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22.魅惑の宝石

 オレリーは満面の笑みで、執事のアルバンにカーテンを閉めるように命じた。

 

 「この石は、ロマンティックで魅惑的な宝石なの。アルバン、蝋燭の火をここへ」

 

 アルバンは、オレリーから前日に指示されていた通り、オレリーの手の平の上の宝石に蝋燭の灯りを近づけた。

 

 すると、みるみる宝石の色がエメラルドグリーンからルビーのような赤に変化した。

 

 「なんて不思議なんでしょう!」

 

 「変化するなんて、信じられないな……」

 

 オレリーを除く全員が、宝石の不思議な現象に驚いた。

 

 「オレリー、これは魔石か?」

 

 「お父様、これは自然の恵みであり、自然の神秘なのです。明るい太陽光の下ではエメラルドのように青緑に、夜では蝋燭の灯りの下でルビーのように赤に変化するのです」

 

 「驚いたな……しかし鉱石ならば、金や鉄のようにいずれは枯渇するということか?」

 

 「ええ、お父様のお仰る通りですわ。そして、採掘できる場所も自然の条件を考えるとシルヴァーヴェルでしか採れないかと。ですから、わが家で独占し帝都に流通させれば、かなりの事業規模になるはずです」

 

 その話を聞いて、皆、あまりにも不思議な宝石の出現と、オレリーの大きな事業構想に黙り込んだ。

 

 「だけどオレリー、ダイヤモンド以外にこれほどの貴重な宝石の独占を、皇室が黙っていないのではないかしら」

 

 「お母様が仰る通りだ。陛下はともかく……ローズ皇妃殿下がどんな因縁をつけてくるか。その事業がオレリー主導と分かれば、また狙われる可能性もあるだろう」


 (ただでさえ『光の精霊セリュネア』の加護を授かったことを隠さねばならないのに……注目を集めてしまったら)


 「これ以上、お父様やお母様に心配を掛けるな。それにお腹の子を守るためにも、いっそ『顔だけ令嬢』と思われている方が安全じゃないか!」


 妹を心配するあまり、ルシアンは強く反対した。

 

 「そうね、お兄様。でも、そうして無力で弱いままで守ることができるの? 奪われるだけよ! それに、賭けだけど……考えがあるわ」

 

 「……あのー、ワシらはお嬢さんに協力したいと思っておる。この不思議な石を前に、職人魂がウズウズしているということもあるが……お嬢さんは本気じゃ」

 

 「ロワジ様……ありがとうございます。軌道に乗せるまで長い道のりになりますが、どうぞ宜しくお願いいたします。販路の開拓や販売は、私にお任せ下さい」

 

 「それでは、ワシらは採掘から加工までを担おう。ドワーフの得意とするところじゃからな。ところで、この宝石の名前はどうするのじゃ?」

 

 「実は、もう決めているんです。発表は、社交界へ舞い戻る時にお披露目致しますわ。それまでは、この事業は秘密裏に進めましょう」

 

 「お嬢さんは、お披露目の時期は決めておるのか?」

 

 「ええ、三年後にお披露目いたしますわ」

 

 「三年後か。ルシアン……その期間があれば、事業の整備や根回しも十分できそうだな」


 「父上まで……もう! わかりましたよ。オレリーを手伝えばいいんでしょ!」

 

 「あら、お兄様、国境騎士団のお仕事もお忙しいのに、サポートして下さるんですか?」

 

 「もうお前には降参だよ……可愛い妹のためだ。それに、帝国の守護と領地経営ができてこそ、一人前の当主だからな。これしきのサポートくらい何ともないさ」

 

 「私たち兄妹も微力ですが、お嬢様のお力になりますよ!」

 

 「サラ、サミ、ありがとう」

 

 楽しい談笑の時間も過ぎ、そろそろドワーフたちが暇をしようとしている中、ビノがオレリーに何か話したそうな素振りをしていた。

 

