小さなハゼの食べ方
以前、何かの釣り雑誌で『ベテランの掟』だったか『ベテランの作法』だったかの特集を読んだことがある。
たしか割と真面目な話で、人気防波堤での観音回り(観音釣り)の作法やなんかが書いてあったと記憶している。
観音回りというのは、潮流の早い防波堤の先端近傍部分などでウキ流し釣りやカゴ釣りをする場合、一人が際限なく仕掛けを流しっぱなしにしてしまうと大多数の釣り人が迷惑してしまう。
だから20mなり流し終えたら仕掛けを回収し、後ろの釣り人に席を譲る。
それを順番にぐるぐる繰り返すから観音回りと呼ぶんだね。
だから皆が観音回りをするようなポイントで、後ろの人に譲らないまま独占したり、ぶっこみ釣りの置き竿なんかにしていたら言語道断。マナー違反ですよ、といった啓蒙特集だったのだ。
で、その特集の中で『ベテランは1.5号以下のハリスは使わない』という項目があったわけだ。
ふむ。
よく「ハリスは細くて長くとるほど、付け餌が自然に漂う」と言われているけど、ベテランの中には「チヌは太糸を嫌わん」と豪語する人もいるわけ。「ハリスが海底を這うように流せば、糸は太くても目立たない」とね。
それとは別に「掛けたら必ず取り込んでやらんと失礼」という考えのベテランさんもいる。「ハリス切れでバラすと、せっかく鈎がかりしてくれた魚に迷惑がかかる」という理由だ。
どっちの理由かなぁ? と読み進めると……
『ベテランは押並べて老眼である。1.5号より細い糸は見えない』
と書いてあった。
これには噴きました。
同じくらい笑ったのは、ルアー雑誌の用語解説で『リアル最後の一投』という項目。
たしか「これで最後の一投、と言いながら果てしなくキャスティングを繰り返す同行者に腹を立て、ポイントに石や木切れを投げ込んで、ポイントを潰してしまうこと」みたいな解説でしたよ。
◇
さて、春の居残りハゼと違って、晩夏から初秋のデキハゼ釣りの場合、釣れてくるマハゼの体長は10㎝から12㎝くらい。
そのくらいの大きさだと、やっぱり細竿じゃないと釣趣が足りないわけです。
「いや、釣れたら何でも面白いよ?」という考えも分かるんですが、出来れば手元に伝わるクククッというハゼの引きを堪能するには細竿だなぁ。
矢口高雄の『釣りバカたち』という珠玉の短編集があるのですが、その中の一編に葦の茎で作ったハヤ釣り用の小物竿の話がある。
竹ですらない葦の茎だから、無理をすると簡単に折れちゃう。
それでも無理せず上手にあしらうと、魚を寄せることが叶うと描いてあった。
まあ、その葦の竿を作ったのは竹の和竿の名人で、なおかつ釣りの名手という設定であったのだけど、あれには憧れましたねぇ。
それで葦を刈ってきて、小物竿を作ってみよう! とチャレンジした暗い過去を僕は持っているわけですが、部屋で乾燥させていたら怪しい虫が湧き、断念しました。
今にして思えば、乾燥させる葦の近くで蚊取り線香を焚き、燻してやれば良かったのかもとか思いますが、ガキのころはそんな手間は頭にも過りませんでした。
ちなみに葦からは葦簀(窓に吊るす簾みたいな日よけ)が作られますし、削って葦ペンにもなります。またヨシパルプは製紙原料にもなりますから、異世界転移してしまったら葦状植物を探してみるのも良いのかも。
いや、もう話がアチコチに飛び散りまくって恐縮ですが
「あの葦の竿が手に入ったら、秋のデキハゼ釣りは面白いだろうな」
と、今でもフッと思ってしまったりするのです。
それでその弱々の竿に結ぶとしたら、いくらベテランのオッサンでも、道糸3号・ハリス1.5号なんて仕掛けはちょっとゴツ過ぎますよね。
出来れば道糸0.6号・ハリス0.2号、せいぜい道糸0.8号・ハリス0.4号くらいまで、かな?
