予期せぬ再会①
日常系って人気無いですよね、でもハートウォーミーな話が好きなんです
仕事中、ふとした時に思いつくシチュエーションにストーリーとキャラクターを
肉付けして背景を描写する、この手法しか今のとこ持ち合わせていないのですが
なるべく山あり谷あり、読み味のある物語になるよう努力してます
温かい目で読んでいただければ幸いです。
「こんにちは~!!」
インターホン越しに挨拶するエミの声は弾むように
明るく、その心境を物語っていた
後ろに控える伸一はというと、すっかり緊張した面
持ちだ…
それと言うのも
「今日はアタシのメイクの集大成なの!」
と、たっぷりお色直しに時間を割いていたからだ
土産物を渡しに来るのにメイク直しなど、聞いた事
もないのだが、佳澄を師匠と崇めるエミにとっては
そうもいかないようで、今日須賀の自宅に土産物を
届けるのには特別な意味がある事も承知している
当のエミは自身で運転してこの土産を買いに行った
事と、それを自身の手で届ける事の喜びが勝ってい
るようで、気分もルンルンといった様子だが…
❝ハーイどなた?あ!!エミちゃ~ん♪❞
「こんにちは!今日めでたく、ロングツーリングに
出かけて来たのでお土産持ってきました!」
〖無事遠出を終えてきたよ…〗
❝あらあら、おつかれさま!お茶入れるから上がっ
て上がって❞
そう言うと佳澄は2人を屋内へと招く、エミも伸一
も、そうなるであろうとは予測していた為、さし
て抵抗もなくその招きに応じた
【お!?いらっしゃいお2人さん】
「おじゃまします…」
〖おじゃまします幸太おじちゃん!〗
❝さっき仕事終わって帰ったばかりでねぇ、バタバ
タしちゃってゴメンなさいね…❞
時刻は夕方17時、土日は先番と後番があると言っ
ていたが先番だったのだろうか?
「コレ、お土産です…」
おずおずと紙袋を渡すエミ、その袋を見た須賀は
【おお!川上屋か!?結構距離ある所まで行って
来たね、これならもうイッパシのバイク乗りだ
ねエミちゃん】
エミにとっては何より嬉しい言葉だ、少し目元が
潤んでしまう…
❝あら~こんなにたくさん、良いのエミちゃん?
結構お金使っちゃったでしょ?❞
〖オレと共同で買ってきたから気にせず貰ってや
ってよ、奮発しといたから!〗
【ありがとう伸ちゃん、有難く貰っておくよ】
無事お土産は渡せた、あとは…
エミの顔に緊張が走る、見守る伸一は、何故かエ
ミよりも緊張した面持ちで、固唾を飲んで流れを
見守っている
「アタシの今出来る最高のメイクで一番好きな和
菓子をお土産に持ってきました、これが今のア
タシに出来る精一杯です!」
この言葉を受けて、佳澄も真剣な表情に変わった
真剣にエミの顔を見つめる目はいつもの柔和な佳
澄のそれではなく、1人のメイクのプロとして
弟子とも言えるエミの成長の度合いを見極めよう
とプロの審美眼を駆使しているのだ…
1分ほどもそうしていただろうか、さすがの須賀
も軽口を挟めない空気感の中、ついに佳澄が口を
開いた
❝あえて点数をつけるなら…❞
そう言ってアゴに手をやり一呼吸置いた佳澄は、
総評を述べ始めた
❝90点!まずエミちゃん自身の顔立ち、雰囲気に
合っているか、これは問題ないわね、色の選択
、メイクの濃淡、眉の形に至るまで、よく考え
てメイクしてると思う…❞
【何が10点足りないんだ??】
須賀は納得がいかない、といった表情だ…
❝うぅん、足りない所なんてないの、アタシたち
プロだって、100点満点だ!なんて言えるメイ
クを施すのはほとんど不可能なのよ…これは満
足して欲しくない、まだまだメイクにモチベー
ションを保って欲しいっていうアタシの願いの
現れ…❞
そう言ってエミの手を取ると、満面の笑みで最後
にこう告げる
❝メイクに興味を持ってくれてありがとう!そこ
を加味したら120点よ!!❞
そう言って佳澄はエミを抱きしめる
エミの目に思わず涙が溢れる、、、、
伸一は気づけばガッツポーズを取っていた、まる
で自分の事のように嬉しく、何とも言えない達成
感が胸に去来した
その頃晴子は、降って湧いたような手手持無沙汰
な時間を如何にして過ごすかを思案していた
〈買い出しも昨日の帰りに行っちゃったし、何し
ようかな~…〉
須賀に出会って、免許を取得してからというもの
休日ともなればメイクにツーリングに、と随分趣
向が変わり、晴子の生活は以前よりも遥かにアク
ティブな物へと変貌を遂げていた
とりあえず弁当のおかずでも仕込むか、と、思い
立ち上がった、正にその時、
ブゥーンブゥーン、、、、
晴子のスマホが着信を告げるバイブの振動でテー
ブルを揺らした
