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光と闇の狭間

作者: 葦桜 紫苑

 





 夢を見る、何度も何度も同じ夢を。


 その夢はとても幸福な夢で、あの時のように君と共に空を飛ぶ夢、目を細めたくなるほど輝く青の中を、白い純白の翼で飛び続けた、何処までも行ける、君の手を握り締めていれば・・・・・・。





 自然の中で自由に生き、食物連鎖の中で死んで行くのと、暖かい手の中で、飼いならされて死んで行くの、どちらが幸福だろう、どちらも知っている君は、何を選びたい?


 深い深い森の中、空はこんなにも明るいのに、地上は闇で覆われている、この世界は統一され、法と秩序が世界を支配し、その枠組みの中で生きられない者達は、人が作った流れに流され闇に落ちて行く、這い上がる力も奪われ、反逆する心も枯らされる、ルールを守れないものは、そのルールのある世界で生きる事は不可能、どんなに去りたくても、去ることが出来ない様に、鎖を巻きつける連中もいる。


 君の居る光射す世界、僕の住む光閉ざす世界、同じ大地で続いているのに、近寄る事さえ出来ない、壁何か無いのに、見えない壁が大きく立ち塞がっている。遠くに見える大きな光を見て考える、君の心を・・・・・・。


 幸福なのかも、不幸なのかも、ましてや生きているのか死んでいるのかも分からない、それでも心にある決意は揺るぐことを知らない。


 深い森に生息する木々達、本当の色は闇に飲まれ分からない、地上の色は全て同じ、でも見上げる空は青、その事実が在るだけで、人々は進む、希望を見出した人の心は強く力強い、そしてとても残酷な手段を使う。考えただけで馬鹿馬鹿しい事は分かっている、それでも動かずには居ないほど、時は経っていない。


 幸福な者が居れば不幸になる者が居る、幸福な者が「不幸」の存在に気付けたなら・・・・・・いや無理な話だ、例え気付いたとしても、例え知っていたとしても、その事が不幸への架け橋となるかも知れない、自分ならしない、それが破滅に向かう道でも、自らその幸せを壊すことは無い。


 目を開けていれば蘇る、君と見つめた世界、目を閉じると残酷な夢が瞼の裏側に焼きついて離れない。引き離された手を、守れなかった存在。


 揺らぐことの無い心。


 《世界は統一され、法と秩序が世界を支配し、その枠組みの中で生きられない者達は、人が作った流れに流され闇に落ちて行く、這い上がる力も奪われ、反逆する心も枯らされる、ルールを守れないものは、そのルールのある世界で生きる事は不可能、どんなに去りたくても、去ることが出来ない様に、鎖を巻きつける連中もいる。》


 《希望を見出した人の心は強く力強い、そしてとても残酷な手段を使う。》


 どんなに心を砕かれ、奪われても、何度だって生まれてくるものがある、それを知らずに優々と生きている者達に言って遣りたくなった、「愚かだ」と。


 「ずっと、君を取り戻す事だけを考えていたんだ。」

 

 闇は光射す方に話しかけた、遠くから仲間の声が聞こえ、振り返り剣を握り締めて小さく笑った。


 これから悲劇が繰り広げられ、惨劇が巻き起こる、幾多の血が流れ、多くの血が混ざり合い、世界を一つに変える、後悔しても遣った事を悔いる事は無い、だって奪われたものを奪い返すだけ、僕達は何も得てはいない。





 それは昔の話、途方も無いくらいの遠い過去の話。


 世界を一つに統一しようとした者、でもそれは相手の何かを奪い、自分の思想を押し付ける事、そしてそれに反発する者、奪われたものを奪い戻しただけ、でもそれは、大切な物さえも捨てる行為。気付いていたのか、気付かない振りをしていたのか、今となっては知る者も居なければ、知る術も無い。


 そうこの話は、光と闇を一つにしようとした話・・・・・・光と闇を元に戻そうとした話・・・・・・。


 双方の思い打ち砕かれ、何年もの悲劇の先に果てが生まれ、血は混じり光と闇が結ばれた。


 「そして、その戦いは終わり、互いにその思いを汲み取り、世界は一つになり光と闇は二つ、その狭間で戦ったから、夕日はあんなにも赤く、町を血色に染める。」


 それを聞いていた子供達は、目を見開きキョトンとしていたが、直にブーイング嵐を起こした。


 「何だよそれ、子供だからってバカにしてるだろ。」


 「あー時間の無駄だった、聞いてて損したよ。」


 「もう少し、マシな話聞かせろよなー。」


 「まっ、おばさんには、こんな話しか浮かばないか。」


 その言葉に子供達は爆笑したが、小さく何かが切れる音がした事には誰も気付かなかった。


 「私はまだ、二十四だーーーー。」


 蜘蛛の子を散らしたように、子供達はあちこちに逃げていった、追いかけ様としたが、すばしっこくて、早い、とても捕まえることは出来なかった、そして女性は酷く落ち込んでいた、まだ二十四歳と思っていたが、もしかしたら、もう24歳なのかもしれないと、体力に差がありすぎる。


 座っていたベンチに戻ると、そこには逃げていった子供達と一緒になって話を聞いていた少女が、ニコニコしながら、女性の帰りを待っていた。


 「もう遅いから、帰りなさい。」


 優しく言うと、少女は大きな目をさらに見開いて、上目遣いで見つめてくる。


 「昔、人には羽があったの?」


 「さぁ、でも大地を歩くのに、羽は邪魔だから無くて良いんじゃない。」


 「そのあと二人はどうなったの?」


 女性は少し困ったような顔をしたが、少女はそんなの関係ないと言わんばかりに、目をキラキラ輝かせ、次の言葉を待っている。


 一つ溜め息を付き、目線が合うようにしゃがむ。知りたいという好奇心、瞳が訴える幸せな結末、どんな言葉を期待しているかは直に分かった、でもこれは、こんな風な話ではない。


 「さぁ分からないな、今では知る術は無いから、だから結末は自分で考えなくちゃ、これはそういう意味の昔話だから、本当にあった話しなのかも、どういう結末かも、人それぞれ違うの。」


 そう言うと、難しすぎるのか、眉をひそめて首を傾げている、その様子を見て女性は優しく微笑んみ、少女の頭を撫で聞いた。


 「この話は本当の話だと思う?そしてこの話の結末はどうあってほしい?」


 「本当の話だと思う、きっと二人は幸せになったと思う。」


 きっとそうに違いない、自分に言い聞かせるように少女は言い、女性も否定はしない。ぱぁっと花が咲きほころぶ様な笑顔で、薄暗くなった世界をも輝かせる様な微笑みに、女性も自然と笑顔になった。


 「もう遅いから帰りなさい。」


 「うん」と目を輝かせながら、走って行く後姿を見ながら、女性は手を振った、遠くの方でバイバーイと少女が小さな手を振っているから。


 人の気配がなくなり、昼間のあの賑やかな光景が思い出せないほど、夜の公園は殺風景で、静かだ。


 ベンチに深く座り、星も見えない空に手をかざす、そして女性はゆっくりと目を閉じ、瞼の裏に焼きついた、過去に思いを馳せる。




                                                完



 





 


 

 


 




 


 















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