オヤニラミという魚について語ろう!(ついでにイソカサゴという毒魚の見分け方)
前項でオヤニラミに触れましたが、メバルよりクエに似ていると主張したのには根拠が全く無いわけではありません。
と言うのも、オヤニラミはスズキ目の魚なのです。
スズキ目 ケツギョ科 オヤニラミ属 オヤニラミ。
クエもスズキ目の魚。
スズキ目 ハタ科 マハタ属 クエ。
一方メバルはカサゴ目。
カサゴ目 フサカサゴ科 メバル属 メバル。
科どころか目まで違ってるんですよ!
ちなみにカサゴ目のフラッグシップになっているカサゴは
カサゴ目 フサカサゴ科 カサゴ属なんですよ。
なぜカサゴ科 カサゴ属ではなく、フサカサゴ科になってしまったんでしょうか。
フサカサゴなんてマイナー魚じゃん? と不思議に思ってます。
余談の余談になってしまいますが、カサゴはトゲトゲしていますが鰭のトゲに毒はありません。
素早く抜き上げたら、むんずと素手で握って大丈夫です。
ときどき刺されて凄く痛むことがありますが、これはカサゴと間違えてイソカサゴを握ってしまった場合なのです。
カサゴ目 フサカサゴ科 イソカサゴ属 イソカサゴ。
岸際に住んでいてカサゴそっくりの紛らわしい外観、しかも背鰭に毒トゲがある厄介な魚なのです。
刺されるとハオコゼなみに痛いですぞ。
つり入門の本には「カサゴと間違えて触ってはいけない魚」として、ハオコゼが必ず挙げられていますがイソカサゴは漏れていることが多い気がします。
ハオコゼ(カサゴ目 ハオコゼ科 ハオコゼ属)は、頭部のほぼ目の上付近まで毒背鰭が広がっていますからカサゴとの違いは一目瞭然なんですが。
それに比べるとイソカサゴは、パッと見にはフォルムはカサゴと同一です。
違いは全体にカサゴより赤っぽい事。
けれどカサゴの体色には個体差が多く、赤っぽいヤツも普通にいる。特に深場で釣れる個体は赤いっすよね。
1978年までカサゴと区別されていなかったウッカリカサゴ(カサゴ目 フサカサゴ科 カサゴ属 ウッカリカサゴ)という魚がいるんですが、コイツは赤い。体色だけではイソカサゴとの違いは分からんのよ。
(しかしウッカリ区別していなかったから、と名前に『ウッカリ』を刻まれてしまったウッカリカサゴくんは不憫よの。見分けきれなかったのは人間の方なのに。ジツハベツカサゴとかには出来なかったものか)
それで、カサゴ・ウッカリカサゴと毒魚イソカサゴとの決定的な見分け方を書いておくと『鰓蓋後部に黒っぽい斑紋が一つある』というのが、カサゴと見分けるキモとなります。
同じく鰓に斑紋を持つブルーギルの斑紋位置よりは、腹側というか下側、胸鰭の付け根あたりです。
しかし云うても初見じゃ見分けるのは難しいかな?
