最後の教習
日常系って人気無いですよね、でもハートウォーミーな話が好きなんです
仕事中、ふとした時に思いつくシチュエーションにストーリーとキャラクターを
肉付けして背景を描写する、この手法しか今のとこ持ち合わせていないのですが
なるべく山あり谷あり、読み味のある物語になるよう努力してます
温かい目で読んでいただければ幸いです。
ついにこの時が来た!あの後、無事に5回目の実技
を合格したエミ達はシミュレーターと、その分析、
更には2人乗りについての説明VTRを見た後、2段階
の7回目の実技教習を迎えていた
『さすがにドキドキしますね、、ついに大詰め!っ
て感じです』
〈フフッ、でも皆揃ってここに居られるって事は本
当に順調よね〉
「1人じゃないって心強いよね…」
晴子の言う通り、1人で教習に通っていたならば、
ここまで順調に事は運ばなかっただろう
≪ では本日の教習を始めましょうか ≫
水木の言葉に、エミ達三人は気持ちを引き締めて向
き直った
≪ さて、皆さん残すところ実技練習はこの時間を
残すのみとなり、いよいよ卒検を迎える事にな
りますね ≫
三人がそれぞれ表情を固めたのが分かった、いよい
よ迎える卒業検定、その重大さに皆が身構え、そし
て高揚しているのが看て取れた
≪ 皆さん引き締まった良い表情をしてますね、で
すが入れ込み過ぎも良くない、リラックスして普
段の実力を発揮して下さい、あなた達三人はもう
十分に卒検合格レベルには達してると思います ≫
水木の言葉に皆が自信を持ち、モチベーションを上
げたのがエミにも感じられた、思えば入校以来、半
分以上の教習を水木が担当してくれたが、そのどれ
もが分かりやすく、また的確な指導だったと三人と
も思っている、ミキに至っては
『担当が水木先生じゃないと下がりますよね~』
などと言う始末だ、懇切丁寧、簡単明瞭、水木の指
導を表現するならこんなところか、とにかく無駄が
なく、それでいて説明が不足する事もなく、なによ
り教習生想いなのだ、その水木が珍しく世間話をし
だしたのだった
≪ あなた方が三人で入校してきた時は、少し心配
しました、女の子三人で教習、最後までモチベー
ションは保てるのか、本当に免許が取りたくて入
校してきたのだろうか?ただの思い付きでは?大
丈夫かな?と、ね ≫
≪ でもあなた達はずっと、高いモチベーションで
真剣に教習に励み、ついには卒業検定にまでこぎ
つけました ≫
『アタシ落ちてる場合じゃないんです!経済的にも
!!』
ミキが水木の言葉に口をはさむ、これには水木も
≪ なるほど、、(笑)≫
と苦笑いしていた
≪ とにかくこの時間が最後の練習になります!悔
いの残らない様、分からない事、気になる事など
は遠慮なく尋ねて来てください ≫
『〈「ハイ!!」〉』
三人の小気味良い返事が響き渡った
基本的には卒検で走行する第一コースと第二コース
を交互に走行して覚える事に終始する時間だった
晴子やミキは、しきりに水木の元へと駆け付けては
あれやこれやと質問攻めにしていた、エミはと言う
と坂道発進、クランク、S字、一本橋、そして急制動
それらに全集中してひとつひとつを本番のつもりで
密度の濃い練習に徹した、コースは事前に頭に入っ
ている、川本にも言われた通り、ミスコースでの不
合格などつまらない、技術以前の問題だ、締めては
かかるがそこの部分の問題はとっくに解決している
坂道発進、これも問題はないだろう、今現在心に引
っかかってるのはS字とクランク、そして急制動だ、
エミはまず急制動をメインに練習を始めた
速度を十分に乗せ、ブレーキの割合はフロント7、
リア3、だがフロントタイヤをロックして転倒した
事のあるエミは無意識に4:6くらいの割合でブレー
キをかけていた、フロントタイヤがロックしてしま
う事への恐怖心であろうが本人は意識しての事では
なかった
その様子を見ていた水木がエミに話しかけてきた
≪ 長坂さんは転倒のダメージがあるようですね…
≫
水木に言われてエミは自分が意識していない急制
