調子乗っちゃって…
日常系って人気無いですよね、でもハートウォーミーな話が好きなんです
仕事中、ふとした時に思いつくシチュエーションにストーリーとキャラクターを
肉付けして背景を描写する、この手法しか今のとこ持ち合わせていないのですが
なるべく山あり谷あり、読み味のある物語になるよう努力してます
温かい目で読んでいただければ幸いです。
<あ~それなら大型いきなり行った方がお得だねゼ
ッタイ!>
急遽晴子に呼び出された由貴も浜崎と同じ結
論だった
〘やっぱりそうですよね!?〙
<そりゃ~車の免許があって、まだ買うバイクも決
めてないんでしょ?なら大型取っておけば買うバ
イクの選択肢は狭まらないし、中型取ってから、
もし、また大型、なんてなったら勿体ないよ…>
先ほどの晴子のようにタメを作ってから
<アタシみたいにね!!(怒)>
そう言えば由貴は、バイク屋の常連に ”大型は無理
だ” って言われてすぐさま免許を取ってハーレーを
買ったんだった…
苦々し気に語る由貴に
〘何か、あったん、です、、か?〙
と恐る恐る尋ねる浜崎だったが、晴子にサッと手で
制され、慌てて口をつぐんだ
<いいよハルちゃん!アタシね、バイク屋の常連に
”大型なんか無理だろう” って言われて、頭に来
て大型免許取ってすぐハーレー買って乗りつけて
やったの!(怒)>
それを聞いた浜崎は
〘わぁ~カッコ良いなぁ~♪〙
心からの言葉であろう、目をキラキラさせて言って
いるのだ、これには由貴も毒っけを抜かれ
<変わったタイプね…>
と、小さな声で晴子に耳打ちしてきた…
晴子は頷きながらも
〈仕事の時はもっと全然シャンとしてるのよ、あれ
でも…〉
とフォローを欠かさない、由貴は心の中で
(ほっほ~ぅ♪)
と何やら不穏な勘ぐりを巡らしていた、、、、
最も、晴子も浜崎も、今はまだお互い、そういった
感情だとは気づいてもいないのだが…
頼んだメニューが届き、それぞれが注文したメニュ
ーに箸をつけつつも
〘ヘルメットってどんなの買えば良いんですかね?
ピンと来なくって…〙
<ん~難しいな、何せ乗りたいバイクが定まってな
いんだからね、それによってある程度似合うヘル
メットも変わって来るし>
〈どんなバイクが好きなの?〉
〘部長が載ってるバイクとか良いなぁ、STEEDだっ
け?〙
<お!?アメリカンじゃん、じゃあアタシのハーレ
ーとかツボなのかな?>
〘良いですよね~ハーレー!好きですよすごく〙
〈部長のSTEEDってこんなのだよ?〉
そう言っていつぞや撮った画像を由貴に見せると
<キャ~♪カッコいい!!センスいい!何コレ?
ステキ!>
由貴が黄色い悲鳴を上げている
〈かれこれ20年ぐらい乗ってて気づいたらこんなに
なった、って言ってたよ…〉
<これは趣味良いわぁ~♡1度実物見てみたい!>
〈そのうち機会があるかもね…〉
由貴と晴子のやり取りを見ていた浜崎が
〘本当に仲が良いんだね伊藤さんと有賀さんって〙
よほど盛り上がって見えたのだろう、由貴は不意に
<堅っ苦しいのよね~浜崎さん…>
ブッ込んで来た
<アタシの事は由貴で良いよ、あとハルちゃんも
名前で呼んであげて>
突然の指摘に浜崎がキョドる
〘え??でも今日会ったばかりだし…〙
<本人が良いって言ってるんだから良いの!ホラ
、呼んでみて!>
〘ゆ、、由貴、、さ、、ん、、?〙
<まぁ良いでしょ、おいおい慣れてね、じゃあハ
ルちゃんも呼んだげて>
〘ハル、、コ、、さん…〙
<堅いわぁ~~~(怒)>
<ハルちゃんはどう呼んで欲しいの??>
〈ハルちゃんで!!!〉
ニヤニヤしながら晴子が答える、どうやら完全に
楽しいでいるようだ…
歯を食いしばった浜崎が意を決して口にする
〘ハル、、ちゃん、、〙
<よ~し!それでOK!!、で、ヘルメットはバ
イクが何でもいけるようにジェット型がおスス
メね>
それから手袋はユニクロで買った、だの、カッパ
はワークマンがおススメだのと、あれやこれやで
盛り上がった、話の終盤の方では2人の呼び方にも
慣れてきた様子で
〘じゃあハルちゃんもワークマンでカッパ買った
の?〙
〈アタシだけじゃなくってエミちゃんもミキちゃ
んもだよ…〉
と自然に呼べるようになってきていた…
〘ちょっとトイレに…〙
そう言いながら浜崎が席を外したのを契機に
由貴が
<で、どうなのよ?浜崎さん、、好きなの??>
