美味しい晩ゴハン③
日常系って人気無いですよね、でもハートウォーミーな話が好きなんです
仕事中、ふとした時に思いつくシチュエーションにストーリーとキャラクターを
肉付けして背景を描写する、この手法しか今のとこ持ち合わせていないのですが
なるべく山あり谷あり、読み味のある物語になるよう努力してます
温かい目で読んでいただければ幸いです。
由貴に施されるメイクは下地からのようだ、どうや
ら由貴はウォータープルーフの下地を使っていない
ようで、店長は下地からやり直す手段を取った
❝ 下地はウォータープルーフが大前提ですね、今
まで化粧崩れやヘルメットへの移りで大変だった
でしょう? ❞
<そうなんですよ~もうヘルメットなんてしょっち
ゅう内装洗ってました>
❝ そうですか、これからはそんな苦労もかなり緩
和されると思いますよ ❞
そう言いながらも店長の手は淀みなく動き、気づ
けばあっという間に下地を終えてしまっていた
下地を終えた店長は、以前にミキがされたように、
今度は由貴の顔を両の手で親指側を上にして囲う
と、”ヘルメットライン”を指し示した
❝ これが私が勝手に呼んでいるヘルメットライ
ンです、お三方にはすでに説明しましたが、
ヘルメットを被った時に内装に当たるラインと
露出するラインの境目付近ですね ❞
そう言えば、由貴には直接店長を紹介しようと、
誰もそのあたりの事を説明してはいなかった
❝ 今後もこのラインを意識してメイクの境目を
設けると良いでしょう ❞
由貴は感心しきり、といった表情で三人の顔色
を窺っていた、が、磯山と前原が前のめりで店
長の話に食い入るように聞き入っているのを見て
店長の実力と磯山たちとの実力差を知ったようだ
❝ 失礼ですが有賀さん年齢を伺っても良いかし
ら? ❞
<ハ、ハイ!?28です…>
❝ アラ?そうなんですか?てっきり23歳ぐらい
かと思いました、キレイな肌ですね ❞
店長に褒められて、由貴は天にも昇りそうな表情
で舞い上がっていた
<そ、そんな~アタシなんてそんな、そんな…>
どうやら言葉にならない程嬉しいらしい…
エミ達は笑い出しそうなのをこらえて続く店長の
メイクに注目した
❝ さて、今日は少し良いところへ行くのでした
っけ?やや盛っていきましょうか? ❞
<今日はもう仕事終わってるので盛り盛りで構い
ません!>
『由貴さん、それだと整形レベルになっちゃう!
(笑)』
これには一同が大ウケした
❝ 別人ほどの、何ならギャルメイクも出来ます
がやってみますか?(笑) ❞
由貴は首をブンブン振ると
<店長さんが”これがベスト”と思えるぐらいのメ
イクでお願いします>
❝ フフッ、承知しました ❞
店長はエミの方を一瞥すると、少しニコリと微笑
んだかと思うと、メイクに入っていった
エミは最初意味が分からなかったのだが、メイク
が段々と進んでいくにつれてその微笑みの意味が
理解出来た
店長は、エミの目指すコンタクトでの”勝負メイ
ク”その完成形を見せてくれているのだ
まさか川本に相対する時の勝負メイクがコンタク
トである事も見透かされているのだろうか?
