バイクに乗るにあたって…
日常系って人気無いですよね、でもハートウォーミーな話が好きなんです
仕事中、ふとした時に思いつくシチュエーションにストーリーとキャラクターを
肉付けして背景を描写する、この手法しか今のとこ持ち合わせていないのですが
なるべく山あり谷あり、読み味のある物語になるよう努力してます
温かい目で読んでいただければ幸いです。
入校式当日の朝、エミは目覚まし時計が鳴る前
”カチッ”
と言う音で目覚めのベルを鳴らす事なく目覚ま
し時計を沈黙させた、のそりとベッドから立ち
上がると、そのまま洗面所でうがいをし歯を磨
き始める
シャカシャカやっていると
"ピコン"
とラインの着信が2回続いた、晴子とミキが、
モーニングコールしてきたのだろう、歯磨き
を終えて確認すると、予想通りミキ→晴子の
順でモーニングコールが入っていた
エミもすかさず"おはよう"のスタンプを返す
とティファールに水を入れセットした後に
洗顔と朝のスキンケアを開始した
ひと通りの身支度を終え、朝食を頬張って
いると不意に須賀が
【おはよう!】
と元気な雰囲気のスタンプを送ってきた、
それに続いて画像が1枚
【今から洗車しま〜す、ピカピカにする
からねw】
のメッセージと共にバケツや洗車ブラシ
1式、洗剤と共に並んだAPEとTWが写っ
ていた
〈わぁ♪嬉しい〉
「今度手入れの仕方も教えて下さい」
エミの言葉にミキが
『須賀さんって絶対女ったらしですよね』
とチャチャを入れる
重苦しいはずの朝イチだが心から笑える
このひと時を忘れないだろう
エミの胸に感慨深い思い出が刻まれた
自動車学校まではトヨタ駅から7~8分程
度だ、エミは会社帰りに自転車で通う予
定で、通学としてはさした苦労もない
ミキは原付、晴子はトヨタ駅から自動車
学校のシャトルバスに乗るらしい
今後は帰社時、晴子の教習がある日は電
車で一緒に帰れるのだ
共通の目標を持つ友達と共有する時間は
貴重で、一時たりとも無駄にしたくない
最近エミは本気でそう思っている
”今を大事に!”
これも須賀が学ばせてくれた大切な気持
ちだ
感慨深く自転車を走らせていたらアッと
言う間に着いてしまった
門を通り、駐輪場に向かうとそこにはす
でに原付を停めて座っているミキの姿が
あった
『おはようございます~エミさん♪』
「おはようミキちゃん」
そう言いミキの顔を眺めると、ミキなり
に頑張ったのだろう、アイメイクとまゆ
毛、チークにリップ、かなりの向上が見
られた
お世辞にも上手とは言えないメイクだっ
たミキからは考えられない上達ぶりに思
わず
「スゴイ!ミキちゃんメイク上手くなっ
てる」
『アタシ、、今までメイクが”下手”でし
たよね…』
エミがどう返事して良いか逡巡している
と
『良いんです、こないだプロの技術を目
の当たりにして、思い知ったんです』
悲観した様子でもなく、しっかりとした
力のある目つき、ミキもまたメイクに目
覚めたのだ
『アタシの下手っぴなメイク、指摘しづ
らかったですよね、今後はおかしな所
があったらちゃんと言って下さいね』
真摯な態度でエミにお願いするミキに、
エミも真摯な態度で応じた
「わかった、私もまだまだだから良い所
は参考にさせてもらうね」
『でもこないだのメイクを再現するのは
まだまだ無理ですぅ(泣)』
「あれはすぐには無理だよね、私もやっ
てもらったアイメイクと同じ事はまだ
出来てないし…」
そう言ってスマホで磯山にしてもらった
メイクの画像を見やる
何度見ても惚れ惚れする腕前だ、本当に
まるで自分ではないようだ
ミキも自身のメイク画像を見やりボソリ
と一言漏らした
『アタシのメイクは少しギャル気味です
よね…』
「フフッ、、でも似合ってるし、まるで
ハーフのアイドルみたいだった」
