浜崎の結論…
トヨタ○○自動車学校には、教習の様子を見られる
観覧席に似た作りの待機室がある
3人はそこに陣取り、ワイワイと浜崎の実技の様子
を見守るのだった…
普段からMTの車に乗っている者はアドバンテージ
がある、そう言うだけの事はあって浜崎の教習ぶ
りを見る限り、アクセルワーク、シフトチェンジ、
細かな状況判断に至るまで、およそ乗車未経験の
状態から1週間ほどとは思えない上達ぶりで、初
心者であると言われなければとっくに二輪免許を
取得していた者が、大型免許を取得する為に通い
直している、と思ってしまうだろう
『ツマんないですね~』
ミキがボヤく…
「そのぐらい全然待つって言ったのはミキちゃん
でしょう?もうちょっとだから…」
〈そうだよ、ちょっとぐらい待ってあげようよ〉
『そうじゃなくってですね…もうちょっとこう、
初心者らしくマゴつくと言うか、あって欲しい
のに、全然余裕シャクシャクじゃないですかぁ
~』
「そう言う事ね(笑)」
〈なるほど、、確かにね~、全然何の問題もなく
スイスイ乗ってるもんね、初々しさが感じられ
ないわ…〉
『でしょう!なんかアタシたちが鈍くさいみたい
じゃないですか!?』
「そうじゃなくて、普段から車運転してるんだか
ら、街中運転する方が教習所より難しいでしょ
??要は車社会自体への慣れみたいな物じゃな
いかな…」
『そんなもんですかね~??』
〈ミキちゃんだって、信号や車がいる時の譲り合
いとかじゃ全然問題なかったでしょ?〉
『そうですねぇ~』
〈浜崎さんはそれに加えてMTにまで慣れてるん
だから、普段とほとんど変わらないって事でし
ょ〉
『なるほど~』
「たぶん…今度アタシたちが車の免許取る、って
なったら同じだと思うよ」
『あぁなるほど!!今度はアタシたちがアドバン
テージがある方になるんですね!』
〈そうなるね!〉
「あ、終わったみたい、それじゃ行こうか!」
『ハイハ~イ!行きましょう』
待機室を出て事務棟に向かう途中で原簿を返しに
行く浜崎と合流した
「『お疲れ様です』」
〈何か全然余裕なんですね…?〉
晴子が浜崎に尋ねると
〘そう見えた?本人は結構イッパイイッパイなん
だけどね…〙
と、普段の浜崎を思わせる大人しさだ、このギャ
ップは少し浜崎と付き合いがある者ならすぐ気づ
くだろう
思うに浜崎は自己評価が低いのだ、もう少し自信
を持った方が良い、と晴子は常々思っている
「でもやっぱりアタシたちとは違って余裕を感じ
ました」
〘ホントに?まぁ公道を普段から走ってるとコー
スの中の事では動じないよね、あ、原簿返して
きます〙
『先に店に行ってますね~!』
〘分かった、後で行くから~〙
そう言って浜崎は小走りで行ってしまった
「じゃあお店に移動して席取っておこうか」
TWに跨りエンジンをかけるエミがそう言うと、
スルリと発進してゆく
もうすっかり慣れたものだ、ミキもそれに続いて
軽快なスタートでセローを走らせる
少し遅れてAPEを発進させた晴子の目の端に、楽
しそうに会話を交わす浜崎と由貴の姿が映った
『こっちで~す!!』
入口の鐘の音が鳴り終わらないうちに壁際の角席
からミキの声が飛んで来る
いそいそと招かれた席へ向かう浜崎に続いて、表
では由貴のパパさんの爆音が追いかけてきた
「由貴さん来るとすぐ分かるよね(笑)」
(ホントだね、きっと君たちだと思ったよ)
『あ、マスターこんばんは!』
「〈こんばんは!〉」
〘こんばんは…〙
(お、こないだ由貴ちゃんとそこの娘と来てた人
だね、入校したの?)
〘ハイ!今大型自動二輪の教習に通ってます〙
(お~いいね!大型、バイク好きなの?)
〘ハイ!!なんとなく、で始めましたけど、今で
はドップリハマってます!〙
(じゃあ一番楽しい時期だな、頑張って!)