ただし実際には葦の竿が手に入りませんから、2.7m~3.6mくらいの小継淡水小物竿を使うということになりますでしょうか。
これで漁港のスロープ近くや防波堤の根元近くの浅場を狙う。
あとは潮入り川の護岸やなんか。
ハゼは底に居る魚ですから、釣り方はシモリ浮き仕掛けか脈釣りということになりますが、ウキが引き込まれる「味」が好きならシモリ仕掛け、ウキ下調整の煩わしさが嫌なら脈釣り。
個人的にはトウガラシ浮きか極小玉浮きを使ったウキ釣りが楽しいのですが、ウキ下調整はシモリ仕掛けより頻繁に行わなければならなくなります。
釣り好きなら気にならない手間なのですが、初心者さんを連れて行くならシモリ仕掛けが一番なのかな?
別に春の居残りハゼと同じ仕掛けでも、ハゼ君は鷹揚な魚だから口を使ってくれますけどね。
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さて餌ですが、一番良いのは水ゴカイか石ゴカイ。
けれどゴカイの類は触れない、という人もいるし、毎回釣具店に立ち寄るのが難しいという人もいるでしょう。
そんな場合に重宝するのが、バイオワーム系人工餌やオキアミなどの冷凍餌。
特に冷凍オキアミだったら小口パックを、家の冷凍庫の隅に常時保存が出来るので便利。
オキアミを使う時は、頭を取り、尻尾の方からしごくと中身がチュルンと出てきます。いわば剥き身にして使うわけで、小さなハゼでも難無く頬張ることが出来るのです。
潮入り川だとミミズも有効なのですが、掘れる場所の有無次第ですね。
「家の庭にナンボでもおる」というのであれば、無料で採取可能だ。
(石ゴカイも河口付近の泥地で自力採取できるのですが、近頃は貝の密漁が厳しく罰せられる時代ですからね。アサリの密漁をしていると誤解されたら堪りません。李下に冠を正さず、です。漁協が漁業権を放棄した場所なら怒られることも無いんですけれど)
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さて釣り上げたハゼを食べる方法だ。
15㎝を超えるサイズなら、一に天ぷら、二に刺身でしょう。
けれど今回扱っているのは12㎝未満の小ぶりな個体。
先ずは鱗を落としてワタを出し、水洗いします。
下ごしらえが終わったら、第一選択は定番の唐揚げ。
唐揚げ粉(鶏用で可)を入れたビニール袋にハゼを投入し、袋ごと振って満遍なく唐揚げ粉をまぶしたら、油で揚げます。
この時、天ぷら鍋を使わずとも、小ぶりなフライパンや雪平鍋、コッヘルや飯盒・メスティンを代用しても(揚げる対象が小魚ですから)簡単に唐揚げが出来上がります。
注意するのは中火から弱火で揚げ、フライパンや雪平の中に油に絶対に引火しないように目配りすることです。火を使っているときに、油の入った鍋からは絶対に目を離してはいけません。
なお、唐揚げ粉を使わずに、小麦粉や葛粉をまぶして、ウスターソースや天つゆで食べても美味しいです。
唐揚げにする時には、ワタさえ出せば、頭や鱗を取らなくても大丈夫。ここは好みの問題ですね。
第二選択としては煮付けでしょうか。
酒1・味醂1・醤油1の割合の煮汁でサラッと煮上げます。好みで煮汁に山椒や輪切りトウガラシを加えるのも良し。煮汁が少なくなるまで煮込んでいくと、佃煮風になって、これも旨い。
薄味が好きなら、水1・酒1・味醂1・醤油1の割合で煮てみましょう。
小ぶりのハゼは骨も柔らかなので、揚げなくとも骨ごと食べて美味しい。
(ただし、それも好みの問題なので、気になるという方に強要はできませんけれど)
第三選択として「せごし」があります。
下ごしらえしたハゼを、刺身包丁かペティナイフで薄く薄く筒斬りにし、ワサビ醤油で食べる生食料理です。
ハゼの身(骨を含む)の味を、一番ダイレクトに味わえる料理ではないでしょうか。
大型個体を刺身にして激ウマなハゼですが、小型個体の「せごし」もまた捨てがたい。
小型個体を日本酒にあわせるとしたら、一番ハマる料理かもしれません。
第四選択として、吸い物を上げておきます。
鍋に水と5㎝四方くらいにカットした出汁昆布を入れ、沸騰させます。
沸騰したら下ごしらえしたハゼを投入し、薄口醤油で味を決め、最後に溜り醬油を一、二滴。
ミツバやネギを散らしても散らさなくても良し。
意表を突く上品な椀の出来上がりです。
なお、最初に出汁昆布を入れず、後からトッピング風にトロロ昆布を盛るというやり方もアリ。
せっかく釣り上げたハゼですから、美味しく頂きましょう!




