イレギュラー!
日常系って人気無いですよね、でもハートウォーミーな話が好きなんです
仕事中、ふとした時に思いつくシチュエーションにストーリーとキャラクターを
肉付けして背景を描写する、この手法しか今のとこ持ち合わせていないのですが
なるべく山あり谷あり、読み味のある物語になるよう努力してます
温かい目で読んでいただければ幸いです。
〈エミちゃん?エミちゃん聞いてる?〉
「あ、あぁ何??」
昼食後の食堂でのいつもの集まりだが、エミの頭の中
には朝の川本の言葉が繰り返されていた
〖今日のメイクとっても決まってる、そっちも頑張って
!〗
〈自動車学校の申し込みなんだけど、二人なら10,000
円割引が効くの〉
『へ~そうなんですね?』
〈ちなみに三人なら15,000円割引だよ(笑)〉
『むむむむっ!!!』
ミキが反応を示したがどうも悩んでいるようだ
「ミキちゃんも一緒に通う??」
『む~~~悩みますぅ~』
〈ミキちゃんは原付もあるし困ってはいないもんね、、〉
『そうじゃなくってぇ…資金面で、、、(笑)』
「あ~なるほど!そこで悩んでるのね」
〈そういう事か~~〉
などと話し込んでいると
〖相変わらず楽しそうだね三人さん〗
川本がひょっこり現れた
〖ここ座って良いエミさん?〗
「あ、ど、どうぞ」
川本はエミの横の席に腰を降ろすとカップのコーヒーを
一口啜って口を開いた
〖中免の作戦会議??〗
『そうなんですよ~エミさんと晴子さんは一緒に入校する
んですけどアタシどうしようかな、って』
〖何か問題があるの??〗
『単純に資金面です、、(笑)』
〖なるほどね(笑)、そこは頑張るしかないけど、当面必要
が無いなら無理しなくても良いんじゃない?〗
『そうなんですけど~アタシ友達と一緒に原付免許取りに
行ったんです、今でも一緒に原付で買い物行ったりする
んですけど、いい思い出なんですよね…』
〖あ~分かる、それはちょっと考えちゃうよね…〗
『せっかくの機会だから一緒に通いたいんですよね~』
全員が(ん~~)と頭を悩ませる
『免許取ってもどうせバイクが買えないんですよね…(笑)』
〖それなら良い話があるよ?〗
全員が川本の方を見やる、すると川本は意外な事を口走
った
〖オレのセローで良ければ売ってあげるよ〗
『!!!!!!』
〈!!!!!!〉
「!!!!!!」
全員が驚いて声が出なかった、すぐに我に返ったミキが
『川本さんセロー売っちゃうんですか~??』
〖正確には買い替えを考えてる、って事だね、オレのより
新しい型で250㏄が出ててね、いずれ変えようと思って
た〗
川本のセロー225!エミにとっても魅力的に見えた、正直
ミキがうらやましくて仕方がない
〖それにね、急いでないんだ、だからミキちゃんが資金貯
めた後の都合の良い時でいいよ〗
〈これ以上ない話だねミキちゃん!〉
「ホント!羨ましい」
『これは行くしかないですね!』
ミキがやる気を出してきた、だがナイスガイ川本はここでも
ナイスガイっぷりを発揮する
〖ミキちゃん無理してない?無理があったら都合の良い時
で良いんだよ?〗
「そうだよ、せっかくこう言ってくれてるんだから」
だがミキのこだわりは強いようだった
『エミさんと晴子さんと一緒に通う、今この時が大事なん
です!』
どうやら一時の感情に流されている訳ではなくずっと悩ん
でいたようだ、川本の言葉が背中を押したのだろう
〖こういうのは思い切りも大事だしね、ミキちゃんの決断
を尊重しよう〗
〈アタシも愛しのAPEの為に少し節約生活に入ってるしね〉
