由貴の事情
日常系って人気無いですよね、でもハートウォーミーな話が好きなんです
仕事中、ふとした時に思いつくシチュエーションにストーリーとキャラクターを
肉付けして背景を描写する、この手法しか今のとこ持ち合わせていないのですが
なるべく山あり谷あり、読み味のある物語になるよう努力してます
温かい目で読んでいただければ幸いです。
<さ~てとお昼何食べよっか?>
『この近くに古めかしくて定食が美味しい喫茶店
があるって下調べで出てましたよ…ホラ!コレ』
そう言ってミキはその店のレビューを開いたスマ
ホを由貴に見せる
<何コレ?ナポリタン焼うどん!?>
『興味わきません?』
<良いね!ここ行こうか!!>
『分かりました!GOOGLEMAP開いてっと…』
慣れた手つきでスマホを操作すると、すぐさま行
先指定し、スマホをタンクバッグの背に入れる
『このタンクバッグホントに使いやすい♪』
<機能的なのにオシャレなのよね!>
そう言う由貴もあれからずっと愛用している、ハ
ーレーに合わせても違和感のないそのデザインに
本当に重宝している…
『じゃあ行きますか!ついて来て下さい』
<おっけ~!じゃあみんなまたね!!>
そう言って由貴が手を振ると、ゴツいハーレーの
周りに屯す4人ばかりの中年男性が嘆きの声を上
げた
”もう言っちゃうの由貴ちゃん?”
”せっかくミキちゃんと知り合えたのに…”
”またすぐ顔だしてよ!”
”今度のツーリングには必ず来てね!”
4人が4人ともに由貴の出発と、せっかく出会えた
ミキとの別れを嘆くのだった
ミキが振り返り手を振ると、中年集団はおろか目
にした店員までもが手を振り返し、まるで別れを
惜しんでくれているかのようだった…
”たぶん大歓迎されるよ”
由貴のその言葉通り、ミキは店員にも、そして常
連客、それもとりわけ由貴の馴染みの例の
”おっさんズ” にとても歓迎された
自販機の横を通りすがれば
”ミキちゃんと由貴ちゃん何飲む?”
と、遠慮しても飲み物をおごられ、ひとたびミキ
がハーレーのパーツに興味を示せば
”オレはコレつけてるんだがな、○○がこうなって
△△がこうだから悪くない”
とか
”いや~オレはこっちの◇◇がおススメだね!”
と侃々諤々始まる始末、だが不思議と煩わしさは
なくミキも自然と笑顔で輪の中にあった
由貴はと言うと、それらの中にあっても堂々と自
身の意見を述べ、時にはこれはこうだと反論して
いた
だがその表情は終始明るく、店長も含め、この人
たちに会いに来たんだな、とミキが分かるには十
分だった…
由貴が足を運び、心を通わす、そんな店がここな
のだ…
(アタシにもこんなお店が出来たらな~)
そんな思いが漠然とミキの心中に去来する
目的地へ向かう間も、ミキの頭の中はハーレーシ
ョップとその仲間たちでいっぱいだった
『着きましたよ~ココです!』
<結構車停まってるね、早く行こうか>
仲良く2台並べて店内へと足を踏み入れる、行き
慣れたあの喫茶店とはまた佇まいの異なる
でもやはりどこか懐かしく、少し昭和を感じるそ
の趣がなんとも心地よい
≪いらっしゃいませ~、こちらへどうぞ≫
女性店員の案内され奥のテーブル席へと通される
見た所ここ以外に空いている席は見当たらず、タ
イミングとしてはラッキーだったと言えた
<待ちが無くて良かったね>
『タイミング良かったですよね…』
そう言いミキがキョロキョロと店内を見回すと、
年季の入ったテーブルとイス、絶妙に古ぼけた漫
画と雑誌、カウンターにはコーヒー豆の缶が並べ
られ、お品書きには時代を感じる…
『なんか良いですね~ココ…』
<ノスタルジーって感じだよね、いつものあの鐘
の音は無いけども…>
『ちょっと寂しく感じますよね…(笑)』
<マスターが泣いて喜びそうだわ…>
そう言って由貴がメニューをテーブルに開いた
『わ!変わったメニューがいっぱいありますね!』
ミキが口にした通り、この店は風変りなメニュー
を多数揃えていた
レビューで見たナポリタン焼うどんをはじめ、最
近では認知度の上がってきたトルコライス、チキ
ン南蛮焼きそば、和風な物では焼き鮭親子丼など
メニューを眺めているだけでも楽しい!
