店長としての実力!
❝ 次にアイメイクですが、ミキさんの場合、目元
二重もはっきりと”平行型”でしかも幅が広めです
❞
食い入るように店長の説明に聞き入る一同、そこ
へ他のお客さんが会計へやってきた
後ろ髪引かれるような表情の前原が対応に向かう
❝ つまりミキさんは生まれつき”派手”な目をお持
ちなんです、だからアイメイクは程々に抑えて
おかないと、”ケバい”印象になってしまうんで
す ❞
『え、アタシってアイメイクに向いてないんです
か?』
不安げな表情のミキに店長は優しく言った
❝ とんでもない!むしろこんなパッチリした目
元に産んでもらってご両親に感謝ですよ ❞
❝ 派手なメイクにしても似合ってしまう、けど
普段の髪型や服装じゃ負けてしまうほど目元
が際立ってしまうんです ❞
ミキは食い入るように店長の話に聞き入っていた
❝ だから、普段は目元は抑えめメイクが良いで
しょう、例えば友人の結婚式に出席される時な
んかは”バシッ”とアイメイクすると良いでしょ
うね ❞
〈こないだ派手なメイクしてもらった時も似合っ
てはいたもんね~〉
「メイクも時と場合なんですね」
❝ そうですね、お仕事の時なんかはやっぱり抑
えめメイクが良いかと思いますね ❞
❝ さて、皆さんの当面のテーマは”バイクに乗る
時のメイク”だと思います、先ほどのヘルメ
ットラインの中のメイクが主ですが、基本的
には自分のお顔に合ったメイクが大事、とい
う所は変わりません、ただし!! ❞
突然語気を強めた店長に一同が視線をさらに集中
させた
❝ ハッキリ言いますが”バイク女子”は注目されま
す、メイクの手を抜いてる場合ではありません
(笑)❞
店長の指摘に三人は教習所でのやり取りを思い出
していた
あの若者の言葉が思い出される
”三人組で三人ともカワイイなんて見た事ない”
あれこそが店長の言わんとする事なのだろう、つ
まり、教習所でも気は抜けないのだ…
〈教習始めてからもメイクの手を抜いた事はなか
ったけど、やっぱり注目されるのね…〉
晴子の言葉にミキが
『ケバい子、とか言われてそう…』
❝ 大丈夫ですよ、ここだけの話ですが、もっと
もっとケバい人は世の中にたくさんいます、ミ
キさんは全然派手メイクじゃないですよ ❞
店長の言葉にミキがホッと胸をなでおろした頃、
前原がいそいそと小走りで戻ってきた
❝ ではアイメイクしていきましょう、さっきも
言いましたがミキさんは目元パッチリでさら
にまつ毛もナチュラルにフサフサです、アイ
メイクに力を入れる際、どうしてもアイライ
ンもアイシャドーも、マスカラも多く塗りが
ちになりますが、ミキさんにはむしろマイナ
スに働きます ❞
❝ ミキさんの場合はアイホールの派手な色、
アイラインの塗りすぎは厳禁です ❞
❝ ミキさんの肌色にごく近いくすみ取りで目
元周りをまず仕上げ ❞
そう言うと店長は目元周りにクリームを馴染ま
せていった、元々くすみなど皆無のミキだった
が、アイメイクをより自然な物にする為に必要
な工程なのだろう
❝ アイホールは一番”ケバく”見える原因になり
やすい部分です、濃いめの色は普段は厳禁で
すね ❞
そう言うと店長はアイシャドウを選び出し、ミ
キのアイホールにアイシャドウを乗せていった
❝ 今回は”抑えめ”と言う事で、アイホールもミ
キさんの肌の色に寄せたアイシャドウで仕上
げます、ただ、さすがに単色ではつまらない
ので、ほんのりとグラデーションをつけてお
きますね ❞
エミはアイホールの仕上げにいつも一番気を使
っているのだが、店長の仕上げはとにかく早か
った、見るみる間にグラデーションが出来上が
り、その仕上がりは左右で寸分の違いも見当た
らない
❝ 一般的なアイシャドウのグラデーションは
ミキさんには少し強すぎるように感じます
なのであえてグラデーションを弱めて使っ
ていますが、「ここ一番!」の勝負の時に
は存分に効かせてあげると良いでしょう ❞
ミキは店長の言葉をひとつも聞き逃すまい、と
耳をこらしている様子だ、晴子も真剣な表情で
店長の話に聞き入っている
この場で店長の話を遮る者は誰も居なかった
❝ ミキさんの場合、二重幅が広いのでシェイ
ドカラーを強めるとケバケバしく見えて
しまいます、アイホールとの区分は大事
ですが、目立ち過ぎない色を選ぶのがポ
イントです ❞
そう言う店長が選んだ色はブラウン系だった
❝ 基本通り切開ラインは細く、目じりは広め
に、、、❞
スムーズな流れでアイメイクを進めていく店
長だったが、不意に振り返ると
