いきなりヒイラギを熱く語ってみる
魚釣りを始めると、「美味しい刺身が食べたい!」となってくるもの。
海上釣り堀に行けば初心者でもマダイやブリといった大物とファイト出来るし、船釣りだと刺身サイズのマアジを釣るのも難しくはない。
けれど海上釣り堀や船釣りはお金がかかるし、子供連れにはちょっと敷居が高いと逡巡する向きも多いだろう。
――などと堅苦しく悩んでいるヒト!
簡単な解決法があるのです。
逆転の発想で『近場で子供にも簡単に釣れる魚で、刺身にするとムチャムチャ美味い』マイナー魚にターゲットを絞れば良いんですよ。
まとまって取れないとか、一匹一匹が小さいというような理由で、卸値がつかない美味魚って結構います。
◆
たとえばヒイラギなんて、ちょっと気軽に釣りに行くにかという場合なぞには絶好の相手です。
「ヒイラギなんて知らんなぁ」
と思われるかもしれないけれど、関東以南に住んでて、内湾の防波堤で豆アジのサビキ釣りをしたり、河口でハゼ狙いのちょい投げをやった経験をお持ちであれば、実は既に釣ったことがあるかもしれませんぜ?
いや多分、アナタも釣ったことがある! そして「なにコイツ、気色悪~」とか言って、速攻で海に捨てたはず……。マイナー魚の哀しさよ。
標準和名『ヒイラギ』という小魚、薄ひらべったい上に背鰭と胸鰭がトゲトゲして、生け垣に植えられている柊の葉っぱの形に似ているから、その名前になったそうな。
ちなみに鰭のトゲに毒は無いので、掌に刺さらないように掴めば、素手で触っても安全安心。
けれど柊の葉っぱに似てるといっても、魚体は緑色ではなく明るい銀色です。どんなに大きく育っても15㎝くらいまで。
普通、釣れてくるのは5㎝~10㎝くらいのサイズかな?(それ以下だと、小さ過ぎてなかなか鈎がかりしないので)
鱗らしい鱗は無く、ぬるぬるに覆われてます。
(厳密に言えば魚体の後ろ半分に細かすぎる鱗はあるんですが、いかんせん細かすぎて目立たない)
このヌルヌルが、握ると手にベト着くので雑魚扱いされる元凶なんでしょうが、持って帰ったら塩を振って水洗いすれば簡単に流し落せます。
(ただクーラーボックスにパンパンに釣って、一度に処理しようとすると、流しの水切りカゴが詰まるハメになったりするので注意。ヒイラギを知らないという人が、そこまで狙って大釣りするってこともないでしょうが)
ここまで読んでもらったら「ソイツ知ってる!」って成ってもらえました?
「記憶に無い」ですか。そうですか……。
まあ、ネコ食わずとかネコまたぎなんて呼んでる地方もあるくらいだから、思い出の沼の底に沈んでしまっていても仕方ないです。
ホントは脂がのった白身で、刺身にするとシマアジみたいに美味い魚なのに。
(ちょっと余談を挿んでおくと、漁港住みの猫は喜んで食べますからネコ食わずではないんですけどね。ちなみに福岡県糸島市の西の浦漁港の防波堤に住み着いているボス猫は、アイゴという鰭に毒トゲがある危険魚も平気で頭からボリボリ食べます。刺されて痛くないのか? と、いつも不思議に思うのですが)
けれどヒイラギ、地方によっては食用魚として高く評価している場所も有り、高知ではニロギと呼んで珍重されてます。
一夜干しにして、金網の上で炙って食べるんですな。
魚ドコロの土佐で「ウマ~!」とされているんだから、味は間違いないんです。
我が故郷 福岡でも、トンマという名で好んで食べられてますね。
糸島の直売所では、一盛り200円くらいで売られているのを目にすることもあります。
煮付けで食べるお手軽気楽な、しかも激ウマ総菜魚です。
(ただし福岡市は人の出入りの激しい街なので、ヒイラギのことを知らない人も多いわけですが)
◆
さて肝心の釣り方ですが、ウキ釣り・サビキ釣り・ちょい投げの何にでも、外道と罵倒されて釣れてくるくらいだから
①鈎を小さくする~ウキ釣りなら袖鈎、ちょい投げならハゼ鈎など
②砂底・砂泥底の防波堤・岸壁で、底狙い
をすれば確実にゲットだぜ!
