キスの大物を狙うなら 春
ファミリーフィッシングで25㎝オーバーの大きなキスを狙うなら、春休みかゴールデンウィークがお薦めです。
「戦いは数だよ!」とサイズより数釣り重視なら夏から秋ですけどね。
でも夏は暑いし、堤防や砂浜から投げ釣りをするにも、手漕ぎボートを借りてボート釣りをするのもタイヘン。
なにより日中は熱射病が怖い。
春なら心配しなくて済みます。
また春休みの時期って、海ならクロダイの乗っ込み(産卵)、湖沼ならコイの乗っ込み、渓流なら解禁と狙い物が多いハイシーズンと言えますが、乗っ込み期のクロダイやコイって魚体が大きいから、初めて釣るには掛けてからのファイトが難しい。
また渓流は、初めて行くには道具仕立てや身ごしらえにお金がかかるし、そもそも釣り場が遠い。行き着くまでの行程が『山の彼方の空遠く』なんですよ。
だから春の釣りには……近所でキスだよなあ!
もっとも産卵期のクロダイやコイは、お腹に白子やタマゴを抱えている上、水温もまだ適水温より低いため動きそのものは鈍く、大物をタモ入れにまで持ち込むには鈎掛かりさえさせてしまえば比較的容易いという考え方もあります。
ですから、まあ、ここは僭越ながら不肖の筆者の顔を立てて頂きたく、ということで
「春のキス釣りもなかなか良い。別にそれでいいんじゃないの?」
と曲げて腹中に収めてください。お願いしますよ。
◆
と、いうことで本論に入るよ。
具体的にいくぞ! 具体的に。
仕掛けはヒイラギの項に書いた
『チヌ竿を使った ちょい投げ・脈釣り仕掛け』
が穂先感度もバッチリで使い易い。3.3mくらいの長さが取り回しもし易いしね。
ハリスは15㎝くらいで、ヒイラギを攻める時より少し長めに。
餌は石ゴカイを半匹かけくらいと、ヒイラギの時より大きめに付けよう。
けれどモチロン、釣り道具屋の入り口付近に並べてある「初めてのちょい投げセット」とか、バスロッドを使ったちょい投げタックルでも良いんです。
ただ春って、防波堤の際にはワカメやヒジキ、アナアオサなど海藻が繁茂していることが多い。
これが仕掛けを回収するときに邪魔になるんです。よく引っ掛かっちゃうんだな。
だから1.8mくらいの長さの竿だと、使い辛いことがあるわけ。
その点3.3m竿だと、海藻バリヤーを回避できるので藻がかりが減ります。
ちょっとした生活の知恵ですね。
さて、それでは4.6m長の25~30号の天秤オモリが背負える本格的な投げ竿はどうでしょう?
夏のド遠投では定番ですが。
……使えなくはないが、あまり向いてはいない、と申し上げましょう。
なぜなら春の大ギス狙いは『遠投をしない・しない方が良い釣り』だからなのです!
◆
理由は、狙い場が釣り人から遠くない、から。
これだけではナンノコッチャですから、順を追って説明しますね。
春のキス釣りは、俗に「居残り」とか「越冬」という個体を狙うわけですが、居残りギスはどこに居る?
普通、キスは沖の深みに移動して冬の寒さをしのぐ、と言われています。
越冬ですね。
こういう深みに退避したキスは、投げ釣りなら達人級の超遠投能力が無ければ狙う事すらできません。
じゃあ乗合船で、と考えても、イワシ餌のヒラメ釣りとかカレイ釣りみたいな遊漁船はあっても、越冬キス狙いの船ってなかなか耳にしない。
まあ、冬には冬の釣りをやれよって事でしょう。
一方で、はるか沖合にまで移動するのが面倒なのか、岸辺近くの深みで冬を越す横着な個体がいます。
場所なら、波静かな湾奥の小さな漁港内側の深みみたいな所。水があまり動かない、徐々に海水温が下がっていったら、あとは水温変化が少なそうな場所。
ですからコッチは、同じ越冬モノでも『居残り』なんですな。
この居残りヤロウ、厳寒期にはなかなか口を使ってくれません。
変温動物ですからね。しかも冷水系のカジカの仲間などと違って、キスは暖かい水を好む。
凍死してしまう個体もいるだろうし、生きているヤツだって体力温存のために最低限の活動しかしない。
だから数日間温かな日差しが続いた時など、まれ~にカレイ狙いの外道に釣れてくることがあったりはするのですが、あくまでマグレ。釣行のメインターゲットとしては成立しない。
(それだけにカレイやアイナメ狙いの外道として釣れてくる「居残り」は、ずんぐりむっくり、胴回りが太目だったりします)
ところが春が近づき日照時間が長くなってくると、この居残り組もジワリと活動を再開します。
そして海水温の上昇なら、深場よりも日光の恩恵をダイレクトに受ける浅い場所の方が早い。
ですから居残り組は
「日差しのある時間帯は海底が丸見えみたいに浅い場所、日没後は水温が安定している深み」
へと、一日の内でも積極的に居場所を変えていくわけです。
しかも浅場にいる日中は、積極的に餌を食べて腹を満たし体力回復に務めます。
だから春の居残りを狙うには遠投の必要が無いし、居さえすれば向こうから果敢に餌を追っかけてくれるので初心者でも鈎がかりをさせやすい、というわけなんです。
加えて遠投が不利なのは、春の浅い砂底にはアマモという韮や水仙に似た海藻が繁茂します。これがやたらと引っ掛かって釣りにならない。
千切れ藻(ホンダワラやアオサ、ワカメ)なんかも大量に流れて来ますしね。
またアマモの群生地(アマモ場と言います)は、各種幼魚の揺り籠として重要ですから邪険にしないで欲しいし、投げ釣りで荒らさないでいただきたいものです。
あのメーターオーバーになるクエも、幼魚の間は波打ち際に近いアマモ場で巨大魚に育つ夢を見ているのですから。
◆
さて、春キスはちょい投げ有利という事はナットクしていただけたかな?