『でもエミさんみたいに女優っぽいメイ
クが良かったかも…』
「そういうのも含めて、自分なりのメイ
クを完成させなくっちゃね」
『エミさんはまだ納得してないんですか?』
「まだまだ全然♪」
『そうなんだぁ~前とかなり変わったのに、
それでもまだまだですか』
「お仕事バージョンは大体決まってきたかな
後はツーリングバージョンと勝負
バージョンかなぁ」
『勝負バージョン!!なんかカッコいい』
などと話していると到着したバスから晴子が
降りてくるのが見えた
「行こうか」
エミとミキが駆け寄ると
〈おはよう!〉
明るく挨拶する晴子のメイクはいつもより明
るめで、しかも気持ち派手にしていた
「ハルちゃんメイクすっごい上手!」
〈ありがと!でもミキちゃんのがすごい向上
を感じるね〉
『エヘヘ、何度も練習したんです』
晴子は何の努力も感じさせないが、やはり陰
では努力しているのだろう
驚いた事にお店で施されたメイクをほぼ再現
してしまっているように思える
〈さ、受付済ませちゃおっか〉
先に立ってスタスタ進んでしまう、会社でも
そうだが、晴子は何でもソツなくこなしてし
まう”ミスパーフェクト”といった風情だ
総合案内の受付窓口に行くと
「本日入校予定の三名です」
と告げた
< こちらの窓口へどうぞ >
と、すぐ隣の窓口へ通され、住民票と顔写真
を提出し、費用の払い込み用紙を記入する
それらもすぐに終わり、教科書や資料を受け
取ると、本日の流れを三人まとめて、実に事
務的に説明された
< 本日の入校式は2Fの突き当りの教室で行
いますので、階段上がって左手の正面の扉
から教室に入ってお待ちください >
大まかな本日の流れの説明を受け終わり、三
人は2Fの教室へ向かった
教室に入ると、そこには人っ子一人おらず、
エミたち三人は教室中央の続きの席を3つ確
保出来た
結局、開始時間までエミたちの他には入校
者が現れずじまいだった、どうやら本日は
この三人だけのようだ
”ガラララ”
< お、皆さんもう揃ってますね >
年の頃は60ちょうど、といった風情のスー
ツ姿の男性職員が扉をピシャリと閉めなが
ら教室に入ってきた
< それでは、お時間もちょうどですので
始めましょうか >
いよいよ始まった、入校式!、、とは言え
とっても事務的で退屈な内容だった
施設案内、教習のスケジュールの説明、教
習(実技)の予約の仕方、等が説明された
何度も何度も繰り返し同じ内容を説明して
いるのだろう、抑揚も無ければ顔の表情も
何の変化もない、まるで腹話術の人形の様
な教官だった、エミは途中気になった”キャ
ンセル待ち”という項目について質問してみ
た
教官の説明によると、予約でいっぱいの時
間でも、止むにやまない事情でキャンセル
が発生する事が多いらしく、受付横の”教習
原簿入れ”から自分の教習原簿を取り、”キャ
ンセル待ち”のボックスの中に入れておくと
先に入れた順にキャンセルが発生した際に
は実技教習が受けられるのだそうだ
『何それ?アツいですね!!』
〈ヒマな時は通い詰めておけばチャンスが増えるって
事だよね?〉
「予約が取れてなくても会社帰りにフラっと寄って実
技受けられるかも?」
この話を聞いていた教員が
< お三方はそんなに苦労しないでも予約はバンバン
取れると思いますよ >
と発言した、教員の話を要約すると、昨今自動二輪は
大型限定解除を取る人が多く、中型以下は不人気だ、
との事、よって実技も中型車両は空いている、らしい
< 少なくとも”うちの教習所では”ね >
とつけ加えた、何であれエミたちには嬉しい情報であ
った
< 今日も式が終わったらお昼過ぎから18時までは実
技教習が可能だから、終わったら受付で空いてる
か聞いてみると良いですよ >
(なんですと!?)
