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第1話(1)大学内にて

                  1

「ふう……」

 広島市内のとある女子大を厳島甘美は颯爽と歩く。この大学は世間的にはいわゆる『お嬢様大学』というカテゴリーに入る大学なのだが、その中でも日本有数の企業グループである『厳島グループ』の令嬢である甘美の存在感は人一倍強い。ただ大学構内を歩くだけでもたちまち人目が集中する。

「見て、厳島先輩よ……」

(ふう、また噂話の的ですわね……)

「今日もお綺麗ね……」

(明日も明後日もお綺麗ですわ)

「でも、ご存知? バンドをやっているそうですわ」

(ええ、やっていますわ)

「もしかして……不良?」

(いつの時代の価値観ですの?)

「何でも昨年度は単位を全て落としたとか……」

(失礼な、ちゃんと取りましたわ。追試とレポート提出でなんとかギリギリでしたけど……)

「生きざまがロックですわね……」

(別にロックンローラーではないのですが……)

「そういうところも含めて素敵ですわね~」

(お、お気持ちは嬉しいのですが、貴女はそれで良いのですか?)

「……喉が渇きましたわ」

 甘美は近くの自販機に目を留め、飲み物を購入しようとする。

「何をお買いになるのかしら?」

「いちごカフェオレ? オレンジジュース?」

「そんなお子ちゃまな飲み物はお召し上がりにはならないでしょう」

「そうですわよね~」

(ぐっ、メロンソーダを買いづらくなりましたわ……ええい!)

「ブ、ブラックコーヒー!」

「さすが、大人の女性ですわ……」

「ふう……」

 甘美は近くのベンチに腰掛け、ブラックコーヒーを一口飲む。

「絵になりますわね~」

(周囲の視線が……人気者は辛いですわね……苦っ……)

「あ、あの~厳島先輩? お話があるのですが……」

 大人しそうな女子が話しかけてきた。甘美はコーヒーの苦みで少ししかめていた表情を笑顔に変える。

「SNSに上げるお写真? よろしくてよ」

「い、いや……」

「サイン? 転売などはなさらないでね。そんなことはなさらないと思うけど……」

「え、えっと……」

「ああ、握手かしら? 同姓の方ならハグもOKですわよ?」

「す、すみません、そうではなくて……」

「え?」

 甘美は両手を広げて首を傾げる。

「お願いしたいことは他にありまして……」

「……」

「………」

 気まずい沈黙が流れる。

「……直接お話になればよろしいのに」

 廊下を歩きながら、甘美は大人しい女子に語りかける。

「い、いや、あの先輩はちょっと話しかけにくいと言いますか……」

「そうですか?」

「え、ええ……」

「怖いのですか?」

「こ、怖いというか、なんというか、独特なオーラを纏っているというか……」

「む……」

 甘美が立ち止まって額を抑える。大人しい女子が問う。

「ど、どうかされましたか?」

「オーラなら……」

「え?」

「オーラならわたくしもなかなかのものを放っていると思うのですが?」

 甘美が額を抑える指の間から大人しい女子に視線を向ける。

「え、ええ?」

 大人しい女子が戸惑う。

「いかがでしょうか?」

「い、いや、そう言われても……」

 大人しい女子が答えに窮する。甘美が微笑む。

「ふっ、わたくしのオーラに気圧されてしまいましたか……」

「あ、はい、すみません……」

「謝ることはありません……ちょうど着きましたわ」

 甘美がある一室を指し示す。『占』とでかでかと書かれた看板が下がっている。

「あ……」

「貴女にお客様ですわ、インチキ占い師さん……」

「インテリ占い師の間違いだろう」

 巫女舞の恰好をしたショートボブの女性が部屋に入ってきた甘美に答える。

「……まったく、大学内にこのような怪しげなスペースを堂々と構えるとは……大学は何を考えているのか……」

「学生の自主性の尊重……」

「聞こえの良いことを言わない」

「実際問題として苦情は一件も出ていない」

「む……」

「よく当たるからな」

「誰にでも当てはまるようなことをもっともらしく言っているだけでしょう」

「そういう考え方も出来る」

「ふん……」

「あ、あの……」

 大人しい女子が遠慮がちに口を開く。

「ああ、失礼。今の話はお気になさらず。ほんの戯言ですわ」

「は、はあ……」

「あらためて、貴女にお客様です」

「……どうぞ、お座りになって下さい」

 ショートボブの女性が自分の前の席を指し示す。

「は、はい、失礼します……」

 大人しい女子が席に座る。ショートボブの女性が軽く頭を下げる。

隠岐(おきの)(しま)(うつつ)です……お名前は?」

「さ、佐藤春子です」

「佐藤さん、本日はどういったことで?」

「えっと……」

「ちょっと待って!」

 現が手のひらを佐藤の前に突き出す。

「え、え?」

「……分かりました」

「え、ええ?」

「あるお悩みについて占って欲しいのですね、違いますか?」

「す、すごい、当たっています!」

「それはそうでしょう。本当に大丈夫なのかしら、この大学……」

 甘美は呆れ気味に小声で呟く。

お読み頂いてありがとうございます。

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