それではどんな防波堤(漁港)が狙い目かという点を、更に絞り込んで行きましょう。
まず、付近が夏の数釣りシーズンにキスの実績場であることです。
居残りはあくまで居残りですから、夏にピンギス(当歳児の仔ギス)がいない場所にはいません。他所から冬の間に泳いでくるわけではないのです。
「夏に小ギスをたくさん釣ったよ! 唐揚げにしてたくさん食べたよ!」という経験がある場所なら、居残りヤロウもその付近の深みにいるでしょうね。
大場所である必要はありません。夏に水遊びをした、そんな海岸にひっそりと存在する目立たない防波堤が良いのです。
さて漁港の目星はついた。具体的にはどう釣る?
防波堤に行くと、真っ先に先端まで行きたくなります。あるいは屈曲部など。
防波堤釣りのド定番ですからね。
けれども、ド定番の場所は捨てましょう。
地味な漁港でも先端や屈曲部は、既に攻められている事が多いので。
しかも夜明け前から釣り座を構えて、チヌやアオリイカ、アジ・メバルを狙っているベテランさんが竿を出してしまっていたりします。
太陽が昇って、気温が上がってから出かけるようなファミリーフィッシング部は、無理に割り込んだりせずにアプローチを変えるのが吉と出ます。
防波堤の根元から歩き始めたら、港内側の海底を覗きながら進み、ギリ水底の様子が確認出来なくなるかならないか、という場所で歩みを止めます。
この時、偏光グラスを装着していると有利になります。海底の様子が見やすいですからね。
何万円もする高い物でなく、一番安い偏光メガネで大丈夫です。普通の眼鏡に取り付ける1000円くらいの偏光フィルターでも何の問題もありません。
でも実際にやってみたら、裸眼でも偏光付けてても大ギスなんて見えないよ?! オレ裸眼視力で1.2あるのに……? と思ったアナタ。
安心してください。
ヤツはそこに潜んでいます。暖かな日光と餌を求めて。
◆
キスという魚、パールピンクの美しい魚体がトレードマークですが、その外観は写真にしろイラストにしろ、『横から見た』ものですね。
魚屋さんに並んでいる時も、横たえて置かれています。
真上から見てみたらどうでしょう?
薄茶色か黄土色。ずいぶん地味なイメージに変わります。
ちょうど砂浜の濡れた砂と同じような……。
そうです! 鳶や鴎、空から襲って来る敵に対するカモフラージュになっているわけです。
ですからアナタの目に見えなくても不思議はありません。
自信を持って竿を出しましょう。
狙うは海藻の脇、捨て石の際など障害物の近く。
そーっと仕掛けを下ろして静かに待っていると……ズドーン! と手元まで響く大きなアタリが。
硬い投げ竿と違って柔らかいチヌ竿ですからね、キスもガンガン抵抗します。
「キスってこんなに引くのかぃ!」ってキス釣りを見直すこと必至です。
また、近くて浅いポイントを狙うのですから、防波堤によっては(足場が高くないなどの条件だと)リール無しでもイケます。
ハヤ・ヤマベ用清流竿4.5m、とかですね。
清流竿の脈釣りで27㎝のキスを掛けたら、「おっと! うわわわ! ちょっとタスケテ……」みたいな、もうテンヤワンヤで魚に引っ張られるまま、右に左に走り回っての大格闘になります。
忘れられない一匹になるでしょう。
さて、一匹を釣り上げた、あるいはアタリが無かったとします。次に動くべきは防波堤の先端側か、根本側か。
こんな書き方をする以上、根本側に動くべきなのは丸わかりですね。
理由は二つあります。
まず一つ目は、小漁港の内向きって、やたらと障害物が多いんです。
船の係留ロープや獲物を活かしておくカゴ、捨てられた牡蠣殻などなどなど、さまざまなブツが沈められています。
見えない場所に仕掛けを落とし込むと、一発で根掛かりだぜ!
仕掛けのロストも悔しいけれど、漁港を使って生活している漁師さんに申し訳ない。
二点目は「春の大ギスは日の当たる場所で和んでいる」という原則を忘れてはいけない、からです。
膝下くらいの超浅場どころか、波打ち際ギリまでがポイントと成り得ます。
「こんなトコ、魚なんて居ないだろ」と誰も竿を出さない場所、そんなクソ浅場がいわゆる『竿抜け』として極上のマル秘ポイントだったという事は、ありがちだったりするんですねェ。
燈台下暗しは慣用句だけではありません。