 それに気付いたオレリーは、そっと歩み寄り小さな声で尋ねた。

 

 「どうしたのビノ?」

 

 「えっと……さっき食べたクッキーをシャナとジェロにもあげたいんだ。でも、そんなこと言ったら父さんに怒られるから」

 

 「優しいお兄ちゃんね……サラ、さっきのクッキーをたくさん包んであげて。内緒でね」

 

 雰囲気を察したサラは、目立たないようにサッとクッキーの入った包みを3つ用意して来た。

 

 「お姉ちゃん、ありがとう! えっと、あと、お姉ちゃんに教えたい事があるんだ。クッキーをくれたお礼だよ」

 

 「うふふ、ありがとう……何を教えてくれるのかしら?」

 

 「お姉ちゃんが付けてる指輪から、その指輪と繋がっている命を感じるんだ。悲しい感情……危険が近くにあるみたい」

 

 「えっ、ビノもオーラを感じることができるの?」

 

 「うーん、僕はオーラが何かは分からないけど、精霊セリュネア様の声が聞こえるんだ。だから、あの日もセレナ湖に……でも、声はお姉ちゃんの指輪から聞こえたんだ。それで、僕、びっくりして……」

 

 「ビノ、打ち明けてくれて、ありがとう」


 帰って行く馬車を眺めながら、オレリーはビノの話に嫌な予感がした。

 

 「まさか、ロシュー……」


 オレリーは、ドワーフを見送った後、執務室に向かう父を呼び止めた。

 

 「お父様……」

 

 言い淀むオレリーに、ジャメルは優しく執務室に促した。

 

 「どうした? ここなら誰も居ないから、心配せずに話しなさい」

 

 「ロシューに何かあったのですか?」

 

 父の表情が少し強ばったことに気付いた。

 

 「急にどうした? もうオレリーの夫ではないぞ……その子の父ではあるが」

 

 「お父様にも話しておきたいんです。ロシューとこの子を愛しているから、今は……離れたのです」

 

 ジャメルは、娘の思いもしなかった言葉に動揺した。

 

 「なにを……あの男の側にいれば、お前もその子の安全も脅かされる。それを親として許せると思うか?」

 

 「お父様、ごめんなさい。それでも、愛することを諦めたくないの! ロシューとこの子を守りたい、共に生きたいの」

 

 「認めることはできない。まだ公にはなっていない情報だが、アレクサンドル公爵は陛下の命でリッジ戦地へ赴くことになった。今は休戦中とはいえ、異民族の動きがきな臭くなっているようだ」

 

 南部のリッジはリッジ侯爵家の領地だが、長きに渡って異民族エヌップ国からの侵略と停戦を繰り返しているデリケートな地域だった。

 

 「えっ……どうして! ずっと停戦していたはず」

 

 「スタニア王国がエヌップ国と手を組んだようだ。シルバーヴェル家との縁も断たれた公爵を戦地に送れば、一気に皇太子殿下の勢力が削がれてしまう……陛下は一体何をお考えなのか」

 

 (スタニア王国はローズ皇妃様の母国だわ。ロシューが危険な目に遭ったら……何も出来ないなんて。でも、ビノの話……この指輪が何らかの力で、ロシューと繋がっているのかしら)

 

 ジャメルは、黙り込んでしまったオレリーを心配し、サラを呼んで寝室に連れて行くように頼んだ。

 

 オレリーがサラに連れられ執務室から出ると、カーテンの裏からルシアンが姿を現した。

 

 「父上、申し訳ありません。聞くつもりはなかったのですが、出るタイミングを逃してしまって……」

 

 「お前がそこに居たことくらい気付いていたぞ。まぁ、なんだ、オレリーがあそこまで決心してるんだ、応援するしかないだろ」

 

 「父上も甘いなぁ。母上は、最初からオレリーの本心にお気付きのようでしたが」

 

 「そうなのか……いつも、セシルには敵わないな。とにかく、今は無事に子供が生まれることを祈ろう」

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