画面には懐かしい高校時代の同級生の名前…
〈ハイ、もしもし…〉
«もしもし~晴子??ひさしぶり♪»
〈久しぶりね~洋子、どうしたの急に?〉
«いや~今ね、おリョウが里帰りしてて、バッタ
リ会ったからお茶してるとこなの、晴子も地
元だからヒマしてたらどうかな?って»
〈涼子ちゃん帰って来てるんだ、ちょうどヒマ
だけど行って良いの?〉
«うん!おいでよ、○○町のコメダにいるから»
〈分かった、準備してすぐ行くね…〉
プッ……
ちょうど良いタイミングでかかってきた何とも
言えない旧友からの誘いの電話…
渡りに船のようなこの状況に、若干の喜びと、
少々の不安…
と言うのも、学校を卒業してからの同級生との
再開にあまり良い思い出がないのだ…
互いの会社の上司へのグチ、平凡な日常への退屈
、それらを、せめてもの楽しみで満たそうと
するファッション、食事、異性の話…
(気が乗らないなら行かなきゃ良いのに…)
そうは思うのだが、社会人である現状で無下に断
るのも今生の別れに等しい軋轢を生みかねない…
何がどうした訳でもないのにそれはないだろう
適当におしゃべりを楽しんで今日はおいとま…
最初はそんなつもりだったのだが、、、、
⦅いらっしゃいませ~⦆
店員の声に迎えられ、晴子が店内を見回すと
«こっちこっち~»
店の奥から洋子の招く声が聞こえてくる
〈おまたせ、ちょっとかかっちゃった…〉
久しぶりに顔を合わせた洋子は、高校時代とほと
んど変わらない外見もさる事ながら、フランクな
人当たりも変わらない様だ…だが!!
向かいに座る涼子は明らかな変化を感じさせた!
«どうしたの?早く座りなよ!!»
そう言って自分の隣の席を手でポンポンと叩く洋
子に促され、自然に洋子の隣に腰を下ろした
"久しぶりね~ハルちゃん♪"
〈ホントだね~おリョウ!〉
そう言う涼子はスッピンに近い程の極薄のナチュ
ラルメイクで、高校時代は少し派手目な印象を持
っていた晴子としてもいささか驚いた
«なんかおリョウの印象が地味になったよね~
(笑)»
親しい関係性とは言え、いささかブッ込みすぎか
とも思える洋子の物言いだったが、当の涼子は一
切気にした様子もなく、サバサバとした物言いで
"男だらけ、おまけにオッサン連中が多い職場だか
らこんな感じで良いの!"
と、気っ風の良さを見せる、涼子はこの気っ風の
良さと、美人の部類に入るであろうルックスで高
校当時も男子の人気が高かった
«勿体ないよね~!せっかく美人なのにさ…»
そう言い自身の外見を卑下する洋子、可哀そうだ
が涼子と晴子に挟まれていては、洋子の外見は平
凡と言わざるを得ないところだ…
"そういうのはどうでも良いのよ、今は仕事が楽
しくってね♪"
〈造園だっけ?具体的には何してるの?〉
"ん~そうだな~、最初は草や枝を刈ったのを後
片付けばっかりさせられてた、んだけどね…"
"最近では刈るのも、外構もやらせてもらってる
の!"
〈庭を造ったり??〉
"そうそう!だから資格も結構取ったよ"
≪へ~どんな資格??≫
"たぶん洋子が思ってる資格とは随分ちがうよ、
高所作業車とか玉掛けとか…"
〈何それ!?〉
"高所作業車は高い所の枝を剪定したりする時に
使うの、こうブームって言うアームがついて
て、その先に乗り込むバケットがあってね…"
嬉々として自身の仕事を語る涼子の話が興味深
く、いつしか晴子も洋子も前のめりで話を聞い
ていた
世に言う土木女子!いわゆる ”ドボジョ” と
いうやつか…
"で?2人は最近どうなのよ??"
テーブルに頬杖をついてこちらを見回す涼子が
問うてくる
〈アタシはね~最近バイクにハマってるの!〉
≪へぇぇ~~ハルがバイクに!意外~!!≫
"ホントだね!?どんなの??"
〈今日も乗ってきたから後で見せたげる、外に
停まってるよ!もうカッワイイの〉
"アタシの相棒はカッコいいって方かな!"
〈おリョウもバイクに?〉
"うぅん、アタシは車の方!AZ-1って軽のスポ
ーツカー、って知らないよね~(汗)"
〈ゴメン、分かんないや…〉
«でもスゴイんだよ~乗せてきてもらったんだ
けど、こうガ~っとドアが開くやつでね»
"ガルウィングね!カウンタックと同じ機構の、
ってこれも分かんないか(汗)"
〈名前だけは聞いた事が…〉
その後はお互いが愛車自慢と洋子の相槌を経て盛
り上がり、話題はお互いの趣味の始まりへと向か
った、涼子は車を買う際に職場の若い者の勧めも
あり、中古車屋へと向かったところ、AZ-1に一目
惚れした、との事だ…
晴子は、エミと須賀の出会い、その経緯から正直
に全て説明した
«なにそれ!?めっちゃイケおぢじゃん!!»