動への恐怖を持っている事を初めて自覚した
≪ フロントタイヤがロックするのを恐れてリアブ
レーキに頼っています、転倒の危険性は減ります
が肝心の制動力は落ちてしまい、結果として制動
距離が伸びてしまいます ≫
水木に言われ、自らがフロントブレーキを弱めてい
る事を自覚した、水木の言う通りなのだ、、
≪ でもね、それにしては頑張ってる方、と言って
良いでしょう、フロント/リアの比率で4/6ぐら
いは保ててます、今までも同じ事で怖くなった人
はいましたが大体逆にリアがロックするぐらいフ
ロントブレーキがかけられなくなってましたから
ね ≫
水木の言葉はいつも気づきをくれる、今回もエミの
無意識の後遺症を言い当てた
≪ そこで頑張れているのはフロントブレーキの大
事さが分かっているから、つまりこれまで頑張っ
てきたからこそそこが理解出来ているからこそそ
れで済んでいるんです ≫
≪ 比率を5/5、そして6/4と上げていく感じでリ
ハビリしてみて下さい、この時間中にはなんとな
く6/4ぐらいかな?くらいまではいけると思いま
す ≫
「ハイ!」
実に効果的なアドバイスだと思えた、気づけば夢中
で急制動に取り組み、なんとなく6/4ぐらいにはな
ったかな?と思えるところで水木に一度見てもらっ
た
≪ うん!全く問題なくなりましたね、ホラ、思っ
てる程簡単にはフロントロックなんてしないでし
ょう? ≫
水木の言う通りだった、恐怖に駆られ、いつの間に
か限界を低く見誤り、いつしかリアブレーキ頼りの
ブレーキングをしてしまっていたのだ、それを水木
が一目で改善してくれた、教官とは偉大なものだ
気づけば教習時間は終わりを迎え、晴子もミキも晴
れ晴れとした表情を浮かべていた
二人とも自己が抱える悩みを解消出来たのであろう
三人が三人ともに最後の教習を終え、手応えを物に
している様子だ
≪ 皆さん、これで実技教習は最後、となります、
人によっては次の卒業検定が当校での最後の運転
となるでしょう、後はそれぞれが身に着けた技術
の全てを出し切って、合格を勝ち取る事を期待し
ています、お疲れ様でした ≫
「ありがとうございました」
『〈ありがとうございました〉』
原簿を返却に行くと受付のお姉さんがやや寂しそう
に話しかけてきた
< いよいよ卒検ですか、なんだか寂しくなっちゃ
いますね… >
『いろいろとお世話になりましたからね、長いよう
でここまですぐでした…』
〈おかげで教習の予約もスイスイ取れたし、本当に
お世話になっちゃいましたね…〉
「まぁこれで終わりって訳でもないし、まだ卒検も
終わった訳ではないので、まだ少し、お世話にな
ります!」
< えぇ、まだ何か不明点や必要な事があったらい
つでも言って下さい >
「あ、じゃあ一つ聞いても良いですか?」
< ハイ、なんなりと! >
「今日終わってからお時間ありますか?」
< アラ、意外な質問 >
「アタシたち今日晩御飯をあの喫茶店で食べようと
思ってて、良かったらご一緒にどうですか?って
お誘いです」
< 良いですね、では20時過ぎたらすぐにでも向か
いますのでお先に行ってて下さい >
『やった~じゃあ先に行って待ってますね!!』
〈これまでのお礼も兼ねて、ささやかなお食事会で
すね〉
「では先に席取って待ってますね~」
事務員さんに手を振って三人は学校を後にした、楽
しい食事会になりそうだ
三人は徒歩と、自転車を押す者、そして原付を押す
者、三者三様の有様でそれぞれがまとまって目的の
喫茶店までを歩くのだった
今作は作者がTikTokで見かけた「詐欺メイク」にヒントを得て思いついたストーリーとなります
多分に作者の社会人生活と私生活が反映された内容となります、読者の方が「ん?」と思う社会描写が
ございましたら、それは作者の過ごした社会背景との相違と受け取って下さい
メイク技術、用語などはネットの情報を元にしておりますが、なにぶん作者は
「野郎」ですので、この部分、なるべく寛容にご容赦くださると幸いです。




