明暗!?
日常系って人気無いですよね、でもハートウォーミーな話が好きなんです
仕事中、ふとした時に思いつくシチュエーションにストーリーとキャラクターを
肉付けして背景を描写する、この手法しか今のとこ持ち合わせていないのですが
なるべく山あり谷あり、読み味のある物語になるよう努力してます
温かい目で読んでいただければ幸いです。
ものの見事に10ピン全てをなぎ倒し、ここまでの我
慢のボウリングの鬱憤を晴らすかのようなダブルと
なった!
<ぃよっしゃあぁぁぁぁ!!>
〖きたきたきたきたぁぁ!!〗
〘ここでのダブルは大きいぞ!!〙
『ナイスストライク!』
〈すっかり見入っちゃった…〉
エミは言葉が出なかった、皆が随分と盛り上がる中
エミ自身はこれといって上達している実感など無か
った、仮にも対決している晴子は良い感触、とやら
を実感していた様子で、何ら手応えが感じられない
エミは、なんだか皆に置いてきぼりを食ったような
、そんな疎外感を感じていた
〖このままの流れで行こう!〗
由貴とハイタッチを交わしながら伸一がそう言うと
不意に由貴の目に難しい表情をしたエミの姿が目に
入った…
由貴は向かい合わせの半円形の椅子の自分の席に戻
ると、向かいの席のエミに声をかけた
<どしたの~?難しい顔して?>
由貴に声をかけられると、エミは口を開こうとして
少し言いよどみ、それでも口を開いた
「あ、アタシ、皆みたいに上達してないし、ミキち
ゃんみたいに上手に由貴さんを励ましてもあげら
れない…」
そんなやり取りをしている所に、残りの1ピンを捉
え、キッチリ8フレームをスペアで終えた伸一が戻
って来てタッチを求める
「ゴメンね由貴さん、、、せっかくみんなで盛り上
がってる所なのに…」
由貴は首を振って微笑むと、エミの手を引いてレー
ンへと上がる、ちょうどエミの投球順だ…
<はい、エミちゃんのボール!>
由貴はエミにボールを手渡すと、背後からエミの両
肩を掴んで耳元で静かに声をかける
<いい?エミちゃんの立ち位置は何処?>
由貴に問われ、エミはもう一度自身でその位置を確
認する
「真ん中のスパットと1個右のスパットの中心に両
足の中心!」
<うん、ここね!じゃあ狙うスパットは?>
エミは横一線に並ぶスパットを睨むと
「真ん中のスパットと2番目のスパットの中心!」
<じゃあ投げる時は?>
「落とさず、放り投げず、レーンに転がすように」
<おっけ~♪バッチリじゃない!>
「でも!アタシいい感触なんて全然、、、」
<そんなもん、出てても気づいてないだけだよ>
「だって、、、」
<ほらほら、深呼吸して!さぁ!!>
由貴に促されるまま大きく息を吸って吐く、それ
に合わせて皆も同じ様に深呼吸している
<落ち着いた?そういう入れ込みが一番良くない
からね!>
「ゴメンね由貴さん、手間かけさせちゃって…」
<な~に言ってんの!エミちゃんやハルちゃん、
ミキちゃんに教えながらだと基本を忘れずに
済んでるよ!いっちょガツンと思い切って行
ってみて!>
由貴の優しさがなんだかとても心地よかった
「うん!頑張ってみる!」
そう言うと、明らかに生き返った目でレーンに向
かうエミの構えには、先ほどまでに感じられなか
った覇気が感じられた!
〘敵に塩を送るってやつじゃないかな…これは…〙
<敵も味方もないのよ、アタシたちにはね!>
由貴には分かっていた、伸一にも、ミキにさえも
分かっていた、エミは何も悪くないのだ、フォー
ムも、テンポも、そして放ったボールも…
理由は単純…非力なのだ!
だが決してストライクが出ない訳ではない
事実1ゲームの間に1~2本は取れている、カバー
率も晴子とはどっこいどっこいだ、だが晴子はエ
ミに比べややパワフルなのだ、ミキほどではない
にせよ、晴子は由貴と同程度には玉に力がある
エミは元々非力な所に加え、周りがコントロール
コントロールと、投球に力が入り過ぎるのを嫌う
流れが悪く働いて今の状況に陥ったのだ…
一度思い切ってブン投げれば活路が開ける、そん
な気がしたのだ…
エミ自身もまた、同じ事を思い悩んでいた
コントロール重視の投球はボウリングをする上で
楽しみの一部である反面、ストライクを狙って放
り込む”スカッ”とした爽快感とは対極にある
エミはずっと最近この部分を抑え込んでいたのだ
(ここらで一つ思いっきり投げてみよう!)