<これは一考の価値アリだね!>
≪しっかり悩んで選んでくださいね~≫
そう言いながら妙齢の女性店員はお冷とおしぼり
を共じて去ってゆく
『むぅ~困りましたね…』
真剣に悩むミキの表情を見つつ、ボソリと由貴が
不意に一言、、、
<ありがとねミキちゃん…>
その一言に、キョトンとした表情のミキが
『アタシ何かしましたっけ?』
<うん!とっても助かった>
しばらく店に顔を出していなかった、というか出
しづらかったのだ、三人娘との休日のお出かけが
楽しいのもあったが、それよりも、、、、
『長岡さんですねぇ…♪』
<な、、、え!?>
あまりにも鋭いミキの指摘に、ガラにもなくアタ
フタする由貴、これでは図星だと白状してるも同
然だ…
『まぁまぁ、まずはメニューを選びましょうよ』
この娘はこういう事にはやたらと鋭い一面を見せ
る時がある…
フッと笑うと、由貴も真剣にメニューと向き合う
<アタシは決めたよ!>
勝ち誇った顔で由貴がそう言うと、ミキの顔に焦
りが浮かぶ
『ちょちょ、ちょっと待ってくださいね…』
アタフタしながらメニューに指先を這わせる
<何と何で悩んでるの??>
『このナポリタン焼うどんとオムハンバーグで』
<ここ見た??>
そう言って由貴が指さす先には”ハーフメニュー”
の文字、何でも赤丸のついたメニューはハーフの
対象なのだそうだ
<ちなみにアタシは唐揚げとナポリタンのハーフ
!!>
『わ!何ソレ??そんなのアリなんだ…』
<オムハンバーグはハーフ無理か~、、ハンバー
グを取るかオムライスを取るかだね…>
『ここは断腸の思いで、、、こっちだ!』
そう言ってミキが呼び出しのボタンを押す
すぐに先ほどの店員が現れると、ミキがすかさず
『オムライスとナポリタン焼うどんのハーフセッ
トで!』
と注文した、どうやらオムライスに軍配が上がっ
たようだ、由貴も唐揚げとナポリタンのハーフセ
ットを注文し、食後にそれぞれアイスコーヒーを
つけた
<フフフ、手強いメニューだったね…>
『ですね、、、、』
そう言いながらパタリとメニューを閉じ、所定の
位置へと戻すミキ、すると…
『で?長岡さんとは何を話してたんです?』
いきなり核心を切り出した
この質問に、一瞬驚いた表情を浮かべた由貴だっ
たが
<参ったな、、ミキちゃん鋭いんだから…>
『エヘヘ…』
と、観念した様子で内容を教えてくれた
<近いうち何か奢ってもらう約束したよ…>
『え~!?話の流れが分かんないですね…』
<実はね、もう分かってはいると思うんだけど、
アタシがハーレー買うキッカケの例のセリフを
吐いた奴がアイツなのよ…>
『あぁ、あの、由貴さんじゃハーレーはムリだろ
うな、ってやつ?』
<そうそう、それ!思い出してもムカつくんだけ
ど、、それを見返してやりたくて大型取ってハ
ーレーも店長と内緒で購入を勧めてね…>
由貴の話を要約するとこうだ、しょっちゅう店に
顔を出しハーレーを眺めては店長らとしゃべって
帰る由貴を快く思っていなかったのであろう長岡
が、ある日JUMPSTARTでハーレーに跨っていた由
貴の元へやってきて
[ハハハ、跨ってみたところで、由貴ちゃんじゃハ
ーレーは無理だろう]
と嘲笑ったのだと言う、その場で由貴のJUMPSTA
RTを補助してくれていた店長が、由貴よりも先に
長岡を強めに叱ってくれ、その場は収まったとの
事だが、由貴の腹の虫は収まらず、大型免許を取
得し、ついには貯金をはたいてパパさんの購入に
踏み切ったのだ…
『で?それ見て長岡さんはどう言ったんです?』
<その後ね、アタシはあの店で誘われてハーレー
のオーナーズグループに仲間入りさせてもらっ
て、初めてのツーリングに参加した時、アイツ
も居てね…>
『ふんふん!!それで?』
<パパさん乗りつけてやったらそれはもう驚いた
様子でね!ざまぁ!!!!って感じだったわ、
でもね、、>
[由貴ちゃんパパさん買ったんだ!スゴいね!本当
に驚いた!でも大丈夫??無理してない?フル
ローンかな?ゴメンね、オレのせいだよね?]