"しかも庭師!?同業!!ますますイケてる"
〈エミちゃんだけじゃなく、アタシたちにとって
も恩人なの、須賀さんは…〉
"いまどき良い出会いだね~"
«だ~からハルはそんなにメイクが冴えてんのね»
〈そうそう、お師匠様がいるからね!〉
須賀夫妻との出会い、晴子やエミやミキにとって
大きな意味を持つ大事な大事なつながりだった
«アタシもバチッとメイクしたら少しはマシにな
るのかな~??»
〈なる!絶対に!!〉
"おお!熱いねハルちゃん"
«ホント!?ホントにホント??»
〈うん!なりたい自分にはね、努力して自分でな
るの!〉
«な~んか変わったねハルちゃんは!»
〈そうなの?ホント?〉
«うん!すっごく変わった、何て言うか今が楽し
そう!おリョウもだけどね»
"うん、楽しいね、今…"
〈アタシも…〉
«そっか~、、、アタシだけな~んも無いのよね
…トホホだよ…»
〈じゃあとりあえず行こっか!〉
"«え??何処に??»"
〈お師匠さまのとこ!〉
とりあえず洋子を変身させよう!この後ろ向きの
思考、以前のエミを見ているようだ…
このままにしておいては良くない、そんな思いが
晴子の胸にあった、自分には出来ない、無理だ、
そんな考えでいるうちは何事もうまく進もうハズ
もない、運命の女神は切り開く気概を持つ者にこ
そ微笑むのだ!
そう言うと晴子は伝票を引っ掴んでサッサとレジ
へと歩いて行ってしまう
"ちょっとハルちゃん、コーヒーしか飲んでないで
しょ?"
〈良いよ、おリョウとも久しぶりの再会だし、ア
タシがおごったげる〉
«なんだかホントに変わったね~ハルちゃん…»
〈翼が生えたのよ、愛車って言うね…〉
会計を済ませて外に出ると、赤い軽のスポーツカ
ーが目に留まる
〈もしかしてコレ!?〉
"そうよ、カッコ良いでしょ??(笑)"
〈すっごく!ねぇ中見せて〉
"どうぞ、乗ってみたら"
そう言って助手席のドアを開放する涼子、垂直方
向に開くガルウィングに軽く衝撃を受けつつ、地
を這うような高さの助手席に乗り込むと、まるで
視界がAPEと変わらない
〈なんかスゴいね!走る為の車!って感じ〉
実際晴子がそう感じるのも無理はなく、スパルタ
ンな内装は飾りっ気が少なく、晴子の目の前には
エアコンの吹き出し口が二つと足元に赤く見える
剥き出しの発煙筒、辛うじてミラーから垂れ下が
るファー付きの芳香剤に女子っぽさがやや感じら
れる程度だ、その潔さと無駄の無さに終始圧倒さ
れる…
«ハルちゃんの愛車はあれかな?»
そう言って涼子が指さす先には、愛すべきAPEの
姿が…
"2シーターだからハルちゃん車で来るの期待して
たけどまさかバイクとはね~(笑)"
«ね~~!!どっちかて言うとおしとやかなイメ
ージだったのに…»
晴子がAPEを押してくると、女子2人から歓声が
上がった
«何コレかわいい~♡»
"だけじゃなくってカッコ良いねこのバイク!む
りやり小さくした感じが無いの"
恐らく、よくあるレーサーレプリカなどの小排気
量のバイクの事を言っているのだろう
確かに無理やりサイズダウンした感じがするのは
否めない物もある
まぁ、あれはあれで味があるのだが…
〈じゃあ行こっか!今日はちょうどお師匠様が出
勤の日だから店にいるよ!〉
そう言うとAPEに跨りエンジンをかける
涼子も颯爽と運転席に収まるとガルウィングを閉
じ晴子に指を立てる
ヘルメットを被った晴子が合図を返すと、そのま
ま軽快にクラッチを繋いで発進した
思いもしなかった休日の再会、さらに思いもしな
かった展開だが、不思議と充実していた
日々を頑張る自分に、刺激をくれる友人たちとの
時間…
(今日は来て良かった!!)
出がけの憂鬱は何処へやら、、、
颯爽と路面を蹴るAPEは、まるで晴子の弾む心を
表すかのような軽快さだった…
今作は作者がTikTokで見かけた「詐欺メイク」にヒントを得て思いついたストーリーとなります
多分に作者の社会人生活と私生活が反映された内容となります、読者の方が「ん?」と思う社会描写が
ございましたら、それは作者の過ごした社会背景との相違と受け取って下さい
メイク技術、用語などはネットの情報を元にしておりますが、なにぶん作者は
「野郎」ですので、この部分、なるべく寛容にご容赦くださると幸いです。




