不穏な気配…
日常系って人気無いですよね、でもハートウォーミーな話が好きなんです
仕事中、ふとした時に思いつくシチュエーションにストーリーとキャラクターを
肉付けして背景を描写する、この手法しか今のとこ持ち合わせていないのですが
なるべく山あり谷あり、読み味のある物語になるよう努力してます
温かい目で読んでいただければ幸いです。
ツーリングバージョンのメイクもいよいよ完成に近
づいてきた、何しろ毎日のように教習に通い、ヘル
メットを被っているのだ、そして免許取得後はバイ
クで会社に通う、ツーリングバージョンのメイクの
完成は必須なのだ、すでに原付で通勤しているミキ
は一歩先んじているのだが、本人としては納得して
いない部分が大きいのだろう、エミからしてみれば
毎日原付に乗ってヘルメットを被っているミキは、
それとは思えない程自然なメイクぶりで、尊敬に近
い感情がわいてくるものだが、、
〈おはようエミちゃん〉
「おはよ~ハルちゃん」
いつものミニストップで晴子と合流した、会社の正
門をくぐると、いつものタイミングでミキが原付で
通過してゆく、と、ほとんど間を置かず川本のセロ
ーが駐輪所に滑り込んだ
エミと晴子が見守る中、ミキと川本は親しげに会話
を交わし、こちらに歩いてくる気配もない
〈なんだか忙しそうだから先いこっか…〉
晴子にうながされ、エミはやや後ろ髪引かれる思い
で更衣室に向かった
しばらくするとミキも更衣室にやってきた
〈何話してたの川本さんと?〉
晴子が尋ねると
『あの、えっと、、セローの事とかです』
少し歯切れの悪いミキの返答が気になった
午前の仕事を終え、昼の休憩の際に晴子が
〈アタシ、欲しいバイクが決まったかも知れない〉
と突然言い出した、エミもミキも勿論興味深々で
「なになに?どんな感じのバイクにするの?」
『晴子さんはどんなバイクでもすぐ乗りこなしそう
ですよね~』
などと盛り上がっていると、少し憂鬱そうな晴子が
〈でも高いのよね~、最低でも60万くらいから、高
い物だと120万とか、、、〉
そう言って雑誌を取り出した晴子が示したページに
は「SR400ファイナルエディション」の文字が躍っ
ていた
「やっぱSR400なのね、カッコ良いもんね~SRって」
『落ち着いた感じありますよね、このバイク…』
〈なんかこのデザインにビビッときちゃったのよね
~APEの時みたいに…大きいし、車検もあるし、
それでもアタシはこれが良い…〉
最近の晴子がイキイキしてるのはAPEの為だけと思
っていたが、どうやら晴子には晴子のビジョンがあ
るようだ
「ミキちゃんは目指すバイクとかあるの?」
エミが尋ねると
『当面はセロー一筋です!』
アッサリと断言した、何も考えていないように見ら
れがちなミキだが、そうではないようで
『川本さんが大事に乗ってたバイクですからね、ま
ずはアタシのバイクキャリアはセローと共に築い
ていくんです、他のバイクになんてまだまだ考え
が及びません、、』
どうやらセローの事をよほど大事に思っているよう
だ、これなら川本も本望だろう
〈もちろんアタシもAPEは大事にするし、通勤はず
っとAPEのつもりだけど、遠距離でAPEだと皆に
迷惑かけそうだしね、高速にも乗れる中型が欲し
いな~と思ってて〉
『エミさんは他のバイクで何か良いな~ってバイク
ありました?』
「見てて”あ、コレ良い”ってバイクはいくつかあっ
たけど、アタシも当面はTW以外は考えてないか
な~、それすらもちゃんと乗りこなせるか不安な
ぐらいだし…ハルちゃんはちゃんと先の事まで考
えてるんだね」
エミの言葉に晴子はやや顔を伏せながら
〈やっぱバイクに乗るなら遠くにお出かけしたいし
、そうなるとAPEでは役不足でしょ、でもAPEは
すごく気に入ったバイクだから是非とも欲しいの
、、〉
〈須賀さんも言ってたでしょ、APEの良さは速さじ
ゃない、って、アタシもすごくそう思うの、だか
らAPEはAPEですっごく可愛がるんだ~〉
エミは晴子の”可愛がる”という表現にAPEへの深い愛
情を見て取った
『APEってカッコ可愛いですもんね~』
〈そうそう!最初にキュンって心持ってかれちゃっ
たよ♡〉
とどのつまり皆、一目ぼれするバイクに出会えてい
るのだ、そして手に入れる算段もついている
〈それでも良いな~って思えるバイクはあったわけ
だよね?〉
晴子の問いに
「あったよ、FTRってバイク、え~とね、、ホラこ
のぺージの…」
エミが開いたページには様々なカスタムを施された
FTRが掲載されていた、
『え~っとナニナニ、カスタムの方向性の豊富さも
