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続 ワカサギには連戦連敗

 つくばを離れ、舞台は京都に変わります。

 単に引っ越しただけですが。


 京都市住みの釣りライフはというと、至近は琵琶湖となりますが、実はJR線を利用すれば神戸・須磨・明石方面に電車釣行するのも便利なのです。新快速電車を使えば高速道路を走るより安くて速い。

 和田防や垂水一文字のような、渡船利用の沖波止も充実していますからね。


 しかし瀬戸内海は、黒潮や対馬海流といった暖流が流れている海とは違って、厳寒期には極端に陸から釣れる釣り物が減る。

 朝霧海岸のカレイや和田防のカサゴ(ガシラ)、六甲・ポーアイのヒイカみたいに、冬の釣りが無いことはないんですけど……。


 とにかく釣りに良いのは、1月の成人の日くらいまで、と言っても過言ではない。(そのくらいまでなら、まだ海水温が下がり切っていないため。海の季節は、俗に「おかの二ヵ月遅れ」と言われます)

 成人の日くらいまでなら、JR須磨駅下、須磨海水浴場の千守突堤でスズキが釣れたりするんですよ。電気ウキの夜釣りだから「う~寒い寒い」ですけどね。

 春の釣りが始まるのは、イカナゴ漁が始まるころくらいかなぁ。


 一方、琵琶湖でもバスが口を使ってくれなくなります。

 浜大津の観光船乗り場付近なんか、茜色の夕空をバックにした比叡山のシルエットとか、眺めはサイコー! なんですが。とにかく釣れない。ブルーギルでも掛ってくれたら頬ずりしたくなるくらい。

 中には「真冬は50㎝以下が邪魔をしないから、ランカーを釣る絶好のチャンス」とか言って、夜中に胸までのバカ長を穿いて、砂浜で腰まで水に浸かってビッグベイトぶん投げ三昧という、明らかに逝っちゃってる達人とかもいるんですけどね……。


◆第三次攻勢


 京都の冬に悶々としておりますと、釣りニュースの「余呉よご湖のワカサギ」がどうしても気になってしまいます。


 余呉湖は凍結しないから、釣り桟橋からの釣り。

 氷に穴を開ける必要はありません。

 しかも「良い人 5束」なんて書いてある。

 ……むむむ、500匹か……。


 しかしワカサギには、Nのせいで余り好意的でない自分がいる。あつものりてなますを吹く、ってヤツですな。


 けれど5束の誘惑には逆らえず、余呉湖攻略を決心しました。


 地図で確認する限り、釣り桟橋はJR北陸本線余呉駅から歩いて遠くない位置にあります。

 京都からなら新快速で長浜駅まで進み、長浜で各駅停車に乗り換えて余呉まで行ける。


 竿はワカサギ竿である必要はなく、清流竿で充分。

 仕掛けは、下オモリのワカサギサビキかコアユ用のサビキ仕掛けで脈釣り。ウキ釣りをしたければ道糸にウキゴムを通して玉ウキを差し込むだけ。簡単です。


 なおコアユ仕掛けというのは、初春から春にかけて、アユの幼魚(氷魚ひうお)を釣る仕掛けです。

 サビキの上にラセンと呼ぶ、細いステンレスを螺旋らせん状に巻いた寄せ餌入れが付いていますが、余呉湖は寄せ餌禁止ですからラセンは外してください。(ま、付けたままでも寄せ餌入れとして使わなければ問題無いんでしょうけど。李下りかかんむりを正さず、で)

 琵琶湖でコアユ釣りをするときには、このラセンに鮎用寄せ餌のイワシパウダーを握り付けます。


 新快速電車は快調に長浜駅に到着。

 しかし彦根を越えるあたりから、その日は風景がヤバくなってきました。

 雪です。雪が積もっている。


 よく冬の京都は底冷えがする、と言われますが雪景色になるのは少ないんですよ。

 雪が積もったら金閣など名刹・名庭には、開門前からカメラ抱えたプロやアマチュアがタクシーで押し寄せるらしい。

 始発の新幹線や新快速で集まって来るらしいんですな。中には天気予報を観て、前乗りする猛者もさの雪景色マニアもいるそうで。

 お坊さんは朝のお勤めをショートカットして、開門作業に忙殺されるんだとか。


 ま、そんな具合に京都市内で雪が無くとも、米原~関ヶ原あたりには積雪がある。新幹線が一時運休したり減速運転になるのも丁度そのあたり。

 北陸本線の米原~敦賀間に被るあたりが、あるいは北陸自動車道の米原ジャンクション~敦賀ジャンクション間あたりが、周囲の山地より標高が低く、日本海から吹き付ける風と雪の抜け道・通り道になっているからなのです。


