れ込んで来る。

 逆に、聴覚からの情報は少ない。

 モール内はあまりにも静かだ。

 いまのその場所には、作動する機械の音はない。

 生命の気配もない。

 聴こえるのは後藤の足音だけ。

 そう思っていたら――

「カタっ、カシャン、カラカラカラ……」

 大きな物音が聴こえた。

 入る時にドアを開けたから、そのときに気流が生じて――

――きっとそうだ。

 後藤は理由をこじつける。

 ここは明るい。

 さきほどまでいた場所とはちがう。

 ちがうんだ。

 だが、ここは人が消えてしまった常識の崩れた世界。

 どんなオカルト現象が起きてもおかしくない。

 そんな考えが後藤の頭をよぎる。

 同時に、何かに見られている気がした。

 逃げ出したくなる気持ちが沸き上がってきたが、後藤はそれを押さえこみ、どうにか旅行用品店にたどりついた。

 アルミ製の折り畳みカートは、店に入ってすぐの場所に置いてあった。

 それが欲しかったものだ。

 後藤はそれを取って店を出る。

 なんだか背筋がぞくぞくするから、自然と小走りになってしまう。

 モールを出ると、後藤は心の底からほっとしていた。

 何かに見られているような感じもなくなっている。

――これがあれば缶詰をもう少し持っていける。でも、もう暗い中を戻るのは……。

 今日のところは、ゲームセンター入口に置いた分だけを持って引き上げることにした。

 

 カートを引きずって帰路に就く。

 少し進むと、そこは飲食店が並ぶ小道。

 会社の飲み会などでよく来た場所だ。

 三好たちと来た店の前まで来ると、思い出がよみがえる。

 後藤は孤独を強く感じた。

――もう彼らとは会えないのか。

 少し先には、いつも〆で入るラーメン屋もある。

 かつて、そこで三好たちとバカ話に花を咲かせた。

 思い出に浸っていると――

 ふと気づくと、そこには三好がいた。

「よっ、ひさしぶり」

 後藤は三好に声をかけた。

 嬉しくてハグしたいような気持ちではあったが、なんだか照れ臭く、後藤は平静を装うことにした。

 一方で、三好は混乱しているようだった。

 会社で籠城していたら、突然ここに来ていたという。

「いまは課の独身三人で会社の守衛室に籠城中なんよ。外国人のグループに襲われて。気づいたらここに。マキちゃんと北川さんが……」

 マキちゃんは三好の彼女で山下真紀。活発で物事をはっきり言うことを好む。男にとっては、あまり異性を気にせず気楽に付き合える人だ。北川さんは事務の女性。真面目な人で、一部の若手社員からはお局様扱いされている。でも、空気の読めないところのある彼女は、お局様扱いを気にすることなく、明るい雰囲気を保っている。後藤は、なんとなくそんな彼女に魅かれ、誘ってみようかと思ったこともあった。

 三好はその二人と籠城している最中だという。

 だから、三好は女性二人が気になって落ち着かない。

 後藤は話を続けてようとしたが――

 三好の姿は薄くなり、向こうが透けて見えるようになっていく。

 元の場所に戻ろうとしているのか。

 そう思った後藤は、愛用の鋼管だけ取り出し、カートを三好に押しやった。

「三好、これ持って行け」 

 それを受け取ったタイミングで三好の姿は消えた。

 再び静寂が押し寄せて来た。

 このあたりには生き物がいない。

 飲食店が生ごみを出さなくなって一年。庭付き一戸建てや木々の生い茂る公園がある会社付近とはちがい、駅の周りは完全なコンクリートジャングル。人がゴミを出さなくなったらカラスもネズミも生きていけない。ここには餌となる木の実はないし、虫もいないのだ。

 聞こえるのは風の音だけ。

 ひとりでいることが心細くなった。

 だが、今回の目的は缶詰の確保。

 もう一度、あの暗闇の事務所に行かねばならない。

――またもどるのか……。

 その後、後藤は走ってカートを取りに行き、その勢いで、また缶詰や武器を同じだけ揃えた。

 ひとりを意識してしまうと、暗闇の中は一層心細かった。

 カートに荷物を載せる。

 あとは急いで外に出たい。

 だが、ここは暗すぎる。

 走るのは危険だ。

 誰もいない世界で骨折などしようものなら大変なことになる。

 急く気持ちを抑え込み、後藤は慎重に歩を進める。

「ガサっ、タンっ、ガサガサ――」

 クレーンゲームの筺体の中で、少し前から何かが動く音が聴こえている。

――気のせいだ!気のせい!

 気のせいでないのは明らかだが、後藤は自分にそう言い聞かせ、暗闇のなかを進む。

 何度も筺体にぶつかった経験から、暗くても進む道はある程度憶えている。

 それでも後藤は慎重に進む。

 中ほどまで進むと、屋外から差し込む光が仄かに届き、視界が少し明るくなった。

 歩調は次第に速くなり、出入り口が見えたあたりからは小走りになった。

 ドアは開いたまま。

 後藤はゲームセンターから逃げるように飛び出した。

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