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悪鬼羅刹は斯くも征く  作者: 素人Knight


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第二章 呪文基礎学④

 続く二限目は錬金術の授業。適当な人数で班を組むよう指示を受けた生徒たちが、鍋の置かれた机の周りに着席していた。


「で、なんで君らと同じ班なんだ」


 生真面目そうな少年、ルイス・ダリウシュが文句を漏らす。眼鏡越しに細めた目で見つめる先には、サクヤとレイリア、それからエゼリット。


「それはこっちのセリフ。なんでアンタらみたいな落ちこぼれと……」


「誰が言ってるんだ! お前、自分がさっきの呪文で何をしたか覚えてないのか?」


「ちょ、ちょっと失敗しただけでしょ!?」


「まぁまぁ二人とも。仲良くやろうよ」


 見かねたレイリアが仲裁に回る。本来であれば事前に知り合った面子で班を組むべきところ、絶望的な社交性の無さにより孤立していた三人に声をかけて班を作った張本人として責任を感じたのだろう。


「先が思いやられるな」


 その様子を見たサクヤがそんな言葉を零す。


「う、うん。それあなたが言っちゃうんだ……」


「皆ぁ、席に着いたかなぁ~」


 黒板が設置された教壇に立つ若い男性教師が気の抜けた声を上げる。


「改めて自己紹介を……するよぉ……。錬金術を担当するぅ、マクガリッド・ハスブーンだよぉ。皆がさっき受けた呪文基礎学のメイガス先生よりは厳しくないからぁ……安心していいよぉ。あ、今のは本人に行っちゃだめだよ……」


 開口一番罵られることはなかったと、まずは一安心する生徒一同。


概要ガイダンスばっかりでもつまんないだろうしぃ……今日はさっそくぅ、魔法薬の調合をしてもらうよぉ……」


 ハスブーンが調合する魔法薬とそのレシピを口頭で伝える。街の魔法薬局でも販売されている一般的な魔法薬で、火炎呪文等で受けた火傷に塗ると高い効果が見込める軟膏だ。


 魔法薬の素材となる薬草や溶媒、粉末等を配り終えたハスブーンが調合開始を合図した。


「こうなったらこのメンバーでやるしかない。いいか、お前ら。勝手な行動はするなよ!」


 三名のことを一切信用していない様子のルイスは強い口調で告げる。予習してきた内容を思い返しながらレイリアが口を開く。


「とにかく、まずは役割分担だよね。この軟膏の調合で大切なのは火加減だったはずだけど……」


「それは僕がやる」


 初等呪文すらまともに発動できないサクヤや、呪文の制御がままならないエゼリットは端から勘定に入れずルイスが役割を買って出る。


「Mr.ヒイラギ、君は一定の速度で鍋を掻きまわし続けてくれ。Ms.ペトラルカとMs.カーネルイスは薬草をすり潰して、僕の指示で鍋に入れてくれ」


「レイリアでいいよ?」


「俺もサクヤでいい」


「私も家名で呼ばれるのは好きじゃないわ」


 三名の言葉にルイスは頷いて、


「なら僕もルイスでいい。始めるぞ」


 杖先に炎を灯し、溶媒を入れた鍋を加熱し始めた。


 初日の授業でそこまで難しい課題は出ない。そんな甘い想像を先の授業で打ち砕かれた面々は、真剣な面持ちで調合を進めていた。


 必要最低限の言葉と鍋をかき混ぜる際に出る硬質な金属音だけが鳴り続けた。調合に必要な時間はそこまで長くなく、開始から十五分程度で軟膏を完成させる班が出始めた。


 ひときわ慎重に作業を続けたサクヤたちの班も例外ではなく、手順の最終段階で粉末を溶かした液体を鍋に入れるのみとなった。そうなれば流石に緊張する必要はないと、四人の緊張が僅かに弛緩する。が、それがダメだった。


 皿に積まれた粉末を適量掴み取り水の入ったカップに注いで希釈したそれを鍋に入れよとしたレイリアの背後で、悪意が詰まった呪文が放たれた。


「――熱よ灯れ(フォーティア)