「実は私も、ちょっと倹約してるの」
〖みんな本気なんだね~バイク乗りとしては嬉しいよ〗
〈みんなで免許取ってスイーツツーリングとか行きたい
ね〉
『良いですね~名古屋とかに足伸ばすにもバイクなら楽し
そう』
「おススメの和菓子屋さんも少し遠い所が多いしね…」
〖いいね!その時はぜひ混ぜてよ!〗
川本はすごく乗り気のようだ、晴子もミキも川本となら難
色を示すことも考えられない
にわかに明るい未来を思い描くエミの思いとは裏腹に、楽
しい時間は過ぎるのも早いようで、アッと言う間に昼休み
が終わってしまった
〖休み時間終わっちゃうか~、また仲間に入れてね、それ
じゃ〗
挨拶を残し去って行く川本の後ろ姿に小さく手を振りなが
ら、エミは改めて中型免許取得への意欲を燃やすのだった
「オ~イ!浜崎~」
係長の岡田が浜崎徹を呼びつけていた、浜崎は”クソ”が
付く程のマジメで上司の言う事は良く聞く、が、あまり要
領の良い方ではなく、部長や係長に叱責されている場面が
良く見られた
「それが明日までらしいんだよ、人手があればなんとか出
来るか?」
係長の言葉にエミも晴子もミキも耳を傾けていた、何やら
不穏な会話だったからだ、少しイヤな予感がしてくる
「伊藤さん長坂さん園田さん、ちょっと来てくれるかな」
「ハイ」
〈ハイ〉
『ハイ』
三人がそれぞれまばらに返事をした後、岡田の机の周りに
集合した
[お得意さんの○○スーパーでチラシをいつも注文受けて
るのは知ってるだろう?]
皆がうなづく、それを見た岡田が後を続ける
[すでに刷り終わって納品まで終わってるんだが一部値段
の変更が入って今急遽刷り直してるんだ]
かなりキナ臭い内容のようだ、皆一様に覚悟した面持ちだ
[申し訳ないんだが二人一組になって各新聞社の支部に刷
り終わりの差し替え広告を配ってくれないだろうか?]
〈つまりは、”残業”ですね?〉
[スマンがそうなる…]
岡田が言い終えた頃、部長の太田がデスクに戻ってきた
《みんなすまないね、岡田くんから話は聞いたと思うが、
そういう事情で、うちとしても大事な昔からのお客さん
のピンチだ、なんとか協力を頼めないかな?》
「分かりました」
〈しょうがないですよね〉
『さっさとやっつけちゃいますか!』
《助かる、昨今の物価上昇からして今後も起こりうる事例
だが君たちの私生活も配慮してなるべく今後は起こらな
い方策を取ってゆくつもりだ》
太田悟志は絵にかいたような”真面目”さで、その点では浜
崎と類を同じくしているのだが、こちらはさらに石橋を叩
いて渡るような慎重派でミスとは無縁の存在だった
だが、人に対する態度は一定で、例え上司であってもその
態度が軟化する事はなく「常に一定」なのだ、それでいて
話が通じない訳でもない”尊敬出来る上司”だった
その、非の打ちどころのない部長に頼まれては一同は承服
せざるを得なかった
《では○○新聞社と✕✕新聞社の6支部は浜崎と伊藤さん》
《▲▲新聞社と◇◇新聞社の7支部は川本と園田さん》
《△△新聞社と■■新聞社の6支部を岡田くんと長坂さん
で、それぞれ回ってくれ、刷り終わりの広告はすでに小
分けしてる最中だ、受け取ったら即回ってくれ》
(ハイ!)全員の気合の入った返事が響いた頃、川本が外
周りから帰還した
《川本、状況は電話で説明した通りだ、お前は園田さんを
連れて▲▲新聞社と◇◇新聞社を頼む》
〖分かりました、じゃあミキちゃんよろしくね〗
『ハイ!ちゃっちゃと終わらせましょう!』
ミキのこの言葉を契機に一同は慌ただしく事務所を後にし
