Let`sツーリング⑥
日常系って人気無いですよね、でもハートウォーミーな話が好きなんです
仕事中、ふとした時に思いつくシチュエーションにストーリーとキャラクターを
肉付けして背景を描写する、この手法しか今のとこ持ち合わせていないのですが
なるべく山あり谷あり、読み味のある物語になるよう努力してます
温かい目で読んでいただければ幸いです。
坂道を登り終えると、馬の背とでも表現したくなる
明らかな頂点を迎える、道路脇が広くなっているこ
の場所で晴子は脇に寄せて止まると、一行もそれに
続いて路側で停車した
〈どうだった、かな?…〉
自信無さげにそう聞く晴子に
〖点数つけるなら百点だよ百点、あの峠道であれだ
けスムーズに運転出来るなら、何処走ったって問
題ないよ〗
『ホントですね、すごく快適なペースでした』
「ついて行くのが楽だったよね~」
皆がそれぞれ絶賛する、と、一呼吸置いて由貴が
<峠道でのペースってすごく難しいのに、あんだけ
簡単にこなされちゃね、さすがミスパーフェクト
だわ!>
と、由貴の言葉に晴子が満面の笑みを浮かべる
やはり由貴からの評価を受けるのが嬉しいのだろう
<またちょっと山道続くから気を付けてね、山道が
続くから、途中で休めそうなとこあったら適当に
休憩にしよう>
〈『は~い♪』〉
明るい返事を返す晴子とミキが先頭を続けるようだ
それにしても、とても快適に峠道を走ってこれた、
何故なんだろう?後で聞いてみよう
エミは疑問に思っていたが、この答えは後に自然に
氷解する
山道から左折して少し広めの国道に入った辺りで先
導車に引っかかったのだが、初心者と言うかブレー
キはパカパカ踏むわ直線では無駄に加速、と、後続
車として見れば実に不快的な先導車だった
(この車に比べればハルちゃんの運転はスムーズで
快適だったな…)
ツーリング、とりわけ台数の多い集団の先頭を走る
者は、快適なペースを作り出せる運転技術を持った
者が務めるのが妥当だ
無論、今回の晴子やミキは例外的に、必然的にパワ
ーに劣るAPE100の晴子を先頭に立たせ、少しでも今
後の経験になれば、と思っての事だった
まぁ蓋を開けてみれば晴子の先頭適正は抜群だった
訳だが、ツーリングにおける快適、とは、後続がス
トレスなく、且つ安全に追従出来得る速度のペース
を作り出し、更には、他の後続車両に煽られない程
度の速度を保ち、尚且つ急加速、急制動を生じない
といった定義になるだろうか?
晴子の先導は十分にこれらの項目を満たしていた
由貴や伸一の目から見ても、ひいき目無しに文句な
く合格だった
エミからして見ても、後続車の立場で、一定のペー
ス、急加速、急制動なく、他車のフタもしない、と
言った運転が、自然に「走りやすい」と感じられた
のだろう
何を隠そうこれには、以前太田が言っていた ”パ
ーシャル” が深く関わっている
アクセルワークがONとOFFだけのライダーは、車体
の挙動が急で、ガクガクと落ち着きのない動きにな
ってしまう
これを防ぐには、アクセルを完全なOFFではなく、
緩める(※少し残す)操作が必要になる
以前の食事会で晴子は由貴の同乗で、そしてエミは
伸一の同乗でこれを学んだ、ミキは日々の通勤の原
付の運転で、と、それぞれが学び取った立派なテク
ニック、これが快適さを生んだのだった
とは言え、気づいているのは由貴と伸一ぐらいのも
のである
少しクネクネとした林間地帯を抜けた一行が、道幅
の広がった区間にさしかかった時、不意に由貴が
<そうだ、休憩にちょうど良い所しってるから、ち
ょっと寄ろうか>
と言って先頭を変わった、一行は(?)と思いなが
らも、由貴に続く
若干の上り道に入った辺りで、不意に由貴が右の側
道へとウィンカーを出した
何処へ行くのかと疑問を抱きつつも、一行は由貴に
続く、と、看板を見るに「妙〇寺」の文字…
(お寺?)ますます?な一行だったが、由貴は構わ
ず突き進む、気づけば寺の境内と思わしき駐車場へ
と滑り込んでいた
<着いた着いた、ここで休憩しよっか>
意外な場所のチョイスに、未だ(?)の一行だった
が、伸一の言葉で由貴の思惑が分かる事となる