エミは、店長の慧眼に改めて驚くと共に、その所
作一つ一つに至るまでも見逃すまい、と目を皿の
ようにして見入った
❝ このような具合でどうでしょうか? ❞
全てのメイクが終わった時、そのメイクの出来映
えに、由貴がウットリと鏡を見やるのを見て、晴
子とミキがウンウンと、かつての自身を照らし合
わせているのがおかしかった
<ありがとうございました!!>
店長に深々とお辞儀する由貴の気持ちが痛いほど
理解出来た、エミ達三人もまた、店長や磯山、前
原には感謝しかない、何時店を訪れても売り上げ
度外視で懇切丁寧にメイクを指南してくれる、エ
ミたちにとっては恩人のような店員たちだ
<良い店だね~、店長さんすごい腕だし、それに
すごい美人!!なんてったって説得力あるよね
(笑)!!>
〈間違いないですね!アタシが男ならイチコロで
すよ!〉
晴子はすっかり店長のファンのようだ、ミキも由
貴も大きく頷いて納得していた
<アラ?エミちゃんは店長さん美人だと思わない
の?>
難しい顔をして黙り込んでいたエミに由貴が聞く
が
「違うの、店長のメイクを自分のコンタクト用の
メイクに反映させるには、ああしてこうして、と
考えてたら…」
『熱心ですね~』
<そりゃ~大事な事だもん、ねぇ~>
〈じゃ~その目的と合流しに行きますか(笑)〉
「も、目的って、、もぅハルちゃん!!」
赤くなるエミを一同がニヤニヤと見守りつつも
<じゃあ行きましょうか!その美味しい晩ゴハ
ン、とやらに!>
「『〈お~~~!!〉』」
駐輪場へ着くと、川本は電話をするまでもなく
すでに到着していた、手には書店で購入したと
思しきビニール袋が下がっている
「川本さん何の本買ったの?」
〖後で見せるよ、それより早く行こうか、予約
の時間に遅れるといけない〗
時計を見ると18時40分、予約は19時からだが移
動に10分はかかるだろう、川本の言う通り余裕
をもって行動しておくべきだ
<じゃあ行こうか!川本さん先導ヨロシクね>
〖承った!〗
川本は胸をドン、と叩いてセローのエンジンを
かけた
〖しっかり捕まっててね!〗
小声で囁く川本に
「ハイ!」
とエミも小声ながら力強く答える
走り出したセローの後に、由貴のハーレーとミ
キの原付が続く、異色の三台は目的地に向かっ
て走り出した
町の境にほど近いとは言え、バイク3台の移動
は車のそれと違って機動力が高く、目的の時間
には10分以上余る結果となった
店外で少しくっちゃべった後、5人は店の入り
「5人で予約している長坂です」
〝 こちらへどうぞ~ 〟
と店員に通された席は店の奥の角の6人掛けテ
ーブルだった
誰がどうという訳でもなくエミと川本の向かい
に晴子、ミキ、由貴の三人が座る事となった
<エミちゃんありがと~ここ知り合いに勧められ
てて一度来てみたかったんだ~♪>
「あ、知ってたんですね!?」
<ビーフシチューが美味しいって教えてくれたの
よ、うちの主任が>
〖有名なんですかね?ここ〗
<主任が話してた時、他の人も「あそこ美味しい
よね!」って言ってる人いたから有名なのかもね>
〈雰囲気良いよね、この店〉
『きっと何食べても美味しいですよ!』
「そうそう!ここ何食べても美味しいと思う」
〖特におススメはビーフシチュー。エビフライ、
ハンバーグかな〗
「アタシ前回、その全部食べてますね…(笑)」
〈エミちゃんがものすごく食べたの?ここが量が
少ないの?(笑)〉
〖エミさんの名誉の為に言っておくと、オレがシ
ェアしたんだよ、エビフライとビーフシチュー、
量は普通にあるから頼みすぎると食べきれないよ
!〗
結局、晴子、ミキ、由貴の三人でそれぞれエビフ
ライ、ハンバーグ、意外な事に由貴はポークカツ
レツをセットで頼んだ、それとは別でビーフシチ
ューを頼みシェアするようだ