 それ自体は大した意味を持たないほど出力を制限された呪文だ。呪文本来の効果である火炎は生まれず、微弱な熱量が飛ぶだけだった。


 だが飛んだ場所が悪かった。というより、そこを狙って撃たれた呪文だった。


「熱っ……!」


 だが微弱とはいえ、咄嗟に手を放してしまう程度にはカップを熱する効果があった。


「おっ――」


 混ぜ棒を動かすサクヤが咄嗟に掴もうとするも間に合わず、カップごと鍋に落下した。


「ちょっと誰よ、ふざけた真似したのッ!」


 呪文が飛んで来た方向をエゼリットが振り返るが、当然のごとく犯人は既に杖をしまって隠れている。


「――っ、マズい離れろ!」


 困惑する四人の前で、紫に変色した溶媒が勢いよく噴き出した。その一滴が一番近くにいたサクヤに飛ぶ。混ぜ棒を握る手に付着すると音を立てて焦がし始めた。


「うぉ、マジか……」


「ちょっと、アンタ大丈夫!?」


 調合していた薬品は火傷に効果がある軟膏。どう塗りたくってもそんな症状を起こすことはないが、火炎呪文によって変質した液体が混入したことで変質してしまったのだ。


 薬品を調合する際には、調合する素材の種類や状態には繊細な扱いと細心の注意が必要となる。でなければ、魔法薬品は容易に劇薬に変異してしまうからだ。


 出力が制限されていない火炎呪文であれば、あるいはこうはならなかっただろう。誰でも使える初等の呪文とはいえ、希釈された水溶液を蒸発し切るくらいの火力があるからだ。もっともそれではレイリアの大火傷は避けられなかった訳だが。


 溶媒が噴き出す鍋から離れた四人が、事態の収拾を期待してハスブーンの方を見る。しかし、やはりと言うべきか、


「…………」


 陰気な笑みを浮かべて見るだけで手を貸す様子はない。エゼリットが呪文を暴走させたときもそうだったが、課題の失敗で起こる事態には各々対処させるのがここの方針なのだ。


「ちょっと、あれヤバくない?」「早くどうにかしろよ」


「こっちに飛ばさないでよ」「またあいつ等かよ」


 そうなった原因を知らない生徒たちは我関せずといった様子で四人を遠間に責めるだけだ。


「と、とにかく温度を下げないと……」


「待てレイリア! この場合は最初に蓋を――」


 ルイスの指摘は正しく、急激な温度変化による溶媒の噴出に対しては逆方向への温度変化を促す対応は安易且つ愚策である。急激に気化し体積が増えているとはいえ、溶液の量には上限があり、噴出は一時的なもので数秒と立たずに鎮静化する。


 故にその間は鍋に蓋をして適当な呪文で自分の身を守ればそれでいい。


「――えっ!?」


 だがその静止が届くよりも早くレイリアの呪文が完成してしまった。氷結の呪文が鍋に直撃し急激に温度を下げた。


 呪文の軌跡を辿るように噴き出る溶媒が、冷気を放ったレイリアへ飛ぶ。


「……チッ」


 サクヤは咄嗟に横にずれレイリアの前に飛び出した。体で受け止める気だと察したルイスが、急いで杖を向ける。しかしこの状況をどうにかできる方法は思いつかず二の足を踏んでしまう。その直後――


「――あっ?」


 サクヤの眼前に小さな球状の粒がいくつか現れた。それが何らかの植物の種子であり、隣の机で調合を行っていた銀髪のエルフが投げたものであると気が付いた時には、彼女の呪文が紡がれていた。


植え育め(フィート)


 落ち着いた声色で唱えられた呪文が種子に直撃。一瞬で発芽すると、呪文に込められたイメージ通りに急成長する。太く育った蔦が互いに絡み合うと、鍋を包み込むドーム状に仕上がった。


 蔦のドームは鍋を完全密閉する。直後、蔦を焦がす音が鳴りだし、焦げで崩れた蔦のドームの隙間から漏れ出した白い煙が天井に登る。


 数秒経ち音が収まると、役割を終えたドームがバラバラに解け、役割を終えた蔦が塵と化して消える。


 その様子を見ていた生徒たちが騒然とした。


「うぅん……いい対処だねぇ。君ぃ、名前は……?」


「リュカ・アストレイブです」


「は、ハハァ……使った植物は君が独自に改良……したものかなぁ? 使い終わった後の処理も考えてるとは、とっても優秀だねぇ……」


「それはどうも」


「ハァ……でも、そっちの子たちはもうちょっと勉強が……必要かなぁ……?」


 ハスブーンはサクヤたちに視線を向けそう言った。


「う、うぅ……すみません……」


 誤った判断で事態を悪化させたレイリアが反省の表情を浮かべる。ハスブーンの言葉に対してエゼリットが異を唱えるが、


「待ってくださいハスブーン先生! 今のは誰かが邪魔をしたから……」


「まてエゼリット。それは――」


 それがかえって自らの認識の甘さを指摘する口実になってしまった。


「ならぁ……君は死ぬときもそうやってぇ……誰かのせいにするのかなぁ?」


「そ、それは……」


 魔法使いの世界に限っては正論となる言葉を叩きつけらえたエゼリットが絶句した。


「おっと……それじゃぁ出来た人はぁ……僕に軟膏を渡しに来てねぇ……。出来栄えを見るからぁ」


 真っ先に持って行ったのは、エルフの少女だった。


「うぅん……いい出来だねぇ。君たちにはぁ、満点を上げるよぉ……」


「どうも、先生」


 特に胸を張るでもなくエルフの少女は淡々と答えた。


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