❝ 興味がおありなら一緒に見学しますか?ミ
キさんが良ければだけど、どうかしら? ❞
そう声をかけた先には女子高生が二人、棚の
影からこちらを見やっていた
二人はおずおずと棚の影から歩み出ると
〔アタシたちも見学して良い、です、か?〕
と尋ねてきた
店長が優しくミキに視線を送ると
『もちろん、どうぞ』
ミキが快く受け入れた
〔ありがとうございます〕
何故かギャラリーの増えたミキのメイクはそ
の後5分程で仕上がり、気づけばスーパーナ
チュラルの女優系メイクの完成だった
ミキは感極まった様子で興奮して言った
『これです!アタシのなりたかったケバくな
いメイク!』
店長はあいかわらずウットリしそうな笑顔で
❝ ミキさんは元の顔立ちが整ってるから、
どんなメイクでもある程度映えてしまうけ
ど、本当に必要なメイクはその場面に合わ
せて整えていく必要があります ❞
❝ バイクに乗る時のメイクのポイントはさ
っき言った通り、ヘルメットラインの中の
仕上げと、その外との境界のバランス取り
そして部分メイクは個人のパーツの特色に
合わせて、あと、、、 ❞
店長はここで少しタメを作るとしばらく後に
再び口を開いた
❝ 誰と一緒か、で、目的は変わるでしょう、
例えばミキさんなら、意中の男性とツー
リングに行くならメイクはどうする? ❞
『ケバくは見られたくないけど、なるべくは
頑張って可愛く仕上げたいです!』
❝ でしょう?だから普段から、自分のメイ
クの強弱を練習しておくと良いですよ、
目的、用途に合わせてメイクを作り上げ
る事が大事です ❞
「難しいですよね、、、」
〈まずは完成形のイメージを作らないとね…〉
❝ その通り!なりたい自分を意識してメイ
クしてみて下さい ❞
〔ありがとうございます、実際にやってると
こ見て、すごく参考になりました〕
二人の女子高生は一同に深々と頭を下げた
❝ 何か分からない事があったら、いつでも
相談に来て下さいね ❞
手を振り去ってゆく女子高生たちに店長も
小さく手を振ると、振り返って三人に言った
❝ メイクは奥深い物です、だから私たちの
ような”プロ”が存在します、わからない事
迷った時はいつでもご相談下さい ❞
エミが男であったならこんな女性と結婚した
い、そう思わせる笑顔だった
❝ 最近はネットでも情報が多いですね、皆
さんも調べているでしょう? ❞
「なるべく自力で解決しようとは思うんです
が、、」
エミの言葉に
❝ エミさんのキッカケになった詐欺メイク
の動画なんかは最たる物ですが、ネットに
は私たちでもハッとさせられる情報があっ
たりします、使わない手はないですよ ❞
❝ 情報をネットで調べる、立派な努力です❞
店長の言葉にエミは自分が少し意固地になっ
ていたのではないか?と、思い至った
❝ ただし、”これはないな”という情報も見
られたりします、迷ったらまた相談に来
てくださいね ❞
『〈「ハイ!」〉』
⁅ あ、あの~~(汗) ⁆
磯山が言いにくそうに口を挟んだ
⁅ ミキさんっ以前は派手なメイクをしてし
まって申し訳ありませんでした ⁆
磯山の突然の謝罪にミキはとまどった、が、
『やめて下さいよ~アタシ磯山さんのメイク
で興味を持ったんですから』
ミキの言葉に磯山はいくらか救われた様子
だった
ミキはスマホを操作して以前の画像を出す
と
『これを目指してメイク頑張ってきたんで
す、アタシ感激したんですよ』
ミキの言葉に店長が画面をのぞき込んで言
った
❝ あぁ、やっぱりミキさんゴージャス系
のメイクもとっても似合いますね ❞
この言葉に磯山もミキも顔を輝かせた
❝ メイク自体の出来栄えは90点台です、
でもこれはいわゆる”勝負メイク”ですね ❞
店長の言葉に磯山の表情が不安に駆られて
いくのが見て取れた
❝ 着飾って合コンに行くなら戦闘力マッ
クスでしょうね(笑) ❞
店長の言葉に一同がドッと笑った
❝ でも、ミキさんにメイクへの興味を持
って頂けたようだし、120点かな ❞
さりげなく部下をフォローする、こんな先
輩でありたいものだ、エミは店長を見てそ
う思った
結局カブキブラシなど数点を買い込んだエ
ミだったが、晴子とミキはそれ以上に買い
込んでいた、すでにメイクに目覚めていた
二人だが、エミ程には思い入れはなかった
ろう、それが今日の出来事でスイッチが入
ってしまったようだ
『いや~店長さんスゴイですね!早いし上
手いし!』
〈フフッ、牛丼屋みたいね(笑)〉
「アハハハ」
ミキの仕上がったメイクを見て、改めてメ
イクの奥深さを思い知ったエミだった