<だってさ!?頭くるでしょ?素直に謝れ!って
のよ>
(え??それって普通に由貴さんの心配してくれ
てるんじゃ?)
<それからだよ、アイツがアタシをやたらに食事
とかに誘ってくるようになったのは>
『それはアレですね、、、』
<アレ!?>
『由貴さん惚れられてますね!間違いなく』
<まさか!?それはないって…>
そうは言いつつも由貴にも思い当たるフシがあっ
た、、、
(やはりこの娘鋭いわ…)
『多分間違いないと思うけどな~、アタシこうい
う勘って鋭いんです!』
と、その時、例の妙齢の女性店員が2人の注文を
持って現れた
≪お待たせしました~ご注文の、、≫
2人の前にそれぞれ唐揚げとナポリタンのハーフ
、オムライスとナポリタン焼うどんのハーフが配
られる
≪ごゆっくりどうぞ~≫
そう言って去って行った店員は、すぐさま戻って
くると、サッと2人の水を足して去ってゆく
『わぁ~♡ 映えますねコレ!』
<ホントだ!これは画ヂカラあるね>
そう言うと2人ともスマホを取り出し、パシャパ
シャと写メを撮り出す
一通り満足すると、2人ともが箸とフォークを手
に
<『いただきます!』>
とタイミングを合わせたかのように手を合わせ、
それぞれのメニューと向き合う
由貴は唐揚げから、ミキはナポリタン焼きそばか
ら、それぞれが一番興味深かった物を真っ先に口
にした
昔懐かしといった衣に大ぶりの鶏肉、パリパリの
皮と相まって絶妙な味わいだ
<あ~この唐揚げ、アタシの好きな感じのやつだ
わ>
『ナポリタンの味付けもアタシ好みです、普通の
ナポリタンと違って具がキャベツと細切りのニ
ンジンとか、少し不思議ですね、でも美味しい
!』
<麺がうどんってのはどうなの?>
『これはこれでアリですね!アタシは好きです』
それぞれが選んだメニューに満足しているようだ
食べ進めながらも、先の話題は尽きる事は無かっ
た
『長岡さんと今度食事するんでしょ?その時の態
度できっと分かりますよ…』
<どうだかな~?店長はしきりに長岡君は良い奴
だよ、って勧めてくるんだよね…>
『まぁアレですよ、一回食事がてら話してみて、
どういう人か判断してみて、次があるかないか
はその時の印象で!って事でどうです?』
ミキの言う通り、長岡の誘いをOKしたものの、意
に添わねば次は無い!とは思っていた…
『由貴さん長岡さんを袖にし続けてどのくらいで
す?』
<ん~!?ハーレー買ってからそろそろ1年か…>
『じゃあ長岡さん今頃小躍りして喜んでますね』
<だとしても簡単には許してやんないんだから…>
『1年も袖にしといて可哀そうじゃないですか?』
<良いのよ!アタシの長年の夢を嘲笑ったんだか
ら!このぐらいは当然よ>
『そう言えば由貴さんはいつからあの店に?』
<就職して中免取ってからだから、え~と23の頃
か、、、>
『やっぱりハーレーが元々好きで?』
<うん、うちの父がハーレー乗っててね、元々ハ
ーレー乗りに囲まれて子供時代過ごしたの>
『へぇ~そうだったんだ!?』
<父はサイドカー付けててね、アタシも良くツー
リングに連れてってもらったの>