魅力のFTR223だが、とかく比べられがちなライバ
ルともいえるTWとは…って?TWのライバルらし
いですよFTR!?』
「そ、そうなの??」
〖何ならセローにとってもFTRはライバルみたいな
バイクだよ(笑)〗
三人が振り向くとトレーを手に持った川本が通りが
かりに見下ろしていた
〈そうなんですか?川本さん〉
川本は空いている席に腰を降ろすと口を開いた
〖TWはダートトラッカー、つまりダート(砂)の
トラックレースの車両をイメージして開発された
バイクで、セローもFTRもコンセプトがマルチパ
ーパス(多用途)、つまりオン、オフ両用って事
で比べられやすいバイク達だからね〗
〖それでも実際は結構違いがあるんだけどね、例え
ばセローだとトライアルも出来るようにアンダー
ガードが付いてたり、ね〗
「アンダーガード??」
〖エンジンの下に鉄製のガードカバーが付いてるの
、トライアルってホラ、垂直の壁とかにウィリー
して前輪を引っかけて走り上がったりするでしょ
、あの時にエンジンの下を打って破損しないよう
にガードが付いてるんだよ〗
「へ~、じゃあ川本さんもそういう場面を想定して
セローを選んだんですか?」
〖イヤ、全然(笑)、単純にバイクを見に行って気
に入ったのと、オレ結構オフロードバイク好きだ
からね〗
「オフロードを走る事ってあるんですか?」
〖不意に行きたい所に砂利道があった時とかに困ら
ない様に、オレはオンオフ兼用のデュアルパーパ
スって種類のタイヤを履いてるよ、少し値は張る
けどね、、〗
気づくと川本とエミが二人で会話してばかりだった
、そう思い晴子とミキを見やると、なんと、いつの
間にか2人ともが退席してしまっていた
〖アハハ、何か、気を使わせちゃったみたい、だ、
ね…〗
川本の言葉にはにかんで答える事しか出来ないエミ
だった
「ヒドいよ~2人とも!いつの間にか居なくなっちゃ
うんだもん」
3時の休憩でエミはプンスカと怒りをブツけるのだが
当の二人は
〈逆に二人にしてあげたんだから感謝して欲しいぐ
らいよね~〉
『ね~~^ー^』
気を利かせたつもりだろうがエミにとっては余計な気
遣いであった
機嫌を損ねたエミに
〈そんな怒らないの、ホラ!〉
と晴子がマドレーヌを寄こしながら言った
〈ピエール工房のマドレーヌはいつも売り切れなのよ
、昨日はクッキー買いに行ったらたまたま売れ残っ
てたから買ってきたの♪〉
『わぁ♪あそこクッキーも美味しかったけどこれも美
味しそう!』
ミキもニコニコしながら受け取った
エミは納得いかないまでも、せっかくのマドレーヌを
怒ったまま食べるのももったいない、と気を取り直し
た
一口頬張ると、焼き菓子独特の風味に、バターの奥に
ほのかにブランデーの香りが鼻腔をくすぐり、何とも
言えぬ絶妙な味わいだった
「コレ、美味しい♡」
『何て言うか、コレ、、、高い、ですね…』
〈それは褒め言葉なの?(笑)〉
笑いながら問う晴子にミキは
『ん~っと、お上品とかリッチって意味合いです…』
「逆に分かりやすい表現かも(笑)、コレちょっと衝
撃なぐらい美味しいね」
和菓子派のエミでも文句なく絶賛する美味しさだった
なんだか物で買収された気分ではあるのだが、、、
就業時間も終わりを迎えようとしていた16時30分頃、
エミはトイレに立った、手洗いを済ませ自分の席に戻
ろうと廊下を歩いていると、先の方から川本の潜めた
声が聞こえてきた
〖それじゃ、何かあったらLINEで知らせてよ〗
『分かりました、まぁ何もないとは思いますが、分か
った事があれば連絡しますね』
(ミキちゃん?LINEって、、、!?)
どうやら会話の相手はミキのようだ、それにしても、
LINEで知らせる、とは?LINE交換しているという事は
間違いないようだ、川本とミキはそういう関係なのか
??エミは困惑した
気にはなったが、ミキとの関係に決定的なヒビが入っ
てしまうような気がして直接ミキに問う事が出来なか
った
(一体どういう事なのだろう?)
晴れ渡っていたエミの心模様は、いまや一変して薄曇
りの様相を呈していた
今作は作者がTikTokで見かけた「詐欺メイク」にヒントを得て思いついたストーリーとなります
多分に作者の社会人生活と私生活が反映された内容となります、読者の方が「ん?」と思う社会描写が
ございましたら、それは作者の過ごした社会背景との相違と受け取って下さい
メイク技術、用語などはネットの情報を元にしておりますが、なにぶん作者は
「野郎」ですので、この部分、なるべく寛容にご容赦くださると幸いです。