た、エミは岡田とのコンビが正直不満だったが、これも仕
事だ、と割り切る事にした
岡田は社内でも嫌われ者で、今回のようなイレギュラーは
別として、無駄な残業が発生した時は多くが岡田の不手際
というか個人的な事情がからんだ場合が多い
岡田次郎は典型的な”上司に媚びる”社員なのだ、その為、
安請け合いした仕事が部下に回ってくる事例が多々あった
[ではこちらのチラシで差し替えという事で~宜しくお願い
します]
最後の差し替えチラシを受け渡した時には20時を回ってい
た、会社に戻れば20時30分にはなるだろう
「やっと回り終わりましたね」
エミの言葉に岡田は
[すまなかったね、こんな遅い時間まで、部長もおっしゃ
っていたが、今後はこうならないよう努力するよ]
珍しく気遣いのある言葉をかけてくれるのだった
「仕方ないですよ、係長は何も悪くないです」
気遣いには気遣いを、健全な上司と部下の姿だった
新しい岡田の一面を垣間見て、エミはたまには残業も悪く
はないかなと思っていた
会社に戻ると浜崎と晴子のコンビがちょうど帰社してくる
ところだった、川本とミキはまだのようだ
〈おつかれ~ミキちゃんとこはまだみたいね〉
「あそこは一つだけ遠い支部があるからね~」
〘長坂さんもおつかれさま、伊藤さん今日はありがとね〙
浜崎が二人に礼を言う、クソ真面目な浜崎は決してエミの
事も晴子の事も、ミキのような新卒も下の名前で呼ぶ事は
なかった、可哀そうだが親近感がわかない代わりに好感度
とはまた違った「真面目」という印象がついてまわる
などと話している間に川本たちの車が帰ってきた
『ただいま~、おつかれさまです~』
「おかえり」
〈おかえり~〉
〘おつかれさまです〙
一様にそれぞれの特徴のある挨拶を済ませていると川本が
車から降りてきた
〖ミキちゃんご同行ありがとね、皆さんもおつかれさま〗
(おつかれさまで~す)
〖浜崎、お客さん怒ってなかった?〗
〈浜崎さんお客さんに人気あるから全然大丈夫でしたよ♪〉
すかさず晴子が答えた
〖さすが浜崎!お客さんに信頼されてるな〗
川本はさすがナイスガイだけあって部下のフォローが上手
だ、いつも浜崎が岡田に叱られた後、川本がフォローして
いるのを三人はよく目にしていた
「まぁ今日のは中免の為の臨時収入だと思いましょう♪」
エミが言うと皆
『そうですね!(笑)』
〈フフッそうね♪〉
〖アハハ!いい事言うねエミさん〗
などと笑い飛ばすのであった、傍で話を聞いていた浜崎が
〘長坂さん中型免許取るの?〙
と驚いた表情で聞いてきた
「えぇ、良いバイクを売ってもらえる話があって」
と答えると、しきりに意外そうな表情で頷いていた、ミキ
が
『アタシと晴子さんも一緒に取るんですよ~』
と言ったが、聞こえているのか聞こえてないのか分から
ない様子で歩いて行ってしまった
川本が
〖さぁ、オレ達も報告して帰ろうか〗
と言うと
『お~~~~!!』
と元気よくミキが歩き出した、後に続いてエミ達も歩き
出す、とにもかくにも長い一日が終わった
今作は作者がTikTokで見かけた「詐欺メイク」にヒントを得て思いついたストーリーとなります
多分に作者の社会人生活と私生活が反映された内容となります、読者の方が「ん?」と思う社会描写が
ございましたら、それは作者の過ごした社会背景との相違と受け取って下さい
メイク技術、用語などはネットの情報を元にしておりますが、なにぶん作者は
「野郎」ですので、この部分、なるべく寛容にご容赦くださると幸いです。