川本は今回はカキフライをセットで注文し、エビ
フライを単品で注文した
エミは結局ハンバーグを、今回はデミグラスソー
スで注文した
注文が終わると、川本がタンクバッグから先ほど
の本を取り出した、どうやらレジャーグッズの特
集本のようで、途中にツーリングで使えるグッズ
の特集が載っていた
〖ま、ツーリング用のグッズと言わず、携行性の
高いグッズならツーリングには持っていける訳
だけどね〗
と言いながらも、このツーリング特集の記事に惹
かれて買ったのは間違いないだろう
皆で雑誌を覗き込みワイワイやっていると、由貴
のインカムの話題となった
〖有賀さんのインカムは距離的にはどのくらいい
けるの?〗
<カタログデータ上では2㎞までいけるって書い
てあるけど、すっごく見通しの良いまっすぐな高
速道路上ならいけるかもな~ってだけで、山間部
とかだと1㎞いけないと思う>
〖2㎞って言うとかなりお高い部類のインカムだ
よね?〗
<ううん、あんまり高くはないよ、1万2千円ぐら
いでAmazonで買ったから>
確かに、1万2千円ならお買い得と言えるだろう、
そんな話をしていたら注文したメニューが続々と
テーブルに運ばれてきた
と、メニューを運んできた中年の男性が川本に
⦅ 久しぶり!伸一くん、今日はキレイどころた
くさん引き連れてご来店だね!⦆
〖あ、店長お久しぶりです、会社の後輩たちとそ
の友達なんです〗
「『〈<はじめまして~>〉』」
⦅ はじめまして、店長の石塚です、大勢でご来
店下さってありがとうございます ⦆
〖今日はカキフライがあってラッキーですよ!〗
⦅良いのが入ったからね、しっかり味わってみて
よ⦆
<しまった~、カキフライもいっとけば良かった
~>
『こっちは三人がかりですよ!追加しときましょ
う!』
〈そうだね!いっとこう!〉
<じゃあカキフライの単品追加で!>
⦅承知しました!伸一くんのおかげで儲かっちゃ
うな(笑)⦆
一同がドッと笑うと店長は
⦅じゃあみなさん、冷めてしまう前にどうぞ、そ
れではごゆっくりどうぞ!⦆
と言って去って行った、食事の邪魔をしない気の
利いた去り際だった
『あの店長さんやりますね…』
ミキも店長の上手い去り際に思う所があったのだ
ろうか?
『あれは美味しい物を作る顔だちです!』
<フフッ何それ~(笑)>
一同が爆笑に包まれた後、楽しい食事会が始まっ
た
<ヤッバい!?カツレツ美味しい>
『ハンバーグも美味しいですね!!』
〈エビフライがすっごい実が詰まっててプリプリ
♪〉
各々が舌鼓を打つ姿を、満足そうな表情で眺める
エミを、もっと満足そうな表情で眺める川本を由
貴は見逃さなかった
結局、晴子、ミキ、由貴の三人は注文した全ての
メニューをシェアして堪能した
エミも川本にカキフライをシェアしてもらい、代
わりに川本が食べた事がない、というエミのデミ
グラウハンバーグをシェアした
「アタシちょっとトイレ…」
と言って席を立ったエミは、トイレに行く振りを
しつつ店員に話しかけ
「サプライズで会計済ませておきたいんです、あ
のテーブルの分全部会計して下さい」
と、全ての会計を済ませておいた
食事が終わり、エミがそろそろ店を出ようかと思
ったら
〖何か飲む?〗
との川本の問いに他のメンバーが全員
『アタシ紅茶~』
〈アタシはアイスコーヒーかな〉
<アタシはホットで>
〖オレもホットかな〗
などと当たり前に注文しだした為、エミも断るわ
けにはいかず
「アタシはアイスティーで」
と思わず注文してしまった、が、内心焦っていた
と、言うのも、すでに会計を済ませてしまってい
たが、その後の注文は計算外だった
会計時ややこしい事になってしまった…
『あ~どれ食べても美味しかったです~』
〈ホントね、満遍なく美味しかったわ〉
<気になってたビーフシチューがやっと食べれた
