エミと愉快な仲間たち
日常系って人気無いですよね、でもハートウォーミーな話が好きなんです
仕事中、ふとした時に思いつくシチュエーションにストーリーとキャラクターを
肉付けして背景を描写する、この手法しか今のとこ持ち合わせていないのですが
なるべく山あり谷あり、読み味のある物語になるよう努力してます
温かい目で読んでいただければ幸いです。
翌朝、目覚めたエミは早速昨晩調べた朝のスキンケ
アの内容を思い出していた
まずはいつも通りに洗顔して歯を磨く、この後スキ
ンケアに入る訳だが
エミはこれまで大したスキンケアもせず生活してき
ていたが、昨夜調べた結果
これはエミが「普通肌」と呼ばれる生まれつき肌の
油分と水分のバランスの取れた
いわゆるメンテフリーな肌質を持っている為に得ら
れた特権だと分かった
だがエミも現在25才、そろそろスキンケアをしっか
りと行いアンチエイジングを
心がけ始めなければならない時期にきた(出来る事
は全部やってみる!)
そう心に決めたエミに迷いはなかった、まずは化粧
水をコットンに含ませ軽く
全体的にはたいてゆく、目元や目じりもまんべんな
く、鼻回りも丁寧にスキなく
こうしてゆっくり、しっかりと塗り込んでいくと今
までぞんざいにメイクしていた事が自覚される、今
日からはおろそかにしない!やると決めたからは徹
底的に!
高校の陸上部で頑張っていた頃の感覚に似たものを
感じていた
乳液のクリームと日焼け止めの処理を済ませた後、
静かに朝食を取っている間、エミは満足感に浸って
いた、今までエミはメイクになど時間も手間も、あ
まりかけてはこなかった、だが
「もうちょっと自分を認めてあげなよ」
須賀の言葉が思い出される、あんな風に自分に言っ
てくれたのは須賀が初めてだった
「いいね!頑張ってみなよ、きっと君にとってプラ
スになる」
今ここまでのモチベーションがエミにあるのは須賀
のこの言葉たちのおかげだった
トーストを齧りながら昨日の須賀の言葉を思い出し
ほくそ笑む
「よっし!今日も頑張ろう!」
食事と着替えを終えたエミは本格的に”今日の”メイ
クに取りかかった
須賀に与えられた化粧道具を駆使してメイクをすれ
ば昨日の自分を再現出来る事は分かってはいる、だ
がいきなりは無理だ、なので今日は目元のメイクを
少しだけイジってみる事にした、普段は極薄いブラ
ウン系のアイシャドウにアイラインを引くだけで済
ませていたアイメイク、今日は少しだけ冒険して
みる事にする、他の人にとっては大した事ではない
のだろうがエミにとっては一大決心だった
エミの顔立ちに合うのは薄めの色合い、との事だっ
たので、選んだ色はいつもの
ブラウン主体にピンクを少々、ブラウンを目元と目
じりにぼやかせた後、目元のくの字ラインと目じり
の下側に薄く伸ばす、それをブラシでサッとボヤか
せたら下地は完成!ここからアイシャドウを引いて
ゆく、エミの使っていたパレットより少し明るめな
色が揃ったパレットを手に取りアイホールを塗って
ゆく薄く広く、または普通の幅で普通の高さ、濃く
狭く、など、目的とする出来栄えによって塗り方は
様々らしいが仕事モードの時は普通の幅で普通の高
さ、とエミは決めた、次にビューラーでまつ毛を上
げる、正直言ってエミはこのビューラーが苦手だっ
た、満足いく結果になった事がない、と言ってもこ
れまでエミがまつ毛のリフトにそこまでのこだわり
を持った事自体がないのだがマスカラを塗る段にな
って、やはりまつ毛のリフト具合に不満を持つよう
になった残念ながら今この場では妥協せざるを得な
い、、精一杯努力して今この場ではこれが限界、と
いう所まで仕上げてはみた…(課題が浮き彫りにな
った…)エミの中で燃えてくるものがあった、これ
は陸上に打ち込んでいた頃のあの一歩一歩を大事に
踏み出していた頃のあの感覚だ、自然と笑みがこぼ
れていた
「よし!出来たっ」
時計を見るといつも部屋を出発する時間だった
(1時間早く起きたのに!?)