 しかし電車釣行は快適です。

 長浜駅で乗り換えた鈍行列車は、きれいにラッセルされた北陸本線を定刻通りに出発。

 車輛の中は暖房でヌクヌクしてます。

 虎姫駅を通過するころには車窓から見える風景は、完全に雪国のそれと化していましたが気分は上々。

 ワカサギ5束の期待に打ち震えて、意気揚々と余呉駅に下車しました。


 余呉駅は無人駅で、駅待ちタクシーは居ませんでした。

 けれど最初から徒歩移動の計画でしたから、足元は防寒長靴で抜かりはありません。

 映画「八甲田山」の弘前31連隊兵士のように「雪の進軍」を歌いながら出発しました。


 ところが車道こそ除雪はされているのですが、その除雪された分は全部道路脇に積んでいるわけです。

 つまり、歩道は無い。

 車に轢かれる危険を冒したくなければ、腰くらいの高さまで雪がある”本来歩道があるべき場所”を踏破しなければ前進できない。

 一歩踏み出すごとに、膝上・股下くらいまでズボッと雪に埋まります。防寒長靴は膝下までしかないから、靴の中にどんどん雪が入ってくる。一応ゴムの覆いが履き口に付いていますが、雪はそれを押し退けて侵入してくるんですぞ。


 勢いに任せて50mほど前進しましたが、その頃には既に無言。歌を歌っている余裕などありません。

 しかも体温で融けた雪のせいで、長靴の中の靴下がびちょびちょに濡れてきます。

 これ以上進むのは無謀でしょう。撤収しかありません。

 左右を見回して車が来ないのを確認すると、除雪が行き届いている車道に飛び出し、駅のロータリーまで必死に走りました。


 第三次攻勢は、竿を出すどころか釣り桟橋に到達することすら叶わず、単なる敗走に終わったのでした。


◆第四次攻勢


 こうなれば意地です。

 次の休みにレンタカーを借りると、今度は車釣行で余呉湖に挑みました。


 単独行だから軽自動車でも車内はスカスカなのですが、冬タイヤを履いたゴツイ車をチョイスです。


 これは以前、雪山に強い男のNが「雪山に行くには重い車でないと、いくらスタッドレスを履いていても走りが安定しない」と蘊蓄うんちくを垂れていたのを思い出したからです。

 本当かどうかは知りませんが、如何にも本物の豆知識っぽい。


 カーナビの目的地を屈辱の余呉駅にセットすると、「雪道では急ブレーキは踏まない。雪道では急ハンドルを切らない」とブツブツ自分に言い聞かせつつ、名神高速を東へ。

 米原ジャンクションで北陸自動車道への乗り換えも無難にこなし、今度は北へと向かいます。


 全ては順調にいくか、と思われました。

 ところが――

カーナビが「木之本インターで降りろ」と主張しはじめたのです。

「木之本からは、下ミチ走れぇ!」と。


 カーナビって、ときどきバカになりますよね? あるいは逆に使用者を小馬鹿にすることが!


 例えば「東京ディズニーランドまで」とかメジャーどころの案内を頼むと嫌々無難にナビしてくれますが、「〇〇ダムまで」とか「〇〇漁港まで」とかいうようなマイナーな場所を指示すると、すごく変な人の通る気配のない林道とかに連れて行かれません?


 別にナビが悪霊に支配されているのではなく、ナビの指示は過去も含めて道路として記録されているデータの中で、移動距離が最短になる組み合わせだったりするわけですが、「殺したヤツを埋めるならココだな」というような行き止まりに案内されても困るわけです。


 福岡には香椎宮かしいぐうという神社があって、近くに不老水ふろうすいという飲むだけでテロメアが伸びそうな霊泉があります。

 この霊泉、香椎宮のデカい駐車場に車を停めたら、案内板に従って延々歩いていくのが普通。

 しかしカーナビに「香椎宮 駐車場」ではなく「香椎宮 不老水」と打ち込んでしまうと、小高い丘の住宅街の細い生活道路に案内されてしまいます。そして「目的地近傍です。案内を終わります」とナビは職務放棄。

 確かに、見ず知らずの他人の庭に踏み込んだうえに崖を懸垂下降するならば、霊泉には一番近い路上かも知れんよ?