三人はとたんに色めき立った、今日いきなり”バイク
に乗れる”かもしれないのだ!
『うわぁ…急に緊張してきた、、』
〈アタシも…〉
そんな会話を繰り広げていると、教員が不意に
< ここでいつも入校式で言って聞かせる話をします
が、ありきたりな表現になりますが、あなた達は
これから免許を取得し、車社会の一員として仲間
入りします… >
これまたお決まりのセリフなのだろう、車社会でのマ
ナー、ルール、緊急時の心得、そして車は
凶器にも成り得る、という事実、須賀が言っていたセ
リフを思い出す
【バイクは楽しいだけじゃない、楽しく乗るならその
為には、守るべきルールがあり、マナーがある】
まさにこの事だろう、きっと2人も同じ事を考えている
に違いない
最後に教員はこの言葉で挨拶を締めくくった
< バイクは便利で、車よりも小回りが利き、さらに
ルール、マナーを守り、あなた達の生活に楽しく
そして安全に利用して下さるよう、心からお願い
申し上げます >
そう言うと三人に向かって深々とお辞儀した、三人も
うやうやしくお辞儀を返すと、教員がプリントを配り
だした
< こちらの用紙は「適性検査」のプリントになります、
このテストで、大まかに、ですが皆さんの資質、性格
などが分かります、適正検査の結果は一覧表と照らし
合わせる事で分かりますが、どうしてもアドバイスが
欲しい方は受付に申し出て下さい >
皆淡々と検査を終え、それぞれがタイプが違うようだ
った、エミは”動作は早いが状況判断に欠ける”ミキは
”気分の変わりやすさやムラがある”そして晴子は”状況
判断が早い”だった、正直本人たちも納得してしまう内
容だった
次に身体検査、視力、聴力に続き、簡単な運動能力の
確認を行う、との事で実技教習場に向かった、ヘルメ
ットと手袋を装着させられ、教習車の元まで移動する
(まさか、いきなりバイクに乗るのか??)
と三人はザワついたが
< それでは一人ずつ、跨ってもらいます、これは足
の着き具合を見る為です >
『ビックリした~いきなり乗らされるのかと思っちゃ
った』
そう言いながら大きな手振りで驚きを表現するミキに
< ではアナタから跨ってみましょうか、他の二方は
バイクの両脇で万が一の転倒に備えておいて下さ
い >
ふだん原付に乗っているミキは慣れた様子でヒョイと
跨ってしまった、ミキはエミより3㎝程身長が低いが
ほとんど変わらないと言って良いだろう、足はほとん
どペッタリと着いている
< 良さそうですね、では次の方、他の方は同じよう
に万一の際地面にてあげて下さいね >
促されて次はエミの番だった、エミも同様に何の迷い
もなくヒョイと跨る、思った通り、エミの足もほぼペ
ッタリと地面に着いた、最後は晴子の番だが、三人の
中で一番高身長な晴子はもちろん足がペッタリ着くの
だった
< 次はバイクにスタンドをかけてもらいます、まず
始めに、右側のハンドルにあるレバー、これがフ
ロントブレーキになります、取り回しの際はこの
ブレーキで停止しますのでよく覚えておいて下さ
い >
右のハンドルのブレーキレバーを握ってみる、結構な
持ちごたえだった、たしかに効いている、そんな実感
があった
< ではまた先ほどの順でやっていきましょうか、ま
ずバイクを押してスタンドから下しましょう、こ
の際、タイヤが着地したらすぐブレーキを握って
下さい、また一人ずつ順番にいきましょう、他の
方は倒れそうになったら補助して下さい >
ミキのバイクの両側をエミと晴子が固める
「いいよミキちゃん!倒れそうなら支えるからね!」
『そんな入れ込まなくても大丈夫ですよ、よっと!』
言うが早いかミキはバイクを押し出し、スタンドを外
してブレーキで停止させた
< 原付免許持ちの方はやっぱり慣れてますね、その
まま右足でスタンドを踏んでかけられますか?