そう言うとマスターは人数分のお冷を置いて去っ
て行った、ちゃっかりと由貴の分まで置いてある
ところが気が利いている…
カランカラ~ン♪
いつものノスタルジックな鐘の音を響かせて由貴
が入店してきた
ミキが声をかけると嬉しそうにこちらへと急ぐ
<おまたせ~!>
『全然待ってませんよ~』
「まずは注文しちゃおっか」
〈そうしようそうしよう!〉
『今日は何にしようかな~っと♪』
メニューをテーブルに広げ皆で仲良く見やる
〈アタシはカルボナーラかな〉
「アタシはペペロンチーノ!」
『ふっふっふ、今日こそはインディアンスパ!』
〘僕はカツ丼をサラダのセットで〙
<好きだねぇサラダ…>
〘サラダから食べるクセになっちゃってて…〙
一通り注文を終えると、さてと、とばかりに由貴
が浜崎に向き直り一言
<じゃあ聞かせて、ハマちゃんの結論>
テーブルに両肘をつき、顎を乗せた両手に包まれ
た両の眼が、しっかりと浜崎を見据えていた
〘僕は最初、、ただ単にカッコ良いって理由で部
長のSTEEDみたいなアメリカンバイクが良いか
な、って思ってた…〙
浜崎の語り出しに皆が真剣に聞き入る
〘だけどね、由貴さんにテーマを問われて、何処
に、何しに、例えば誰と?って考えてゆくうち
に、次第に全然何が良いのか分からなくなっち
ゃって…〙
<あら、じゃあ全然方向性が見えてこなかった感
じなの?>
〘そんな事もないんだけど…伊藤さんとは今朝も
話したんだけどね、TWやFTRみたいなストリー
トも好きだし、オンロードを改造したスクラン
ブラーなんかも良いと思ってる、あとクラシッ
クなんかも良いなって感じで…今イチ決めきれ
ないんだ…〙
浜崎の意見を聞いた由貴は、難しい顔をしながら
ポツリと言った…
<ハマちゃんは免許あるんだから、実際に実物を
見に行くとピンと来るかもね>
〈あ~それはあるかも!アタシAPEを見た瞬間に
ビビッと来たよ!〉
「アタシも!」
『アタシは川本さんに譲ってもらうって決まって
から気づいたらゾッコンだった感じかなぁ…』
〘実物かぁ、近いうちに見に行ってこようかな〙
<それが良いかもね、実際に見るのはやっぱ違う
から>
などと話していた瞬間、注文の品がテーブルへと
届き出した
(は~いおまたせ~♪)
ジュウジュウと小気味良い音を立てて運ばれてき
たのはミキの注文したインディアンスパだ
インディアンスパとは、スパゲティの上にソース
としてカレーのソースがかけられた名古屋メシで
、知名度としてはそれほど高くはないのだが、地
元では昔から愛されている
この店のインディアンは鉄板に薄切りの玉ねぎが
敷かれ、その上を卵焼きが埋めている
鉄板ミートスパと同じ手法だが、こちらはさらに
カツと半切りのウィンナーが乗せられ、食欲をそ
そる外見となっている
『わぁ♪いかにも晩ゴハンって感じの強いビジュ
アル!』
(こういうの好きでしょ?w)
『大好き♡』
以前にミートスパで大喜びしたミキを覚えている
のだろう、マスターは明らかにミキの反応を楽し
んでいる
エミのペペロンチーノはオーソドックスな仕上が
りだ、晴子のカルボナーラにも言える事だが盛り
がでかい!
『わぁ!カツ丼でっかいですね!!』
そうなのだ、浜崎のカツ丼はラーメン丼か!?と
ツッコミたくなるような大きさだ
(うちは学生のお客が多いからね、自然と盛りが
多くなっちゃったんだよ)
〘僕意外と食べる方だから嬉しいなぁ♪〙
少年のように目をキラキラさせて喜ぶ浜崎が、ル
ンルンと言った体で割りばしを割るのを見て
自身はミックスフライ定食、と意外なチョイスを
見せた由貴が
<食べながら話しましょうか!>
と皆を促す
「〈『〘いっただきま~す!!〙』〉」
ワイワイと楽し気に自分のメニューとつつく面々
ハフハフと鉄板で熱せられたスパゲティーを、玉
子をからめて頬張るミキ
『あ、砂糖入りの甘い卵焼きだ!ピリ辛のカレー
とよく合ってる!』
〈カルボナーラが何か濃いのよね!すごいチーズ
を感じる〉
<あ、何かね、生クリーム使ってないらしいよ>
「え??それじゃカルボナーラ出来ないでしょう
?」
<あとでマスターに聞いてみようか>
ペペロンチーノはオーソドックスだがニンニクが
しっかりと効いた良い匂いが漂う
<アタシここのペペロンチーノは他の何処のより
好きだな>
(良く頼むもんなぁ~由貴ちゃん)
〈あ、マスター!カルボナーラ美味しいです〉
(ありがとう!うちは生クリーム使わないからね)
「固まっちゃいませんか、それ?」
(ゆで汁をいっぱい入れて作るんだよ)
「へぇ~変わってますね!」
(実はそれが本式らしいよカルボナーラって)
「そうなんですか!?知らなかった…」
『インディアンすっごく美味しいです!!』
(そう言ってくれると信じてたよ♪)
〘カツ丼がすごいボリュームで、学生は喜ぶでし
ょうね〙