由貴の言葉がエミの心を吹っ切らせた…
レーンに上がると、皆にクルリと向き直り、大き
く深呼吸をする
ふぅ~っ!
それに合わせて、全員が同じく深呼吸…
レーンに相対するとすかさず立ち位置を入念に合
わせる、狙うはあのスパットの間!板の合わせ目
まで睨みつけると、なんだか今までの狙いがまだ
甘かったように感じる…
よし!
大きく目を見開くと、もうエミの目には投げ込む
目標地点しか映っていなかった!
真っすぐバックスイングを振り上げ、今回は力を
込めて前へと振り抜く!
と、、、、
エミの指先に違和感…
放たれたボールはヘッドピンの裏側へと転がり…
パッカ~ン
いつもより大きめの炸裂音を響かせ、8本のピン
をなぎ倒した、、、
後には6番と10番ピンが残っている、いつものエミ
の残りとは明らかに違う残り方だ…
当のエミはその結果を見ようともせず、自身の手を
眺めていた
<どうしたの?指でも痛めたの??>
慌てて駆け寄って来る由貴だったが、エミは
「違うの、今、、、良い感触とは逆に投げる瞬間に
違和感があったの」
<指離れが悪かったんだね、どうりでエミちゃんに
しては変な残り方だと思った>
「アタシにしては???」
<そうだよ!エミちゃんはキチッとやる事出来てる
から右利きが苦手な右側の残しが出にくいの!>
「そうなの!?」
<そうだよ、だから130台まで伸びたんだと思う、
そして思い切り投げた事で逆に悪い感触が分かっ
たみたいね(笑)>
「悪い感触なのね、今のが?」
<そう、そして今までのが良い感触って訳!>
「あ、、、、、、、、!?」
何の事はない、今までの投げ方で良かったのだ…
思いっきり投げた事で悩んでいた事がアッサリと
氷解した!
〖さぁ、キッチリ取ってスペアと行こう!〗
『そうそう、お願いしますよ~!』
エミが2投目の為にレーンに立つと、またも由貴が
エミの両肩を後ろから掴むと
<良い?昨日太田さんが言ってた通り!あの6番ピ
ンがヘッドピンだと思って、そしてそれを左側
からストライクにするつもりで投げるとすると
、立ち位置と投げ込むスパットは何処?>
「ん~と、一番右から2番目のスパットの正面に立
って、投げるのは1番右と2番目の中心!」
<よし!今度は2投目だからコントロール重視で!
狙ってみて!!>
そう言って由貴はレーンを降りて見守る
(よ~し!ここに立ってと、、、)
今ままで端の残りピンに投げ込む時は、ガターの
プレッシャーに襲われながらの投球だったが、こ
うして狙い所が分かってくると、何のことは無い
要はヘッドピンを狙うのと同じ理屈なのだ!
不思議な程落ち着いて投球に入る、力みのないバ
ックスイング、球の重量にまかせて無理のないス
イングでの投球、力を込め過ぎず転がすように…
自然にレーンに転がったボールは、エミの指から
スルリと抜けて、ほぼ狙った場所へと転がる
(どうだ?ちょっと右かな?)
ホンの少し狙いより右にはズレたが、ガターに落
ちる程でもなく、真っすぐに6番ピンの右側を捉え
たボールは、そのまま後ろの10番もなぎ倒した
上部画面に踊るSPAREの文字!
由貴の助言をもらい、自身で試行錯誤して獲得し
たスペアだった!
〖ナイススペア!!〗
『やりましたね!完璧狙って出したスペアです』
<あ~ゴメン…エミちゃん乗せちゃったかもね…>
〘良いでしょそれで!〙
〈そうそう♪〉
「あれが良い感触なんだね!やっと分かった♪」
珍しく興奮した様子のエミを見て、クスリと微笑
む由貴が感じていたのは、ボウリングにおけるス
コアメイクで良くあるジンクス…
それは普段出ないようなハイスコアが出る時、一
緒にプレイしている仲間もまた、かつて出したこ
とのないようなスコアを記録する相乗効果
まさにライバル効果と言える物だ…
本来は川本が自身を引っ張ってくれるのだろうが
今回は…
チラリとミキを見やると、振り返ったミキと目が
合う、ニコリと笑うとミキもニヤリと笑いを返す
由貴の中に予感めいたものが沸き上がっていた…
迎えた8フレーム目、伸一の投球順…
<しっかり!ここでストライクなら200届くかも
よ~!!>
〖うん!その通りだね…〗
由貴の言う通り、ここでダブルが出れば200に届く
可能性はグッと上がる…
(落ち着け!入れ込まなくても球の威力は十分な
んだ、コントロール重視のままで良い!)