ハオコゼもイソカサゴも、一度刺されると絶対に忘れられない魚になりますけどね……。
だから穴釣りなんかで10㎝以下のカサゴっぽい魚(ハオコゼ・イソカサゴとも育って10㎝まで)を釣ったら、メゴチバサミで魚体を握って、鈎外しかラジオペンチを使ってリリースしましょう。
メインターゲットのカサゴにしても、15㎝以下サイズは「大きくなれよ!」と逃がしてあげるのがマナーですので。
◆
うーん……。オヤニラミを書くよと宣言しておいて、イソカサゴのことばかり書いているじゃないか。
この脱線癖はドゲンカセントイカンです。
さてさて拙が「クエそっくりじゃん!」と勝手に騒いでいるオヤニラミ、実は近畿以西の河川・湖沼にしか住んでいないはずの小魚であります。
だから関東・東北の人が「知らんなあ」と首を傾げても不思議は無い。
「よくフナやらハヤやら淡水五目釣りに行くけどねぇ」という古強者のベテランでも。
外観は川や池で釣れる魚としては極めて特徴的。
ハタ類あるいはカサゴっぽい体形・見た目という他に『鰓蓋に左右一対、目玉ソックリな斑紋がある』という点も。
この斑紋があまりに目立つため、「目玉が四つあるようだ」とヨツメと呼ぶ地方(岡山のほう)もあるくらい。
佐賀ではヨルメヒルメと言うらしい。どの眼が夜目で、どの眼を昼目と思ったのかは分からないけど。
もともとオヤニラミという標準和名だって「親を睨んでいる目のような斑紋があるなあ」という外見によるものでしょうし。
カサゴとイソカサゴとの見分け方で書いた鰓豚の斑紋より、よっぽど目立つのよ。
イソカサゴの”それ”が赤っぽい体表にある白地に赤マルという、一見単なる模様と見紛うデザインなのに対して、オヤニラミのニセ目玉は、黄褐色から暗褐色の体表に黄色地に黒マル(濃紺マル?)といった、絶対に見間違えないようなデザインになっていますからね。
けれども、このニセ目玉を全く無視した地方名もあるんです。
福岡なんですが『ミズクリセイベエ』と呼ぶんですよ。
これはオヤニラミの子育てに由来しています。
産卵時期になると、オスはメスを誘い入れて産卵を促すんですが、その愛の巣にチョイスされるのが主に水草の茎。とりわけ葦の茎が好まれるようです。
そして目出度くカップルが成立し、メスが葦の茎に卵を産み付けると、あとはオスが卵の世話をするのです。
卵に寄り添いましてね、ずーっと胸鰭で新鮮な水を浴びせ続ける。
胸鰭を水車のように回転させて「水を繰る」魚だからミズクリなんですな。
健気ではありませんか。
ただ面白いなと思うのは、生態を観察して呼び名にしたという部分ではなく、産卵後の卵を世話する様子をジーっと観察し続けていたヒマ人がいた、という事。
オヤニラミって専業の漁が成り立つような群れて行動する魚ではありませんし、また目に付いた一匹だけ狙って採って食うには小さすぎる魚なんですよ。
つまりミズクリセイベエというアダ名を付けた無名氏って、農作業中に田圃の横の導水路で一休みしたお百姓さんだったにしろ、なんらかの使命なり密命を帯びて里を見回っていたお侍だったにしろ、多分はじめはただボーっと川を眺めてたんだろうなぁと思うんですよ。
そして、ふっと気がつく。
「ああ何か変な動きしてる魚がいるなあ」って。
更に近くまで寄ってしげしげと覗き込み「卵に水やってるのか」とか「まるで水車みたいじゃな」なんて、だんだん意味が通じてくる。
そして「清兵衛さんみたいに働き者で子煩悩な魚じゃな」と思い付き、誰かに教えたくなったのであろうと――そう妄想が捗る地方名なんですね。
拙がこの水繰り君を釣ったのは小学生の時の一回キリ。
ノベ竿でのオイカワ・カワムツ・タモロコ狙いの時でした。
狙って釣ったわけではなく、釣ってみるまで存在も知らない魚だったんですな。
福岡市内の川を自転車ランガンしてたのですが、その日は釣果が芳しくなく、二級河川の堰下のトロ場で、アブラボテというタナゴの一種などと遊んだりしていたら、不意に喰い付いてきたのです。
上がってきた魚を見て、その風格に興奮しました。
小さな魚なんですが、淡水小物には珍しいいかにも「俺はフィッシュ・イーターだぞ」と主張するような威厳があるんですよ。
それで「コイツはアカメの稚魚に違いない!」と確信し、川にお戻りいただくことにしました。
アカメはミノウオという別名を持つ怪魚で、拙は矢口高雄の『釣りキチ三平』という漫画で読んだことがあったからです。
アカメは純淡水魚ではありませんが汽水域には入って来る魚だし、汽水域に入って来る魚食魚は餌を追って中流域まで遡ることは珍しくありません。
兵庫県日本海側の円山川のスズキなんて、アユを追っかけて20㎞も遡上するくらいです。(ですから川スズキ釣りみたいな特徴的な釣りが成立したりします)
そしてアカメは太平洋岸の、それも主に宮崎と高知に生息する魚ですが、海は繋がっているのです。
宮崎生まれの気まぐれなヤツが、たまたま博多湾にまで入り込んで卵を産むことだって絶対に無いとは言い切れませんよね!