餌は石ゴカイ(標準和名イソゴカイ 福岡ではイワデコ)が一番。
購入量は最小単位で充分です。ヒイラギ一匹を釣るのに必要な量が、小ぶりの鈎いっぱいに刺し、ちょっと垂らす程度なので。(一匹の石ゴカイを3~4分割して使える)
青イソメ(青虫)を使う場合は、頭の方の硬くて太い部分は捨て、尻尾の方の細くて柔らかい部分を使うと食い込みが良いようです。
石ゴカイや青イソメみたいなグニャグニャ動く虫餌が苦手であれば、サヨリ釣りなんかに使う冷凍の大粒アミ(サシアミ)でも釣れますよ!
ただ大粒アミでなくオキアミを使うときは生オキアミをチョイスし、頭を取って尾羽の方から殻をしごき、にゅるんと出て来る剥き身を鈎がけすると食いが良いようです。オキアミを殻つきのまま使うと中身だけ吸われて殻だけが残っているという事がありますので。
また生餌を使いたくない人だったら、パワーワームみたいな匂い付き・味付きワームで釣る事も可。
ヒイラギは素直で素朴な性格のターゲットなので、難しく考えないで行きましょう。
一方、寄せ餌を打つ場合には、アミエビ+集魚剤(チヌ用の比重が重いタイプ)が一般的でしょう。
ヒイラギ狙いならもっと雑に、集魚剤のみでも構いません。
ただし寄せ餌を使うと、メジナの幼魚(木っ端グレ・木っ端グロ)やメバルの幼魚、クロダイの幼魚(小チヌ・カイズ・メイタ)や豆アジなど、やる気満々な『外道』が集まってしまうことがあり、動きのノロいヒイラギ君は出遅れて付け餌に食い付き負けます。
「メジナやチヌが来るなら、そっちの方が良いじゃん?」と不思議に思われるかもしれませんが、10㎝くらいのメジナやクロダイは幼魚ですから、身に脂が乗っていないので刺身にはイマイチ。
対してヒイラギは、10㎝あれば立派なオトナ。だから美味いんですな。
◆
アタリは、ウキ釣りであれば海中にスーッと引き込まれる、絵に描いたような素直なアタリです。
小細工なしに餌を吸い込む魚なので、クロダイ(チヌ)釣りなどとは違って一呼吸待つ必要はありません。即アワセで上げましょう。
ちょい投げだと、道糸を張っておけばククンとしたダイレクトなアタリが穂先に伝わります。
食い逃げするような小賢しい魚ではないですから、慌てずリールを巻き上げましょう。
大アワセは不要で、巻きアワセで充分です。
竿やリールも「防波堤釣り入門セット」や「初めてのサビキ釣り」みたいなセット売りの入門用の安い物で事足ります。
ブラックバスをやる人ならバスロッドでも。(ただ硬い竿だと――相手が小さな魚ですから――ライトロッドじゃないと釣趣が足りない。トラウト用ウルトラライトが有ればそちらを)
4.5mくらいのハヤ・ヤマベ用清流竿を持っていらっしゃったら、それでも充分。と申しますか、ヤマベ用の竿ならヒイラギの引きを存分に味わえてむしろ楽しいくらいです。
あえてお薦めのコーディネートを上げるとすると
竿)チヌ竿1号 3.3m
リール)小型スピニングリール
道糸)ナイロン3号
オモリ)丸型中通し0.5号、またはカミツブシ特大
ハリス)フロロカーボン1号
鈎)袖型5号か伊勢尼4号
といったところでしょうか。
魚のサイズに比べて糸が太目なのは、ヒイラギがあまり釣り糸を気にしないタイプの魚であることと、時に外道の大物(アイナメやチヌ、ボラ)が喰い付いてくるからなのです。
竿を伸ばしてガイドに道糸を通したら、中通しオモリを道糸に通して、小型サルカン(よりもどし)を結びます。
そしてハリス10~15㎝と鈎を結んだら餌を付けて、いとも簡単に準備完了。
まずは遠投せずに、足元にポトンと落としてみましょう。
くくくっと小気味よいアタリがあったら――ハイ! もう釣れてます。
なお、この3.3mチヌ竿を使った「ちょい投げ・脈釣り」仕掛けは簡便な割に、初春の居残り大キス釣りや居残り大ハゼ釣りなどにも応用が利く組み合わせなので、知っていて損はありませんよ?