『その頃からおっさんズにはモテてそうですね
(笑)』
<えぇ、それはそれは可愛がられたわ(笑)>
『いきなりハーレーは買わなかったんですね?』
<買えそうなのはあったし、大型も取れなくはな
かったんだけどね、でも…やっぱり自分の稼い
だお金で本当に好きな妥協のないバイクを買い
たかった!だからまずは中型で運転技術を、そ
して貯金を貯めて新車をドカンと買うつもりだ
った…>
『それは長岡さん罪深いですね…!!』
<でっしょ~!!だから簡単には許せないのよ>
『でも、パパさんはすごく気に入ってるんでしょ
?』
<そりゃもう!溺愛だよ(笑)だから踏ん切りを
くれたアイツには少しは感謝もしてる…>
ミキはこれまでのやり取りで由貴の中に、長岡へ
の怒りと、ちょっぴりの好意が同居しているのを
感じた、そして話を聞く限りでは、長岡は由貴の
言うように通ってくる由貴を疎ましく思っていた
のではなく、前から好意を抱いていたのではない
か?とも思えて来た…
『今度のデート、楽しんできて下さいね!』
<楽しいと良いんだけどねぇ…>
『きっと楽しくなりますよ!』
そうであって欲しい、、密かに長岡を応援しつつ
由貴にも訪れようとしている交際相手の存在に、
少し寂しさを覚える
<さて!お昼ごはんも終わったし、これからどう
しよっか?>
『ボーリング行きませんか?』
<お!?こないだのでハマっちゃった?(笑)>
『もう少しスコア出せるようになりたいんですよ
ね~』
<いいね!行こうか>
そう言うと由貴は、伝票を掴んでおもむろに立ち
上がる
<お会計一緒で!>
そう言ってサッサと会計を済ませてしまった
『由貴さん?あの~、、、』
<良いの!今日はありがとね!色々助かったよ>
『さっきからそれって…?』
<しばらく顔だしてなかったからね…なんか罪悪
感あったんだけど、ミキちゃんいたからスッと
いけたよ…>
『あの店長さんそんなの気にしないでしょうに…
(笑)』
<そうかもね、でもおかげで1人じゃなくって気
楽だったよ>
『じゃあ遠慮なく、ごちそうさまです…』
ペコリと頭を下げるミキ、ニッコリ笑う由貴が、
なんだかすごく清々しい顔をしている気がした
本当は長岡にも顔を合わせづらかったのだ、結果
としてミキが最初の話のキッカケをくれた…
<じゃあスカッと投げに行きますか!>
『お~~!!』
軽快なエンジン音とそれを追いかけるVツインの
重低音、二つの異なるエンジン音が遠ざかる
かけがえのない今と、そしてこれから…
由貴にもミキにも、まだ自身のしらない未来が大
きく動きを見せ始めていた…。
今作は作者がTikTokで見かけた「詐欺メイク」にヒントを得て思いついたストーリーとなります
多分に作者の社会人生活と私生活が反映された内容となります、読者の方が「ん?」と思う社会描写が
ございましたら、それは作者の過ごした社会背景との相違と受け取って下さい
メイク技術、用語などはネットの情報を元にしておりますが、なにぶん作者は
「野郎」ですので、この部分、なるべく寛容にご容赦くださると幸いです。