 ……これは、アレです。カーナビって、アニメ「一休さん」みたいに、使用者を頓智とんちで遣り込めてほくそ笑んでるんですよ。

 キ~!! ムカつく。

「一休さん」を観るたびに思うのですが、足利将軍、よく笑って「こりゃ一本とられたな」とか言えるものです。信長だったら「で、あるか。この坊主の首を刎ねい」って怒っちゃいますよね。頼朝や家康だったらその場はおとがめ無しでも、後日にソロッと暗殺されそう。


 ……つい取り乱してしまいました。

 カーナビは信用ならないってハナシでした。


 拙は「その手には乗らんぞ。木之本インターで降りるより、しずヶ岳の方が近いわ!」とナビに言い返し、無視しました。

「ニンゲン様の方賢いんじゃあ!」


 しかし賤ヶ岳はサービスエリアで、そこに降り口は無かったのです。

 レンタカーのナビは、なんと実直に正しい助言をしてくれていたのでした……。

 しかも恐ろしいことに北陸自動車道って、木之本インターを過ぎると後は福井の敦賀つるがインターまでノンストップ!

 いや、サービスエリアやパーキングエリアは在りますから車を停めて休息することは出来るのですが、下に降りることは出来ません。


 半泣きで雪の高速道路をひた走ると敦賀まで進み、そこで折り返して京都まで逃げ戻りました。

 第四次攻勢は、かくして終了。またも敗北に終わったのです。


◆第五次攻勢


 妄執に憑りつかれた私は、再度自動車釣行を企画しました。

 もはや余呉湖のワカサギ情報などはどうでもよく、余呉湖で竿を出すことだけが宿願となっておりました。

 いわば手段と目的とを取り違えた精神状態になってしまっていたわけですな。


 またも決して安くはないレンタル料を払って大型車を借りると、今度はナビに指示されるがまま木之本インターで降り、宿敵と化した余呉駅に到着しました。

 余呉駅から有料釣り桟橋までは指呼しこの間、何のトラブルもなく駐車場に辿り着くことが出来ました。


 管理棟で入漁料を払い、桟橋に踏み出します。

 夢にまで見た余呉湖の釣り桟橋です。

 釣れているというのはウソではなく、あちらこちらで鈴なりの銀の魚体が舞っていました。

 湖の眺めも素晴らしく、「来てよかった!」と心躍る光景です。


 早速、椅子代わりの小型クーラーボックスに腰を下ろし、竿を出しました。

 サシ餌のサビキ仕掛け、ウキ釣りです。


 しかし全くアタリが出ない。

 周りは大釣りが続いているにも関わらず、です。


 ワカサギは群れで回遊する魚ですから、のべつ幕無しに釣れ盛るということはない、というのは承知しています。

 群れが回って来た時に、集中して釣るのだという事も。


 しかぁし! 「あの人が釣れた、次はこの人も。じゃあ今度は吾輩の番だな」と鼻息を荒くしていると、なぜだか自分だけスルーされる。

「アレ?」と頭を捻っていても、自分を一人飛ばして、逆お隣さんは鈴なり。


「なんでやねん!」とウキ下を浅くしたり深くしたり、ついにはウキを外して脈釣りに替えても仲間外れにされてしまう。餌のサシを半分にカットして、体液が群れをおびき寄せる対応を採っても何故か無視。

「オノレ余呉湖。まだたたるか!」と発狂してしまいましたが、『多分なにかを間違えている』と冷静な分析をする自分もおりました。


 釣れないときは釣れている人に教えを乞う、これがビギナーがスランプから脱出するためのキモです。

 恥ずかしいことはないんですな。


 大釣りしているベテランさんに仕掛けを見せてもらいに行くと、仕掛けや水深タナは変わらない。

 ただし決定的に違う点が一つありました。

 アタリ餌がサシではなく、赤虫(ユスリカの幼虫 別名アカボウフラ)だったのか。


 愕然とする拙に、ベテラン氏は「余呉じゃ、サシより赤虫一択だよ」と教えてくれました。

 しかも「管理棟で売ってるから、買ってきたらよい」と親切なアドバイス。


 かくして拙の対ワカサギ攻略戦は、第五次攻勢により遂に勝利をあげることが叶ったのでした。



 結論。

 釣りの鉄則は、昔から言われているように「一、場所。ニ、餌。三、仕掛け」

 これを忘れてはいけません。

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