、今度来たら何食べようかな…>
各々が満足げな表情をしているのを見てエミも
(ま、いいか…)
と、会計のややこしさを諦めた
案の定、会計の段になった時
〝 お食事のお会計はもう頂いておりますので、
お飲み物のお会計のみとなります 〟
と、告げられ、一同がバッとエミに注目した
「アハハハ、、カッコよく無言で退店したかっ
た、んだけど、追加が入っちゃって~(汗)」
〈そんな、良いの?・エミちゃん??〉
「良いよ~全然…」
と、難しい空気を察したのだろう、川本が
〖あ、飲み物全部お会計で!〗
とサッと会計を済ませてしまった、一同が一言
も発する間もなく
〖んじゃ行こっか…〗
と、ニコリと笑って見せた
後ろでミキが
『ヤバいですよ~、イケおねとイケメンのイケ
カップルですよ!あそこ』
(イケおねって何!?)と思いつつも、川本の
機転でおかしな空気の会計も事なきを得た
<それじゃエミちゃん、川本さん、色々とご馳
走様でした(笑)アタシハルちゃんを送って行
くから、またね~、みんな卒検頑張ってね!>
〈じゃあまた明日~頑張ろうね!〉
様々な意味を持たせたようなお礼の言葉を残して
由貴と晴子が去って行った
『じゃあアタシも帰ります、エミさん、川本さん
ご馳走様でした!ホント美味しかったです、今度
またみんなで来ましょう』
〖そうだね!!その時はミキちゃんもセローで!
オレは明日、新しいセローを注文に行くから!〗
「あ!ついに買うんですね?」
〖もうそろそろみんな免許取れちゃいそうだか
らね、それに…〗
川本はエミの方を見ながら何か言いたげだが、、
〖何でもない、それより、ミキちゃんが免許取る
までには間に合わすから安心して〗
『アタシの都合はどうでも良いですよ、それより
さっき何か言いかけてませんでした、、?』
と言いかけてミキは何かを察したのか
『聞くのは止めておきます、じゃあエミさん!明
日頑張りましょうね!』
「うん!絶対合格しようね!」
『じゃあまた~エミさんをよろしく~』
「またね~」
〖気を付けて帰ってね~〗
そう言って手を振ると川本に向き直り、しっかり
と顔を見据えて
「川本さん!」
と発言する、エミの真剣な表情に川本もかしこま
り
〖ど、どうしたのエミさん?〗
と、ドギマギした表情を浮かべた
「明日、卒業検定必ず合格します、つきましては
、その後お時間いただけますか?」
川本は直立不動で姿勢を正すと
〖分かりました!何時でもご連絡お待ちしてます〗
「無事合格して卒業式を受ければ、恐らく16時前
後だと思います」
〖承知しました、身体を開けておきます〗
客先とのやり取りのような堅苦しい会話だった、
そんなやり取りを終えると、緊張が一気に吹き飛
んだ
「はぁ~緊張した~(汗)」
〖なんだか迫力あったね…〗
「フフフ、でもこういうのはキッチリとしておき
たいタイプなので、ゴメンなさい…」
〖いい加減にしちゃダメな事だからね…〗
お互いすでに気持ちは通じ合ってる気がする、で
も、成すべき事をしっかりと成し、その上でハッ
キリと気持ちを伝えたいのだ
〖エミさん今日はご馳走様でした、ホントに良か
った?半分出そうか?〗
川本の言葉に
「んなダッサイ真似出来ないよ、おごらせといて
!」
とフザけて答えるエミ、かけがえのない大事な時
間、、2人の答えがすぐそこに迫っていた
今作は作者がTikTokで見かけた「詐欺メイク」にヒントを得て思いついたストーリーとなります
多分に作者の社会人生活と私生活が反映された内容となります、読者の方が「ん?」と思う社会描写が
ございましたら、それは作者の過ごした社会背景との相違と受け取って下さい
メイク技術、用語などはネットの情報を元にしておりますが、なにぶん作者は
「野郎」ですので、この部分、なるべく寛容にご容赦くださると幸いです。