(腹いっぱいになって帰って欲しいからね、もち
ろん皆にもね!楽しんでってよ)
そう言い残してマスターは去って行った、恐らく
はミキの反応が見たかったのだろう、と晴子は分
析した…
<で、どういったツーリングがしたいのかなハマ
ちゃんは?>
唐突に由貴がイカリングを頬張りながら残りの話
題を振ってきた
〘実は僕、バス釣りとか好きだから、コンパクト
な道具をリュックに詰めて琵琶湖やら野池やら
に釣りに行けたら楽しいかな~って思ってる、
他にもキャンプやバーベキューも好きだし〙
<へ~~アクティブなんだね!意外~>
『なんかイメージと違いますね!?』
「アウトドア派なんですね?」
〘よく言われるよ、インドアな印象に見えるんだ
ろうね…〙
『そう思ってました…』
「アタシも…」
〈車がハイラックスだもんね、言われてみれば〉
〘そう、あれでアルミボート持ってって浮かべる
んだ〙
〈え~!ボート持ってるんですか!?〉
〘あるよ、安いやつだけどね…〙
本当に意外だった、アウトドア派だったというだ
けじゃなく、ボートを購入する程の釣り好き
浜崎の事を知っているようで、まだまだ全然知ら
なかったのだ…
晴子も驚いたが他の3名はそれ以上の驚きだった
ようで、しきりに質問をし続けている
『どのぐらいの釣った事あるんですか?』
〘今までじゃこれが一番のサイズかな~〙
そう言ってスマホで浜崎が見せた画像には、55㎝
のビッグサイズのバスがメジャーに当てられた画
像と、嬉しそうな表情で口を持つ浜崎が写ってい
た
「わぁ大きい!」
『ブラックバスってこんな大きいんですか?』
〘中にはこんなサイズのもいる、ってだけでこん
なサイズはそうそう釣れないよ〙
新鮮な驚き、新たな一面を見せられて、晴子の中
で浜崎という男への評価がまた変わった
<そっか~、そうなるとモトクロスとかも選択肢
に入れた方が良いかもね>
〘ミキちゃんのセローみたいな?〙
<あれももちろんアリだね!だけどサーフで行く
って事は当然悪路な訳でしょ?>
〘ボートを降ろす時はだいたいが湖岸だから未舗
装の場合がほとんどだね、だけどバイクで行く
なら舗装路に停めておけばあとは歩いてポイン
トまで行くから…〙
<あぁ、そうか!だったらオンロードモデルでも
問題ない訳か…>
浜崎のバイク選びはなかなかの難問のようだ
<いずれにせよ、一度見に行った方がイメージが
つきやすいのは間違いないね>
〘そうみたいだね、今度時間が空いた時にでも眺
めてきます〙
<免許的には制限が無いからね、じっくり条件と
相談して吟味してくると良いよ>
〈楽しみが増えたね!〉
〘うん、だけど…教習通ってる間はなかなか時間
取れないな…〙
<焦る必要ないじゃない、じっくり時間をかけて
慎重に選んだ方が良いよ>
「きっと実際に見れば”これだ!”ってバイクが見
つかりますよ」
〈そうそう、アタシもそうだったから…〉
<まぁ今日の所は、ハマちゃんが望むイメージ
の用途が分かって良かった>
『具体的にコレいいなとかの車種は無かったん
です?』
〘いいな~と思ったのはFTR、もちろんセローも
、あとはドゥカティのスクランブラーとかか
な…〙
<ドカか…意外なとこついてきたね(笑)>
〘意外、、、なんですか?〙
<最初の一台に選ぶのは珍しいかもね…>
〘そうなんですね!?単純にスタイル、と言うか
なんというか佇まい、的なものが良くって…〙
<バイク選びで大事なとこじゃない、パッと見た
時の雰囲気、ってさ、全然構わないと思うよ>
〘またちょっと悩んでみます…〙
〈楽しい悩みだね!〉
「ホント!気に入る1台が見つかると良いですね」
『話し込んでたらすごい時間になっちゃいました
ね…』
ミキに言われて時計を見ると9時15分…周りはと
っくに客の一人も居なかった
<マスターごめん!また長居しちゃった>
「すみません、時間見てなくて」
(構わないよ、楽しそうだったからさ、声かけら
んなかった(笑))
『ゴメンなさい…帰るのが遅くなっちゃいますね
、、』
(いいさ、ウチで過ごす時間が楽しかったならこ
んな嬉しい事はない)
そう言ってニコニコと手を振るマスターだが、あ
まりいつも長居ばかりしては迷惑だろう
「〈『〘<ごちそうさまでした~!!>〙』〉」
全員が揃った声でハキハキとマスターに挨拶する
(また来てね、いつでも歓迎だから♪)
『ハイ!今度はあんかけパスタ食べます!』
(ハハハ、楽しみにしとくよ)
カランカラ~ン♪
店を出る際には、いつもの鐘の音がなんだか寂し
気に聞こえる、きっと皆もそうに違いない
気の合う仲間と気に入った店での楽しい時間、
無限には続かないからこそ感じられる喪失感、そ
して、家に帰ればまた、普段の生活を迎えるべく
それぞれが生活の軌道へと戻ってゆく
浜崎のバイク選び…
それに伴い、晴子の中でも、ある決意が徐々に固
まって行くのだった…。