ストレートに由貴に問われ、ちょっと躊躇しなが
らも
〈まだ分かんない、けど…好き、なのかもね…〉
<なるほど~ハルちゃんはダメ男好きかぁ~意外
だね…>
この言葉に、晴子もムキになって
〈浜崎さんはダメ男、なんかじゃ、、ない、よ〉
と、精一杯の反論を見せる晴子が由貴の目から見
てもとっても可愛らしかった
(かも、じゃないでしょうに…)
そう思ったが、由貴はその言葉をグッとこらえた
口に出してしまうと、今の晴子と浜崎の甘酸っぱ
い関係が壊れてしまう、そんな気がして…
結局、その後2時間近くも話し込み、浜崎はサッ
と伝票を持ち去ると
〘会計お願いします…〙
と、自然に会計を済ませてしまった、これには由
貴も
<ゴメン浜崎さん、アタシまで…>
と恐縮するのだが、手でそれを制した浜崎が
〘良いんです、それより…〙
と一呼吸タメておいてから一言…
〘それより、堅っ苦しいので僕の事は ”ハマちゃ
ん” とでも呼んで下さい〙
ニカッと笑うとそのまま晴子に向き直り
〘もちろんハルちゃんもそう呼んでね!〙
と、仇を取るかのように晴子にも言った
晴子は少しドギマギしながらも…
〈分かった、ハマ、ちゃん…〉
とギクシャクしながらも答える、そんな晴子を横
目に
<分かった、ハマちゃん!>
一切動じずハマちゃん、と呼びかける
〈じゃあ由貴さん、また入校の手続きとかお願い
ね~〉
〘その折にはよろしくお願いします由貴さん〙
<ま~かしといて!>
由貴はドン、と胸を叩いて請け負った
(きっとこの人とも長いつきあいになる…)
由貴の胸に、なんとはなしにそんな予感が走った
〘あ、そうだ由貴さん…〙
<な~に??>
浜崎は由貴を呼び止めると一言…
〘実は、大型免許取る事は会社では内緒にしてお
きたいんです…〙
<アラ、どうして??>
〘変に勘繰られるのも困るし、流行りに乗った、
みたいになるのもゴメンで…〙
<分かった!じゃあエミちゃんやミキちゃん、川
本さんにも内緒なのね?>
〘すみませんがそれでお願い出来ますか?〙
<OK!OK!大丈夫、口は堅い方だよ>
〘ありがとうございます!〙
ペコリと礼をする浜崎に、同じくペコリと会釈し
ながら
<今日は楽しかった、その上ご馳走になっちゃっ
てありがとうハマちゃん>
キチッとお礼を述べる由貴に、社会人としての矜
持を感じた浜崎だった
ドドドドドドドドド…
由貴のハーレーを見送ると、クルリと振り返り
〘ありがとうハルちゃん!色々と為になった、1
人で考え込まなくて良かった、知らない事だら
けだったよ〙
いつの間にか自然と呼んでくれる浜崎に、新たな
親近感を抱きながらも
(会社ではどう呼ぼうかな?)
などと悩みつつ
〈それなら良かった♪、、、ハマちゃん〉
今はこの呼び方の特権を楽しむ事にした…
それから1週間後に入校式を控え、ヘルメットの購
入、手袋、カッパの購入、と、忙しく準備に付きあ
う晴子、と言うのも…
<バッカね~!そんなの付きあってあげなさいよ!
ハマちゃんに恩を売っといて損はないのよ>
との有難い由貴のアドバイスをもらい、ワークマン
からドンキ、ユニクロと自分たちの辿った道を再び
巡るのだった
〘いや~楽しみだよ入校式♪〙
すっかりやる気になっている浜崎、バイクに興味を
持ち、前のめりで自動車学校に臨む姿勢が見られる
のは、勧めた晴子にとってもこの上ない喜びだった
何より、例の1件の後、すっかり吹っ切れた様子の
浜崎は、仕事ぶりも以前に増して絶好調で、元々の
その人柄の良さも手伝ってか社内での評価も上がっ
ていた
(まぁこれはこれで良い事、だよね?)
晴子はそう思っていたのだが、何故だか少し不安に
も思っていた、何だか浜崎が浮ついているというか
そう!調子に乗っているように見えるのだ
だが、現時点で晴子がどうこう言う筋合いでもない
しかし、晴子のこの懸念は、近いうちに具現化する
事となる、、それも、悪い形で…
それは明日に入校式を控えた金曜日に起こった
『おつかれさまで~す』
「おつかれ~」
駐輪所を出発して各々が帰路に着く、晴子も帰宅し
ようかとAPEのエンジンをかけたのだが、その時、
違和感を感じた
(ハマちゃんの車がまだある…)
おかしいと思いつつ、一旦は会社を出発し帰路に着
いた、それでも何とも言えない胸騒ぎに襲われ、急
遽会社へと取って返した
(やはりまだ車がある!)