〖トライアルバイクが多いね〗
その言葉に由貴は
<そうだよ、ここ住職が趣味で作ったトライアルの
コースがあって、練習に来る人が集まってるの>
『トライアルのコース?って』
〖見に行ってみようか、音がするからきっと今も走
ってるよ〗
伸一に言われて音の方向へ歩いて近づくと、崖では
?と思われる下から、なんとバイクが駆け上がって
きた
「え~~~!!あんな所から現れるの!?」
エミ達は驚いた、そこはおよそバイクなどで走れる
場所ではないと思われたからだ
<あれがトライアル、障害物が設置されたコースを
、いかに足を着かず、転倒せずにクリアするか、
を競う競技よ>
〖良い所連れてきてくれたね~♪一回生で見て見た
かったんだ〗
伸一も上機嫌だ
<あら、川本さんとミキちゃんのセローならなんな
ら参加できちゃうんじゃない?アンダーガード付
いてるでしょ?>
由貴にからかわれ伸一も
〖あるにはあるけど、あれだけの事をする技術がな
いや(笑)〗
と恐縮した、マルチパーパスのバイクに乗っている
だけあって、やはり興味はあったようだ
『アンダーガードってあのエンジンの下に付いてる
カバーみたいなやつ?あれが大事なの?』
ミキにはピンとこなかった…
〖例えば、トライアルでは1m以上の垂直の障害物に
上ったりするんだけど〗
「そんなの登れるの!?」
〖そう、それをするのに使うんだ、つまり、ウイリ
ーして前輪を障害物の上に引っかける、そして車
輪を押し付けながら、後輪で壁を走り上がる、っ
てイメージかな…オレも良くは分かんないんだけ
ど…〗
〖その時に壁にエンジンの下をブツけても大丈夫な
様にガードが付いてる、らしいよ…〗
〈何かで動画見た事あるけど、あれって壁を走って
上がってるの?〉
〖つまりはそう、らしい…すごいよね!〗
<どういうルールなのかな?>
〖確か減点性で足着いたら1点、転倒何点、みたい
な?じゃなかったかな〗
坂の下を見やりながら伸一が説明する、初心者であ
るエミたちからすれば、最早意味が分からないレベ
ルの運転技術である
〖おっと!走ってきたよ、下がって下がって〗
伸一に促され、一同が平地に下がると、しばらくし
て先ほどの崖に近い坂道を1台、また1台と駆け上が
ってくる
こんな芸当をこなすライダーがこんなに複数いるの
か?と一行は驚きを隠せなかった
ひとしきり眺めて回り、新たな発見と共に、自分た
ちの知るバイクの世界が如何に多種多様で、世の中
にはまだまだ知らない世界が多くある事を思い知っ
た
ふと、バイクの方を見やると、伸一がヤカンで湯を
沸かしながら1人のライダーと談笑していた
「こんにちは~」
エミが声をかけると、ツナギを着た中年ライダーは
にこやかに挨拶を返した
❛今日は皆さんツーリングだって?❜
「そうなんです、アタシを含めて3人が免許取り立
てで、今日が初なんです」
フレンドリーに話すライダーは高尾と名乗った
高尾はここの住職とは馴染みで、趣味のトライアル
で知り合い、大会の運営なども手伝っているようだ
❛ここ住職が自分で重機を使って整備したんだよw❜
なんと住職の手作りコースだと言う…
いやはやなんとも…趣味が高じてここまでいけば立
派なものである
「アタシなんて教習の一本橋でも苦労してましたよ
~」
そう言うエミに
❛今走ってるアイツらだってそうさ、誰だって最初
は初心者、変わらないよ❜
優しい表情でそう言う高尾に好感を持った
<こんにちは~>
3人で話し込んでいると由貴と晴子、ミキも帰って
きた
〈『こんにちは~』〉
❛こんにちは、綺麗どこばかりで困ったねどうも…❜
そう言う高尾は嬉しそうだ
不意に伸一が
〖お湯がわいたから皆で飲もうか、好きなの言っ
てね〗
と、紙コップを各自に配りながら言った
❛ありがとう、じゃあコーヒーいいかな?❜
〖どうぞどうぞ〗
そう言いながらスパイスケースを出す伸一、10㎝
程のプラスチックケースにインスタントコーヒー
が入っている
❛お!?それ便利そうだね、真似させてもらおうか
な❜
〖かなり便利ですよコレ、〗
「こちらもどうぞ」
そう言ってエミが差し出したのはパンの耳をフラ
イパンで炒ったお菓子だ
