タカハヤ~低山のチョロ流れで渓流気分を味わう
美しい渓流でヤマメやアマゴ、イワナといった渓魚を釣る。
憧れますねぇ。
木化け石化けして脈釣りで狙うのも好し。
テンカラ釣りの和の毛鈎、フライフィッシングのニンフやストリーマーをポイント目掛けて撃ち込むのも良し。
けれど本格渓流って沢登りが必須だしメッチャ危険。
その道のベテラン――釣りのベテランというより山のプロ――に先達してもらわないと、命を落とす事だって有る。
清流域でヤマメ・アマゴが釣れる「里川の渓魚釣り」という分野もありはしますが、これは極端に地域とシーズンとを選ぶ釣りです。
もっともヤマメはサクラマスの陸封型で、アマゴはサツキマスの陸封型。
本来、山で生まれても海で大きく育つ魚ですから、清流域や下流域に居ても何の不思議も無いんですけどね。
金沢に住んでいた時には「犀川河口でサクラマス釣れた」みたいな情報も読みましたし。
場所や時期に縛りの多い都市河川に比べると、管理釣り場(略称 カンツリ)は安全だし、成魚放流があるから釣果も期待できる。
拙のような素人は、マス系渓魚が釣りたければカンツリ一択かな、という感じでしょうか。ガキンチョのころ連れていってもらったニジマスの釣り堀が原体験となりますから。
またカンツリの中には、釧路湿原の怪魚イトウや三倍体の巨大ニジマスが放してあって、ヌシに挑戦できる池や川があったりするのも激アツですぜ。
あと、釣った魚を塩焼きで味わえるとか、素麺流しの施設があったりするのも魅力です。
ただ、やはりと申しますかカンツリのある場所というのも交通の便が悪いことが多い。
最寄り駅からバスに乗り換えるのだけど、そのバスが数えるほどしか来ない、とか。
自家用車やレンタカーを乗り回せる身分になれば何の問題もない事なんですが、移動手段はチャリンコのみという中高生には、カンツリだって遥か彼方にある桃源郷なんですよ。
しかしヤマメやアマゴに混じって釣れる『ほとんど渓流魚』と言い切って良いターゲットで、手近な山でも釣れる魚がいます。
標高200mも無い低山で、しかも山には登らずにバス停近くのチョロ流れの溝みたいな場所で!
そうです。
その、チャリが唯一の足という初心者にも、渓流釣り気分を味あわせてくれる優しいオトモダチ。
それがタカハヤ君とアブラハヤちゃんなのです。
釣れてくるのはだいたい5㎝~10㎝くらい。大きくて15㎝くらいまでの小さな魚ではありますが。
◆
タカハヤとアブラハヤは、どちらもコイ目 コイ科 アブラハヤ属の魚だから非常に似ています。
ただアブラハヤが青森から岡山までにかけて生育しているのに対して、タカハヤは静岡以西に住んでおり、四国・九州に加えて対馬や五島列島といった長崎の離島にまで生きているのだ。
オイラみたいに南方系というか西方系の生まれだと、釣ったのはほぼタカハヤだろうってことになりますね。
だから九州の離島といった渓流釣りには縁遠そうな場所でも楽しめるんですな。
(まあ、目の前の海で大魚が渦巻いているような島に行ってまで、チョロ流れの小魚を釣りたいと思うかというモンダイはありますが。ただ釣趣という意味では「離島の小川で小魚を釣る」って格別感はあると思います。釣りの味わいってリクツばかりじゃ語れないのよ。うん)
ちなみにタカハヤとアブラハヤが両方棲んでいる川だと、タカハヤのほうが上流側に生息する、とされています。
見分け方はタカハヤのほうがズングリしているって事のようですが、両方並べてみないと分かりにくい気がします。正直、拙には区別つきません。
なお北海道にはヤチウグイという近縁種が固有種として生息していますが、ごめんなさい、釣ったことどころか見た事も無いので何も語れません。
ヤチウグイは平野部の池にも生きているそうですから、北の大地の生まれだと初めての釣りが近所の川や沼で、ヤチウグイなら死ぬほど釣ったわ! という方もおられるんでしょうけれど。(羨ましいっす)
コイ目の魚としては冷水系とされるタカハヤやアブラハヤですが、ヤマメやアユといったサケ目の魚とは違って脂鰭がありません。
アブラビレというのは背鰭の後ろ、尾鰭の前にある小さなヒレのこと。
この脂鰭が有ったなら、もっと渓魚っぽい雰囲気が増えたんですけどねェ。(もっとも脂鰭があったら、コイ目の魚ではなくなってしまうんですけどね)
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釣り方は、そりゃあ渓流気分を味わうためなんですから、脈釣りでもウキ釣りでもヤマメと同じ仕掛けが楽しいでしょう。
ただし10㎝くらいの小魚がメインターゲットですから鈎は小さく。
袖型4号くらいで。
また、跨げるような細流れを狙う場合なら、渓流竿は長すぎます。
ホソで小ブナを釣るような、1.8mの小物竿が取り回しやすいです。千円しない安い竿が売ってますからね。
仕掛けも市販の淡水小物仕掛けをそのまま使うのが面倒がない。
テナガエビ釣りの仕掛け流用でもイケますぜ。
思い切って、1mくらいのタナゴ竿とタナゴ仕掛けて狙ってみるのも引きを楽しめて面白いかもしれません。
ヤマメやイワナと違って、おおらかな魚ですから木化け岩化けしなくても、水に入ってバチャバチャみたいな大騒ぎさえしなければ大丈夫っす!
荒瀬や急流を狙うより、流れが緩やかになった場所に鈎を垂らしましょう。
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餌ですが、ヤマメ釣りの外道としても釣れてくるのですから、ピンチョロ(カゲロウの幼生)でOK。
毛バリでも釣れます。
しかしピンチョロみたいな川虫の採取は案外メンドウですから、ミミズを鈎いっぱいに小さく付ける、が手軽です。
更にさらに、気難しいサケ目の魚と違って雑食性でおおらかなコイ科の魚ですから、茹でた冷麦を餌にしても良いし、お弁当に持って行ったオニギリのゴハン粒でも釣れちゃう。
冷麦やゴハン粒には、サナギ粉や米ヌカをまぶしておけば集魚能力が上がりますが、無理にまぶさなくとも良いでしょう。タカハヤ君は、居れば口を使ってくれますよ。
そういえば、昔は「紅スパ」という名前で、茹でたスパゲティに食紅で着色した餌が、ウグイ・オイカワ用として売っていましたがアレなんかバッチリだと思います。
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食べ方としては、塩焼き・唐揚げ・南蛮漬けなどオイカワと同じで。
天ぷらも美味いらしいんですが、やった事はありません。背開きにするには大変そうですから、内蔵を出したあと掻き揚げでしょうか?
モツゴやタモロコみたいに佃煮風に煮上げても美味しそうですが、佃煮にするほどまでは数が釣れない……んじゃないかな?
小場所での拾い釣りですから。
なおコイ科の中でも小型魚は、コイやフナよりジストマの保有率が高いと聞きます。
タカハヤに関してのデータは知らないのですが、生食はしないほうが良さそうです。
小魚だけどうまい魚なので、煮る・焼く・揚げると、加熱して食べましょう。
川魚全般に言えることですが、包丁・俎板など調理用具は、使用後に熱湯をかけて消毒するのが無難です。




