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夏の白子~イサキの産卵期は夏!

 知人の東北人に無類の白子好き女子がいて

「夏は白子が食べられなくてツライ」

と、よく電話越しにブーたれている。(と言うか、僕が愚痴を聞かされる)


 しかも彼女の場合、好きなのはトラフグのではなくタラの白子を至高として譲らない。

「トラフグが美味いなんて、値段に騙されているんだよ。高いモノは美味しいに違いないって」


 トラフグの白子よりタラの白子の味が上、かどうかは――好みのモンダイもあるから――ちょっと脇に置くとして、確かにコストパフォーマンスから言えば「タラ菊・雲子」は圧倒的にトラフグのそれを上回る。

 回転鮨で出ている事もあるし、スーパーに鍋用としてカタマリで売っている事もあるからね。圧倒的に手を出しやすいわけですよ。

(ちなみに雲子は「くもこ」と読んで下され。別の読み方をするとベツモノになっちまいます)


 それで彼女は

「どうにかして、冷凍できないものなのか」

と姦(かしま)しいのだが

「知らん!」

としか僕は答えようがない。


 あ! 生でなく加熱して食べるのなら、冷凍する方法はあるようです。と、言うかあります。

「タラ 白子 冷凍」とか「雲子 冷凍」といったキーワードで検索すると、詳細な方法にプラスして解凍方法や冷凍白子向けレシピなんかも教えてもらえる。

(しかし、かの白子女子に「検索したら載ってたよう」と伝えたら、「そんなん知っとるわい!」と逆上されてしまった。彼女が知りたいのは、ポン酢で食べる生白子そのままの保存か、軽く炙って塩で食うための保存方法なのだそうだ。水産会社に転職して、勝手に研究しろっつうの!)


 元々九州人の僕としては、実を言うとあんまりタラ菊には馴染(なじみ)が無かったんだよ。

 九州でタラは獲れないわけだし。

 雲子の軍艦巻きなんて、本州に行って初めて食べたくらいだから。

 それに冬場の鍋にしても、鍋に入れる魚として、タラやサケって選ばれることが少ないわけ。

 だって居ないんだもん。


 福岡だと正月に出世魚としてブリを食う習慣があるせいか、元旦前後にはブリの頭やアラがゴッソリと並ぶ。

 それも一袋350円くらいのリーズナブルな値段で。もう纏め買いして冷凍庫行きだ!

 だから一番安直な鍋というと「ブリあら+白菜+春菊+豆腐」という構成になり、ポン酢で食う。

 安いしウマいんですよ。

(あと、糸島は日本一真鯛の漁獲量が多い土地だから、タイの頭とアラも安くなる。タイあらの鍋もウマいっす)


◇


 それはさておき、夏の白子ですよ。


 夏場に産卵を行なう魚だったら、夏に白子を持っているのは間違いないわけだからね。


 そ・れ・で、夏に卵持ってる魚と考えたら……イサキだよ。

 産卵前の初夏が旬というくらいだから、順当でしょう。


 しかし、このイサキというサカナ、「美味い!」という評判は高いんだけど……実際に喰ってみると

「うーん。まあまあ……かな?」

程度の認識な人が多いと思う。


 斯く言うワタクシめも、魚の本のシマイサキの項を読んで

「美味しい魚であるが、イサキよりは劣る」

であるとか

「イサキには劣るが美味」

などと書いてあると

「はああ?! シマイサキの方が上でしょうが!」

と、静かにハラワタを煮えくり返らせていたクチである。


(ちなみにイサキはスズキ目イサキ科イサキ属で、シマイサキはスズキ目シマイサキ科シマイサキ属と、シルエットが似ているだけで全く別の、縁もゆかりも無い魚です。見た目もねぇ……体色・模様が全然違うし、顔つきも似ても似つかないんじゃがのぅ)


 ところが、である。

 或る時、釣りたての大イサキを頂戴したことがあって、イサキに対する認識が一変することになってしまった。


『イサキ、うめエエエェェ!』


 そうなのよ。イサキ、バリ旨なんです。


……けれど、美味しいイサキに巡り逢うのは非常に難しい。


 まず一つ。

 魚体が大きくなくてはいけない。

 サイズは少なくとも35㎝以上。出来れば40㎝超えの大物でないといけない。


 次に二つめ。

 釣りたての新鮮なヤツでなければいけない。

 イサキはいわゆる青魚ではないのだけれど、サバ並みに足が早い。

 だから網でガバッと獲られた個体群より、一本釣りで釣り上げられたヤツを船上で神経締めするか、せめて釣り上げてから船の生け間に泳がせていたヤツを大量の氷で氷締めし、その日の内に食うのが良い。


 この二つを同時に満たしたイサキって、そうそう手に入らんのです。


 だから魚類図鑑の(特に食味部分の)執筆者って、前項のカイワリにしたってそうだけど、自分で釣り(あるいは漁)に出掛ける人か、腕の良い漁師さんとメチャクチャ懇意にしている人なんだろうなぁ、と感心してしまった。あるいは魚市場で、目利きと評判の人とかね。

 たぶん、単に市場に出入りしているというだけでは無理っぽい。


 幸いにも僕が激ウマなイサキを手に入れることができた顛末は、いわゆる達人と呼ばれる人が壱岐沖で漁獲した大イサキの一尾を、その日の内にオコボレとして貰うことが出来たため。

 その偶然が無ければ、多分僕は「イサキって、言うほど美味しいか?」と言い続けていたに違いない。

 貰ったときにも「わぁ、美味しそうですねぇ」などと口では言いながら『うーん、玄界灘の獲れたて魚なら、胡麻鯖(ごまさば)に出来るマサバが良かったのになぁ』なんてことを――罰当たりにも――思ったりしていたのだ。


……怖い、怖い……。


◇


 それで無知蒙昧な自分のバカさ加減は置いといて、白子の話に戻るのだけれど、その壱岐沖の大イサキ、捌いてみたら腹の中にクソでかい白子を持っていたわけなんですよ。


「ほー、白子ある。魚がでっかいだけに白子も大きいじゃん」


 イサキという魚は、20㎝に満たないサイズでも既に生殖能力が備わっているから、魚屋で売ってる通常サイスでも白子や真子を持っていることはある。

 けれど魚体が小さければ、当然白子も小さいんですよ。なかなか「食べてみようか」とは思えない。だからワタの一部として処理してしまうわけです。


 けれど大イサキのデッカイ白子なら「こりゃ食ってみるか」となるわけです。


 半分は頭と一緒に味噌汁にし、残る半分はサッと湯通ししてポン酢で。


 すると「があああ! なんじゃコレ!」と愕然とする旨さ。

 とろ~りクリーミーで、冬場に食う白子やカワハギの肝に勝るとも劣らず。(まあカワハギの肝は、夏でも釣り上げた後の温度管理さえシッカリすれば生でも食べれますけどね。ただ冬の肝パンの個体のそれよりは少し頼りなくなっちゃう感は否めない)


 うむ。

 夏に白子が食いたければコレですよ。


 もし夏にイサキ釣りに出掛けることがあって、幸運に大イサキをゲットすることが叶い、しかも腹に白子を抱いていれば……試してみて下さい。

 軽く炙って軍艦巻きにしても絶対に旨いと思います。


◇


 この件、白子女子には報告していません。


 だって「そんなに美味しい白子を、なぜ独り占めにしたぁ!」とか、逆上された上に逆恨み喰らいそうだから。


 まあ彼女の場合、至高はタラ菊、だから、「ふーん。でもタラ菊よりは美味しくなさそう」と見逃してもらえるかも知れませんけど。

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