だいぶ知恵の付いた現在の私であれば、速攻リリースなどせずに、新聞社に連絡するとか大学に持ち込むといった行動をとるのかも知れません。
希少種が(不法移殖によるものではなく)通常生息域外に繁殖していたとすれば、これは学問的にも意味が有るニュースです。分布域が変わるわけですからね。
ですが拙は、小学生の時の自分の選択に「善し」と言ってやりたく思います。
だって「今日逃がしてやったアイツが、1m超えの巨体となって、もう一度勝負をしに来てくれるかも!」とか夢があるじゃないですか。
まあ、家に帰ってから図鑑を広げて
「あれはオヤニラミという魚だったのか。でもスズキの仲間で、絶滅危惧種なんだな」
と確認したとき、ガッカリはしませんでした。
むしろ「オヤニラミってカッコイイなあ」と改めて惚れた感じですね。
こういう背景があって、拙が一番好きな純淡水魚はオヤニラミなのです。
ですから異論はあって然るべき。
「やっぱ川の王者コイじゃないですか」
「ヒメマスが美味しくて好き」
「アユを外せるわけが無いじゃないですか」
「川魚の代表はフナ」
「ブラックバスが好きですねぇ」
「ナマズの顔がかわいい」
「メダカですよ。メダカ」
「婚姻色の出たオイカワが美しいんだよね」
などなどなど、皆さまそれぞれに推し魚がいるのを否定するものではありませんよ!
◆
それで……拙の推しのオヤニラミなんですが……どうも関東方面に生息域を広げているらしい、という情報を目にすることが多くなってきました。
住処が破壊されたり水質悪化によって個体数を減らし、絶滅危惧種になってしまった本種ですが、人に慣れやすく水槽で飼育・繁殖は難しくないらしいのです。
ちょっと古い(1990年刊行)の
『月間アクアライフ4月号別冊 川魚入門 採集と飼育』
によれば、60㎝水槽で繁殖を行わせることが出来るようです。
餌にはメダカやヌカエビなどの活餌を与えるのがいいようですが、馴れてくるとクリル(乾燥オキアミ)でも良いのだとか。
懐きやすくて飼いやすい、しかもカッコイイ見た目の魚です。
当然、人気が出ますよね。ペットとして販売するショップも増える。
……ここまではいいんです。絶滅危惧種ですから個体数が増えるのは良いことだ。
けれど、本来の生息域外に勝手放流してしまうと、国内外来魚として害魚扱いになってしまうのです。
これは悲しい。
好きな魚だけに、特に。
だから、生息域内(近畿以南)で釣れたヤツは即時リリースして欲しいんです。絶滅危惧種ですからね。
加えて、繁殖させた個体、あるいはペットとして飼っていた個体は、繁殖域外に密放流はしないで欲しいんです。
お願いしますね。
◆
さて「どげんかせんといかん」とワザとらしく元宮崎県知事のセリフを引用したのには、実は意味が有ります。
11月3日の宮崎日日新聞に載った記事です。
『外来肉食魚「コウライオヤニラミ」地元漁協で駆除着手 都城・大淀川水系』
何と言いますか、気になるワードがてんこ盛り。
①コウライオヤニラミ
・スズキ目 ケツギョ科 オヤニラミ属 コウライオヤニラミ。
・名前から判るように、オヤニラミとは非常に近しい種です。見た目はオヤニラミより細長い。
・分布域は朝鮮半島。
・体調は30㎝ほどまで、とオヤニラミの倍にまで育ちます。