右手でシートの部分のベルトを掴むとやり易いで
すよ >
これまた言われるが早いかミキがスッとやって見せた
< ハイお見事です!何の問題もない、まさにお手本
のようですね >
軽く拍手しながら教員は言った、さすが原付とはいえ
毎日バイクに乗っているだけの事はある
〈ミキちゃんすごいね!〉
いつも冷静な晴子も感心している
『さ、アタシも補助しますからエミさんやってみま
しょう』
ミキに促されエミはハンドルを握った、改めてTWと
の大きさの違いを実感する、またこの教習車は転倒
防止の武骨な金属の補助フレームらしき物が左右に
付いており、それがより一層大きく、重く感じさせ
るのだ、ズッシリと重い車体の雰囲気に尻込みしつ
つも、それ以上の好奇心と、そしてこれからのバイ
クライフに向けての輝かしい一歩として、エミは意
を決して車体を前に押し出した、すぐさまブレーキ
をかけてタイヤの回転を止める、スタンドの解除に
は無事成功したようだ、次は自分でスタンドをかけ
る番だ
『エミさん頑張って、アタシ達が補助についてます
から』
〈…〉
晴子も無言ながら神妙な表情で見守っている、エミ
は右手をハンドルから離し、そのままシートの後部
ベルトを掴むと、右足をスタンドの金具に欠ける、
心の中で”せーの!”の掛け声と共に車体を後方へ引
き下げた
すると、思ったほどの苦労もなく車体が宙に浮き、
見事にスタンドがかかった、そのままロックをかけ
駐車完了となった
『カンペキですね!お見事ですぅ』
〈上手いねエミちゃん!〉
二人に褒められてエミは素直に嬉しかった、バイク
にスタンドを掛ける、ただそれだけの事だが昨日ま
でのエミでは想像もしていなかった事だ
「もう一回やってみて良いですか?」
< どうぞどうぞ、慣れといた方が良いですからね
ドンドンやってみて下さい >
教員の言葉に甘えてエミはバイクを前に出す、もう
一度心の中の掛け声に合わせて”せーの!”でバイク
を後方へ引く、今度も問題なくスタンドが掛かった
エミはコツが分かった気がした
< 問題ないようですので次の方、いってみましょ
うか>
「今度は私が支えるからねハルちゃん!」
『ファイトです!』
〈二人ともお願いね~〉
ミスパーフェクトの晴子も、さすがに緊張している
様子だ、だが思い切りは良いようで、ブレーキに手
をかけるとすぐさま車体を前に押し出す、着地した
らすかさずブレーキ、ここまでは順調だ、右足をス
タンドに掛けると右手をベルトに持ち替える、と、
一呼吸のうちにスッと後方へ車体を引く、流れるよ
うね一連の動作で何の気負いもなくスタンドを掛け
てしまった
〈結構簡単ね、あんまり力とか必要ないみたい…〉
さすがはミスパーフェクト!何でもソツなくこな
してしまう
ここまでは三人とも順調であった
今作は作者がTikTokで見かけた「詐欺メイク」にヒントを得て思いついたストーリーとなります
多分に作者の社会人生活と私生活が反映された内容となります、読者の方が「ん?」と思う社会描写が
ございましたら、それは作者の過ごした社会背景との相違と受け取って下さい
メイク技術、用語などはネットの情報を元にしておりますが、なにぶん作者は
「野郎」ですので、この部分、なるべく寛容にご容赦くださると幸いです。