もはや疑う事もなく自分の部署へと取って返し、そ
のまま勢いよく扉をくぐった、すると…
必死の形相でPCに向かう浜崎の姿、、、晴子の存在
を確認すると何とも言えぬ表情でバツが悪そうに顔
を背ける
〈何やってるの?こんな時間まで…〉
そう問う晴子だが、浜崎は何とも言えぬ表情で黙っ
たままだ
〈ねぇ、黙ってちゃ分かんないよ!ハマちゃ
ん??〉
〘ちょっと、仕事を入れすぎちゃって、今週中に終
わらせなければならない案件が二つかぶっちゃっ
て…〙
〈今週中って、、、明日入校式でしょ?〉
〘う、うん、だから今頑張ってやってるんだ…〙
〈何でみんないるうちに言わないのよ、誰だって手
伝ってくれるのに!?〉
〘僕がスケジュールをミスしたんだ、、、いけると
は思ってたんだよ、だけど、急遽新しい案件が重
なって来て…断れなくて…そんなのでみんなに残業
なんてさせられない!〙
なんともお人良し、だが!いかにも浜崎らしい…
晴子はフッと笑うと上着を脱いでデスクに座る
〈ホラ!片方の見積もり渡しなさい!アタシが可能
な限りやったげるから〉
〘ハルちゃん…!?〙
〈ホラホラ、急ぐよ、午前様ぐらいでなんとか終わ
らせたいでしょ?〉
心底ホッとした様子の浜崎が、地獄で仏にあったか
のような表情で晴子を拝む
(もう!最近カッコ良くなってきたと思ってたの
に…)
結局、ほとんど1時手前までかかって、ようやく完
了した
〈ん~~終わったね~~!!〉
〘ハルちゃん、、、ありがとう、ございます…〙
深々と頭を下げる浜崎、晴子は何も言わず立ち上が
ると
〈ハマちゃん…ヘルメットって積んでる?〉
浜崎にそう尋ねた…
〘あるよ!今も車に積んである〙
それを聞くと顔を輝かせた晴子が
〈じゃあお腹空いたからラーメンでも食べに行こう
か〉
と、提案した、浜崎もお腹は空いていたが、ヘルメ
ットとは一体??
〈フッフ~ン♪アタシのAPEは100㏄なのよ!2人乗
り可能な、の!!〉
人差し指を立てながらそう言う晴子に
〘へ~そうなんだ!あんな可愛いバイクなのにスゴ
イね!!〙
〈だから入校式の前にバイクの世界をちょっとだけ
見せてあげる!〉
そう言って浜崎を伴い駐車場へと向かう、ヘルメッ
トを取り出すと、ぎこちない手つきで顎ヒモを締め
る浜崎…
〈いい?発進するよ?しっかり捕まってね〉
晴子はそう言うのだが、浜崎は遠慮してロクに捕ま
ろうとしない
〈もう、こうだってば!〉
浜崎の両手を持って自分の腰に回すと、へその前方
で握らせる
〈いい歳して照れないの!危ないからしっかり捕ま
ってて、それでなくても人生初の二人乗りなんだ
から!〉
〘え??初めて、、大丈夫??〙
〈多分ね、、、それじゃ行くよ!〉
それを聞いてようやく浜崎の手がしっかりと晴子に
しがみつく、晴子はいつもより多めにアクセルを開
けると、ゆっくりとクラッチを丁寧につないだ、ス
ルスルとゆっくり加速するAPEに
〘わ!?こんな小さいのに2人乗ってもしっかり走
るね!?〙
〈しっかりしなさい!あなたが取る大型はこんな小
さいバイクの非じゃないパワーなのよ!〉
〘う、うん!!〙
深夜のラーメン屋って何処が開いてるんだろうか?
当てもなく走り出したもののサッパリ分からない…
まぁいいか!
そのうち店の一軒ぐらい行き当たるだろう
2人の絆が深まった、そんな夜の出来事だった…
今作は作者がTikTokで見かけた「詐欺メイク」にヒントを得て思いついたストーリーとなります
多分に作者の社会人生活と私生活が反映された内容となります、読者の方が「ん?」と思う社会描写が
ございましたら、それは作者の過ごした社会背景との相違と受け取って下さい
メイク技術、用語などはネットの情報を元にしておりますが、なにぶん作者は
「野郎」ですので、この部分、なるべく寛容にご容赦くださると幸いです。