ホンモロコ釣りにモロコ竿を持って行ってはいけない件
琵琶湖にはニゴロブナを使った鮒鮨や、ビワマス(アメノウオ)というサクラマスに近い琵琶湖固有種のマス、瀬田蜆というシジミの固有種など、他所では食べることの出来ない水産物に出合う事が出来ます。
これら固有種の中で「それでイチオシを挙げるなら?」と質問すると
「どれもこれも美味しいけれど、強いて挙げるならモロコ」
みたいな声が返ってくることがある。
「よそで釣れるタモロコと違いますよ。琵琶湖固有種のホンモロコ」
春に獲れたヤツをさらっと白焼きにして、急いで三杯酢に浸して食べるのが季節感もあって最高の琵琶湖グルメ、なのだそうだ。
「へえ、モロコですか」
前項で触れたタカハヤ・アブラハヤと同じくらいの大きさの小魚ですな。
元は琵琶湖の固有種だったのだけれど、湖産アユの放流に混じって、琵琶湖以外にも生息域が広がっている、とされる魚だ。(このへんは、ヘラブナ放流に混じってとか諸説あるみたいっす)
琵琶湖だと春の産卵シーズン以外は沖にいるので岸からは釣れない。
春の風物詩と呼ばれる所以だ。
けれどこのホンモロコ、今では養殖が行われるようになり、専門の釣り池が出来るような時代になったから、昔ほどまでは幻の美味ではなくなりつつあります。
例えば東京の練馬には、ホンモロコを釣らせる屋内釣り堀カフェなんて施設(店舗?)があり、釣ったモロコは料理もしてくれるのだとか!
貸竿・貸道具アリらしいので、モロコ入門には便利そうですな。
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さて斯様に魅力満点のホンモロコですが、もしアナタが本格的にモロコ釣りを始めようと大型釣具店を訪れたとき、いきなり
「モロコ竿を見せてくれ」
など言ってはいけません。
フレンドリーに「どういったロッドをお探しですか?」と対応してくれていた店員さんが、一転、慇懃な物腰に変わり
「承知いたしました。どうぞこちらへ」
と店の奥深くへと誘われることとなるでしょう。
そして「この竿など如何でしょうか。パワーもトルクも申し分ございません」
と、石鯛竿を更にゴツくしたような剛竿を見せられ
「お値段のほうも、〇十万円と少々張りますが、多少は勉強させていただきます」
とトンデモナイ事態に!
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えーと……これはアナガチ冗談ではないのです。
ホンモロコ狙いだったアナタが釣り具屋で紹介されることになったのは、荒磯の帝王『クエ』を釣るための竿なのですね。
アナタはバリバリの磯師だと思われたというわけです。
クエというのは元々関西方面での呼び名で、関東ではモロコ、九州ではアラと呼びます。
標準和名が、明治新政府から主に関東・東京方面での呼び名を採用された事を思えば、ちょっと不思議な気もします。
しかも関東にはホンモロコは居なかった。
住んでいたモロコはタモロコで、クチボソ(標準和名モツゴ)と並び、冬のタナゴ釣りやマブナ釣りの外道、いわゆる餌取り・ジャミ(邪魅)あつかいだったから。
そのため淡水小物釣り用としてのモロコ竿というブツは無く、モロコ竿と言えばクエ用なんですよ。
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ご納得いただいたところで、ホンモロコ釣りとクエ釣り(磯からの)の仕掛けを比較してみましょう。
〇ホンモロコ 岸からのウキ釣り
道糸 ナイロン0.8号
ハリス ナイロン0.4号
鈎 袖型2号
〇クエ 磯からのブッコミ釣り
道糸 ナイロン80号
ハリス ワイヤー32番
鈎 ネムリ35号
いや~……。似ても似つかない仕掛けですね。
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ぶっとい太さのクエ釣り仕掛けですが、近頃はクエ釣りというとテレビでは船からの釣りばっかりになってしまいました。
個体数が少ないから、番組としては磯クエはハイリスク過ぎるのでしょう。
釣れなきゃ”お蔵”になってしまいますから。
……そういった事情は分からんでもないんですが、かつての「荒磯の帝王」が、船から狙うターゲットと思われてしまうのは残念です。
しかし、このクエという魚、実は日本海側で漁獲量が増えているようなのです。
防波堤釣りをする拙みたいなシロウトでも、豆アジを泳がせてスズキを狙っている時や、穴釣りでカサゴを狙っている時などに、ポロっと釣ってしまったりする。
まあ怪物級ではなくて、30~40㎝止まりの若魚なんですけどね。
(それでも釣り上げてしまった後は、膝がガクガクします)
防波堤のクエに関しては、また日を改めて!




