匂い付きワームで思い出したけど
匂い付きワームで思い出しましたが、「イカ油」なる謎の物質が釣具屋の棚で埃をかぶっていることがあります。
よくは知らないのですが、イカの内臓(主にキモ)から抽出する油分のようです。
なんでも昔、沖釣りをする時に、このイカ油に浸した毛糸を付け餌にするとマダイや大アジが爆釣したんだとか。
冷凍アミやオキアミがまだ売ってなかったころ、寄せ餌といえばせいぜいがイワシミンチだった時代の話らしいんですけどね。
で、件のイカ油、もの凄く臭いらしいので集魚効果は見込めたのでしょう。
ただし昔、釣りの大師匠に聞いたところ「イカ油は、釣れるには釣れるが、使うと魚の腹が腐る」とかで「使うヤツは下手クソか馬鹿」と一刀両断でした。
「似たような効果が欲しいなら、ニンゲン様も食べる鰹の塩辛を使えば良いんだよ」とも。
ただ「イカ油に浸した毛糸」から、匂い付きワームのルーツよなぁ、と思い出しただけなのですが。
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さて、ワームがらみでもう一件。
開高健の『私の釣魚大全』の中に”ロッカイ”なる釣り餌の話題がちょっとだけ出てきます。
戦後、氏の知人がビニール製のゴカイを開発する話です。
ソフトワームの走りですね。
ロッカイという名前は「五階の上だから六階」というネーミングなんですな。
作ったはいいが、全然売れなかったんだとか。
まあ匂いも味の無い細長ビニール紐には、貪欲なハゼ君もあまり食欲をそそられなかったという事でしょう。
ただ、コンドームの薄いゴムを鈎に縛り付けた「サビキ」は、今でもアジ釣りなどに大活躍ですし、ゴム製のびらびら(スカートと呼ぶ)を鉛やタングステンのオモリに付けただけという「タイラバ」はマダイ釣りで大人気。
ロッカイも雑食のハゼをターゲットにするのではなく、もっと魚食性・肉食性の強いスズキ釣りに持って行っていれば効果が見込めたのかも知れません。
特に春先に起きるイソメ類の集団産卵、いわゆる「バチ抜け」のときであれば、大スズキがガツーン!なんてことが有ったのかも?
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『ビニール製』で思い出すのが、昭和39年(1964年)の東宝特撮『宇宙大怪獣ドゴラ』。
フウセンクラゲとかエボシクラゲみたいな姿の、空中に漂う怪獣です。
このドゴラ、着グルミ怪獣ではなくビニール製の操演怪獣なんですよ。作中では、操演の他にアニメ合成で暴れるのですが。
(余談ですが、似たイメージの怪獣としては『帰ってきたウルトラマン』のバリケーンや、『ウルトラマンレオ』のシルバーブルーメといった怪獣がいますが、バリケーンの方は着グルミですね。シルバーブルーメは操演。)
東宝特撮陣は、『ゴジラの息子』(昭和42年 1967年)のカマキラスやクモンガ、『三大怪獣 地球最大の決戦』(昭和39年 1964年)のキングギドラ(三本首と二本の尾)とリアル操演がお家芸ですけれど、ドゴラの空中に漂うフワフワ感を出すには、ビニール素材の選定・改良から撮影方法に至るまで、苦労の連続だったんだそうな。
具体的にはビニール製ドゴラを水槽に沈め、水の抵抗感を感じながら糸で操ることで、不思議な空中浮遊のフワフワ感を出したのだそうです。
「だから何ダ?!」と問い詰められても困ってしまうわけですが、ロッカイ開発中の開高健の友人と、ドゴラ撮影中の円谷特技監督が
『ぜんぜん目的が違うのに、同じように水槽にビニール造形物を沈め、ふわふわする動きを観察・研究していた』
のだな、と考えると妙に趣深い気がします。