夢中でメイクをしている間にこんな時間になってし
まった慌てて荷物をまとめ部屋を飛び出す、なんだ
か足取りも軽い、エミは満足した表情で自転車にま
たがった
自転車でトヨタ駅に向かうエミのペダルをこぐ足も
いつもより力強かった打ち込むべきものを見つけた
人間が、生活にハリを感じるのはごく当たり前の事
なのだろうが、エミにとってはここ最近感じられな
かった出来事だ
いつもの時間のいつもの電車に乗る、トヨタ駅の沿
線は朝の通勤時間とは言え混雑という表現からは程
遠い乗車率だ、というのもここは車の町「トヨ市」
移動手段は圧倒的に車に偏っていた、エミは幸い駅
から徒歩圏内の印刷会社に就職した為、通勤手段と
して電車を活用していたトヨタ駅から電車で15分、
エミの勤める印刷会社「株式会社コロモ印刷」は
従業員200名程の中小企業だ、周辺企業からの商業
印刷(チラシやPOP、カタログやマニュアルなど)
をメインとした中堅どころの印刷会社、といった趣
で、事務用印刷や包装紙なども手掛けている
「3番線に電車が参ります」
ホームドアの前に立ちすくんでいたエミの耳にアナ
ウンスの声が飛び込んできた、間もなく電車が到着
すると、エミはいつもの席になんなく座る事が出来
た電車通勤も長くなると、大体座る場所、陣取る場
所が決まってくるものだ、早速スマホでメイクの知
識をむさぼる、とりわけエミの今朝の課題はビュー
ラーだった、まぶたのカーブに合わせた物を選ぶ
事、まぶたの形に合わせた使い方驚いた事に一重と
二重、奥二重によってその使い方も変わってくるよ
うだ今まで自分がいかにいい加減にビューラーを使
っていたかが痛感される…ビューラーの劣化具合な
ど、貪るようにスマホに見入っているうちに、あっ
と言う間に目的の駅に着いてしまった
エミの勤める「株式会社コロモ印刷」はトヨタ駅か
ら2駅離れたトヨタ市の北端にある、駅からは徒歩
で10分弱の場所にある会社を目指しエミは歩き
出した、すると
「エミちゃんおはよー!」
程なくして同期の伊藤晴子に後ろから声をかけられ
た
「ハルちゃんおはよー!」
エミも挨拶を返す、晴子とは同期入社で同じ事務所
内で仕事をする仲だある日、昼食後にエミが持ち込
んだ和菓子を振舞った際に洋菓子派で
ある事が判明し、それ以来のスイーツ仲間なのだ他
愛もない会話を弾ませつつ会社までの道のりを歩
く、エミにとってはこの時間が会社でのランチタイ
ムと15時の休憩時間と共に、大事な時間だった、
日々これといって胸躍らす事象が起こりえないOL生
活において最も心安らぐ時間と言えよう
会社の手前で行きつけのミニストップに立ち寄る、
ペットボトルのほうじ茶を買い込み会社へ向かう
正門の手前で後輩のミキが原付で通りすぎざまに挨
拶してくる
「おはようございまぁ~す」
「おはようミキちゃん!」
駐輪所へ向かったミキは原付を停車するや否やすぐ
さま駆け足で追いかけて
きた
「はぁ~追いついた!!」
園田美樹は20才の今年の新卒入社で2人の後輩だっ
た、恒例のオヤツダイムでエミの持ってきた和菓子
に感動しスイーツ仲間になったのである
ちなみにミキは「作る派」だ、休憩時間にミキの作
ったシフォンケーキとエミの栗饅頭を交換して仲良
くなった、洋菓子派の晴子は、負けじと次の日エク
レアを持参してきたのだった…
「あれ~エミさん今日メイクが少し違いますね?」
(鋭い!)
エミはミキの意外な洞察力に舌を巻きつつも
「ちょっと知人から新しいコスメもらったから…」
と、少し照れを浮かべながら答えた
晴子はやや怪訝な表情を浮かべながら言った
「怪しい…もしかして彼氏でも出来たんじゃ??」
エミは狼狽えた、、
「か、彼氏なんて全然だよ、、、」
「エミさん素材が良いのにもったいないな~メガネ
もコンタクトにすれば
良いのに」
ミキが言うと晴子も調子を合わせてきた
「そうよね~この娘自覚がないのよ、勿体ない」
エミは口を開きかけたが、いつものようにマイナス
な発言をしてしまいそうで口をつぐんだ、そこへ1
年先輩の浜崎徹が通りがかった
「浜崎先輩おはようございます♪」
「おはようございます」
ミキの明るい挨拶に2人も続いた
「おはよう3人さん」
浜崎はやや控えめだがいつも仕事で良くしてくれる
親切な先輩だ
第2社屋の入り口でタイムカードを打刻し更衣室で
着替える、エミの会社は上着だけ作業服を着るスタ
イルで下は自由だった、まぁ動きやすく
モラルに反しない範囲で、といったところだが
今日も1日長い仕事が始まる!いつもより晴れがま
しい気持ちで更衣室を出るエミだった
今作は作者がTikTokで見かけた「詐欺メイク」にヒントを得て思いついたストーリーとなります
多分に作者の社会人生活と私生活が反映された内容となります、読者の方が「ん?」と思う社会描写が
ございましたら、それは作者の過ごした社会背景との相違と受け取って下さい
メイク技術、用語などはネットの情報を元にしておりますが、なにぶん作者は
「野郎」ですので、この部分、なるべく寛容にご容赦くださると幸いです。