「パセリがかかってる方がガーリックソルト、か
かってない方がシュガーバター」
〖お!お昼のサンドイッチの残りかな?〗
「そうそう♪勿体ないからね」
❛ひとつもらってもいいかな?❜
「どうぞどうぞ」
しばしワイワイとエミのお菓子に舌鼓を打ちつつ
のティータイム
高尾は結婚して2人の息子がいるそうだ、すでに2
人とも成人して就職、初めは興味津々だった2人も
徐々にトライアルからは興味が失せてしまったと
の事だ…
〈相変わらずエミちゃんの作る物は美味しいのね〉
『ホント!今度ルームシェアしましょうか』
<料理とお菓子合宿したいね!>
などと盛り上がっていると高尾が
❛楽しそうだね~、免許取り立ての頃思い出すよ❜
と、しみじみ頷いている
〖いいじゃないですか、トライアル、とっても楽
しそうだ〗
伸一の言葉に高尾は
❛これだけは止められんな、年くって身体が弱って
きたって乗れるうちはずっとやってそうだ❜
<素敵ですね、長く続けていける趣味って…>
❛こうして若い女の娘と話す機会があったりするし
ね❜
ドッと笑う一同、バイクに乗るようになって笑う
機会がグンと増えた気がする
高尾と話して、バイクの奥深さ、違った楽しみ、
苦しみ、向き合い方、そんな事がおぼろげながら
見えてきた、家族を持つ者が趣味を続けていく難
しさや苦悩、そしてそれでも尚バイクを愛し続け
るその気持ちも…
❛じゃあ、楽しかったよ、コーヒーもオヤツもごち
そうさんね❜
〖こちらこそありがとうございました、また何処
かで!〗
「それじゃ、また」
<またね、高尾さん>
〈頑張って!!〉
『またです!』
一同に軽く手を振ると、颯爽と愛車に跨りコース
へと戻って行った
<どうだった?来てみて>
由貴に尋ねられ一行は
〖前から興味あったんだよ、トライアル、やっぱ
生で見ると迫力が違うね〗
〈不自然に石が積んであるとは思ったけど、まさ
かコースだとは思わなかった〉
もちろんエミとしても衝撃で忘れられない見聞と
なったのだが、、、むしろそれとは別に、高尾と
話してみて、何と言うか ”バイク観” とでも言
うべき何かが分かった気がした
「なんかね、、バイクがもっと好きになった!」
意外なエミの反応に驚く由貴…
何とはなしに乗り始めたバイク、もちろん大好き
だし、出来れば一生乗って行きたいと思う
だが、現実は甘くはなく、乗り続ければお金もか
かるし、整備に手間も取られるだろう
それを考慮しても乗り続けたいと思わせる程、バ
イクが好きだ
勿論この先は分からない、情熱が失せてしまい、
放置してしまったり、何かの理由でうんざりして
乗る事自体止めてしまうかもしれない…
でも!!
今現在自分はバイクが大好きで、ヒマさえあれば
乗っていたいとさえ思う、この先もきっとバイク
が大好きなままで、きっと放置なんてしない!
先の事は分からないけど今バイクが大好きなこの
気持ちを大事にしよう!
<そっか、それなら良かった♪>
後片付けを終えた伸一が口を開く
〖そろそろ行こうか、旅のシメには最適だった〗
〈『<「お~~~!!」>』〉
恒例のエンジン始動に辺りが注目する、場違いな
ハーレーのエンジン音はやはり目立つのだろう
ふと見ると、こちらに手を振る
高尾とその仲間たち…
始まったばかりのバイクライフの中で、袖すり合
った一時の仲間…
エミは大きく手を振り返すと
「またね~~~!!」
と、大きな声で叫んだ
らしくないエミの大声に一同が驚く…
バイクが大好きだ!
仲間と過ごすこの時間が大好きだ!!
颯爽と手を振りながら一同を従える晴子が、手を
振りながら走り出す
皆もブンブン手を振りながら走り出す…
さぁ帰ろう、もうひとっ走りだ!
今作は作者がTikTokで見かけた「詐欺メイク」にヒントを得て思いついたストーリーとなります
多分に作者の社会人生活と私生活が反映された内容となります、読者の方が「ん?」と思う社会描写が
ございましたら、それは作者の過ごした社会背景との相違と受け取って下さい
メイク技術、用語などはネットの情報を元にしておりますが、なにぶん作者は
「野郎」ですので、この部分、なるべく寛容にご容赦くださると幸いです。