・朝鮮半島にはオヤニラミも生息しており、同一河川に共存する場合には「オヤニラミが流れの緩やかな場所に住むのに対し、コウライオヤニラミは激しい流れを好む」という棲み分けを行ないます。バスで例えるなら「オヤニラミはラージマウスバスで、コウライオヤニラミはスモールマウスバスに似ている」と言えるでしょう。
・なお朝鮮半島には、オヤニラミやコウライオヤニラミと同じくケツギョ科のコウライケツギョという魚も生存しています。韓国名はソガリ(スズキ目 ケツギョ科 ケツギョ属 コウライケツギョ)。コウライケツギョは50㎝ほどにまで育ち、高級食材。以前、このソガリを狙いに行く釣り番組を観たことがありますよ。
②地元漁協で駆除着手
・元から分布していたわけではなく、ミドリガメ(ミシシッピアカミミガメ)なんかと同じく外来種とハッキリしてますからねぇ……。在来種への食害が顕著になれば、駆除も已む無しではありますが。
・これがニジマスみたいに商用種として認められれば、扱いも違ったものになったのかも。
③大淀川水系
・希少なアカメが住む大淀川じゃないか!
・ただしアカメが河口域を好むのに対して、コウライオヤニラミが住むのは上・中流域。競合は避けられそう。
・余談ですが、昭和中期までは大淀川のアカメは珍しい魚ではなく、「他の魚を食い荒らす」と駆除対象にされたことも!
◆
関東で増えていると言われる野良オヤニラミと、大淀川水系のコウライオヤニラミ。
彼らにどんな未来が待っているのか。
拙には、続報を見守るしか出来ませんけどね。
◆
さて最後に、オヤニラミ……ではなく、ゲストとして登場していただいた「毒魚イソカサゴ」の食味について触れておきましょう。
たぶんシャロ―の根魚釣りを楽しむ人なら釣った事あるだろうから、皆さん御存知かとは思うんですが、拙には「一緒や! カサゴと一緒や!」としか思えません。
いや、そのカサゴがそもそも美味い魚ですから、カサゴと変わらないならウマい魚と言って良いんでしょう。
けれど防波堤の穴釣りでヒットした30㎝近い大カサゴなら、刺身が貴い。
歯応えが秀逸だし、噛みしめた時に感じる旨味の濃さが20㎝級とは全然違ってくるんです。
15㎝級だと刺身には小さ過ぎますから、煮付けか唐揚げということになりますが、美味しいは美味しいんですけれど「うむむ……」と唸りまくるまではナイじゃないですか。
味噌汁にするには抜群ですけどね。(ただし汁は至福の味ですが、椀の中に鎮座したカサゴからは美味しい部分が抜け落ちてしまって、ちょっと残念な味になっちゃうか)
脱線してしまいましたが「じゃあイソカサゴも味噌汁ならば」と考えます。
わざわざ狙う魚じゃないから、イソカサゴonlyの味噌汁を試したことはありませんけどね。
そこで信頼できる筋からの情報を添付しておきましょう。
いや闇ルートから仕入れた情報ではなく
『コージ 雑魚を食う』 今井浩次著 週刊釣りサンデー発行 1995年
という本に記載してある実食記です。
『強靭な身からにじみ出るうまみの成分 イソカサゴ――味噌煮』という項です。(p34~38)
「そして『いけるは、これ』と思わず叫んでしまった。身は、確かにしっかりしている。いや、しっかりというより強靭だ。歯がぐいぐいと押し戻されるほど弾力があって、4、5匹も食べたらアゴがだるなるな、と考えたほどだが、身そのものが筋っぽくないから、ぱさつかず、適度の粘りの中から、うまみの成分がにじみでてくる感じだ。」
以上引用。