◆
いよいよ料理パートに入りますね。
ぬめりを取ったヒイラギを俎板に載せたら、包丁で頭を落とします。包丁を入れる位置は胸鰭の後ろから。背骨は小魚にしては硬め。
次に三枚おろしに入るのですが、頭落としに使った包丁より、小ぶりで刃が薄いペティナイフが使いやすいです。
よく砥いだペティナイフが無ければ、いっそカッターナイフかカミソリで。
さばき方は、切り落とした頭側の断面から背骨に沿って、刃を魚体と水平に保って尾の方へと滑らせます。
いわゆる「大名おろし」という手法ですが、魚が小さいこともありこれが一番カンタン。
片面の身を削ぎ終わったら、裏返してもう片面も同様に。
これで簡便三枚おろしの完了です。
削いだ片面一枚分が、刺身一切れ相当ですから、一匹のヒイラギから取れる刺身は2枚という計算になります。
一人あたり10枚の刺身を四人で食べたいと思えば、計20匹のヒイラギをさばかないといけない計算になりますね。
釣るには難しくない魚だけど、小魚の大名おろしに慣れないうちは、ここが一番タイヘンな行程かも?
◆
刺身にしたヒイラギは、とろりとした甘みが絶品でそのままツルリとお腹に収まってしまいますが、もう一手間かけて昆布締めにする手もあります。
昆布締めの昆布は、酒を水で1対1の濃度に薄めたものを霧吹きで吹き掛けた後、布巾で拭っておくものなのだそうですが、ちょっと面倒だとかそもそも霧吹きを持っていないなどという場合、ヒイラギの刺身なら水で濡らしたキッチンペーパーを軽く絞って拭いておく程度でも特に問題無しです。
バットに湿らせた昆布を敷き、刺身を並べたら上からもう一枚昆布を被せ、ラップを掛けて冷蔵庫に入れます。
30分から1時間ほど寝かせたら完成です。
酒の肴として絶品なのは勿論ですが、醤油を付けた昆布締めを熱々ゴハンに乗っけて食べるのもガチで美味い。
ゴハンと食べるときには、カイワレ・針生姜・刻み大葉・大根おろし等を好みで添えるのもまた、オツなもんですぜ!
江戸前寿司では、コノシロの新子を手間暇かけて人気ネタに仕上げますが、ヒイラギも握りにしたら大人気ネタのなると思うんですがねぇ……。
◆
釣れ過ぎて、全部を刺身にするのはタイヘン!
――といった事態に直面してしまったとします。
冷凍をカマせば味が落ちてしまうのは当然なので、そんな場合には煮付けにしてしまうのが手っ取り早い。
小鍋に、酒1:味醂1:水1を入れ、火を点けます。まずは強火。
沸騰したら、ヌルヌルを落としたヒイラギをドサドサと入れ、中火に。
再度沸騰したら、醤油1を追加。弱火に落とします。
三度沸騰したら、ハイ! 出来上がりです。
醤油を入れる時に、お好みでチューブのおろし生姜か鷹の爪を加えるのもアリ。
煮付けにしても片面で一口分ですから、一人で簡単に10匹くらい食べてしまいますねぇ。
◆
だんだん寒くなってきて、釣り初心者に向いた小物釣りのターゲットが寂しくなってきますが、ヒイラギの産卵期は晩春。
案外、冬でも口を使ってくれる魚です。
おヒマな小春日和には、近くの海岸へぜひ。
なお、ヒイラギは皆がよく釣っているはずなのに、釣り新聞にも釣りサイトにも『ほぼ絶対に』情報が上がってこない魚です。
更に仮にアナタが海岸へ行って、釣りをしているヒトに
「近頃、ヒイラギって釣れてますか?」
と質問してもクロダイやメバル、ウミタナゴ狙いの釣り人からは
「さあ? どうかねぇ」
といった反応しか返ってこないでしょう。
(邪魔になるほど餌とって困るわ! とか言われたらシメシメですが)
だからと言って、悲観することはありません。
ルアーマン、特に岸釣り(オカッパリ)でシーバス(スズキ)狙いの人ならヒイラギの動向にイヤに詳しかったりします。
理由は、豆アジやカタクチイワシが居なくなった冬、スズキがよく餌にしているのがボラの幼魚(鯔・イナッコ)とヒイラギだからなんですね。
特にヒイラギは泳速が遅い魚ですから、寒さで夏ほど身体が動かないスズキにしても、捕食し易い対象だったりします。
なので、ルアー釣りのサイトや記事などを詳細に読めば
「〇〇岸壁のオカッパリでシーバス80㎝を頭に3本。バイブレーションで。ベイトはヒイラギ」
といった情報に出合えることがあります。
アナタのヒイラギライフに幸運を。