伸一も自らを落ち着かせる為に、皆の方を向くと
深呼吸をし始める、すぅ~っ、はぁ~ もはや何
も言わずとも、皆が同じく深呼吸をしている
その光景は、傍から見れば異様な光景なのかもし
れないが、ボウリング場という非日常な空間では
特にこれといった浮いた行動にも見えない
ボウリング場は楽しむ場所なのだ!
〖よ~し!行ってくる〗
「しっかり!伸ちゃん」
『慎重に!勝敗に関わるポイントですよ』
<まぁ自分との戦いだね…>
〘主任!頑張って下さい!〙
立ち位置よし!目標スパットよし!あとは力まず
自然なスイングで、レーンに球を転がすっ!!
(行け!今のオレの全力のコントロールボールだ)
見守る一同、ボールは狙いのスポットへと吸い込
まれる、、、、だが…
弾かれたピンたちは無情にも8番ピンを残して流れ
て行った…
<うわ~、ピンアクションに運が無かったね~>
〖くぅ~イッたと思ったのになぁ…〗
〈絶対取れたと思ったのに…〉
「切り替え!切り替え!確実にスペアを取ってい
こう!」
エミの言う通りだ、残りピンに集中だ!まだ200
への道は閉ざされてはいない?か?
その横で由貴が投球準備に入っていた
〖由貴さん、そっちはダブル継続中だ!頑張って
!〗
<もっちろん!>
言われるまでもなく由貴もターキーを狙っていた
ここでターキーなら6フレームの時点で125点!
その後のストライク2つを考慮すればほぼ200そい
うスコアを手中に収めたと言っても過言ではない
状況だ、だがその1本のストライクが出ずにここ
まで200と言うスコアに届かずにいるのだ…
ここで油断は禁物!
確実に、しかし威力も殺し過ぎず、フォームを
崩さないよう最新の注意を払って…
(どうだ!?)
コントロール出来る中での最善の威力!
ボールは狙い通りのスポットへと吸い込まれる
そして…
倒れたピンは無情にも9本!
<あ~!もうっ!こっちもピンアクションに見
放されたね>
この瞬間に由貴の6フレームに124のスコアが表
示された
〖ぐぁ~惜しいッ!〗
<ね~~~!!>
由貴と伸一はお互いに顔を見合わせて悔しさを
滲ませた
〖ここで腐っちゃダメだ!確実にこのスペアを
取る!〗
<そうそう!絶対崩れてなんかやんない!>
1ピン残った者同士が、なんだか連帯感を持っ
て互いのスペアに燃えている
<アイツ大ッ嫌い!しょっちゅうあそこに居残
ってさ…>
1本残った7番ピンを指差しながら由貴が忌々し
気に文句を垂れる、それで緊張がほぐれたのか
サラリと2投目を投げた伸一は、難なくスペア
を獲得した
<ナ~イススペア!続くね>
〖ありがとう!そっちも取ってよ〗
<おまかせあれ!>
その言葉通りあっさりとスペアを獲得すると、
次に続く浜崎らとハイタッチを交わす
本音を言えばここでストライクが欲しかったが
それが取れるのであればとっくに200は達成し
ていただろう…
改めて200と言うスコアの壁を感じているが、
不思議と絶望感や失望感は感じない
それよりも、皆とこうして楽しく、真剣にボウ
リングに興じている今が堪らなく楽しく、そし
て満たされているのだ
だがストライクとスペアに加点がされるフレー
ムは次の9フレームまで!
最低でもスペア…出来ればストライクを!
今日で超える!200の壁を…
1人で超えられなかった壁を、仲間と共に乗り
越える!そんな思いが由貴の胸にあった…。
今作は作者がTikTokで見かけた「詐欺メイク」にヒントを得て思いついたストーリーとなります
多分に作者の社会人生活と私生活が反映された内容となります、読者の方が「ん?」と思う社会描写が
ございましたら、それは作者の過ごした社会背景との相違と受け取って下さい
メイク技術、用語などはネットの情報を元にしておりますが、なにぶん作者は
「野郎」ですので、この部分、なるべく寛容にご容赦くださると幸いです。




