episode 72
マックで待ち合わせの時間、少し前に到着した。サングラスを外し、店内へと入る。まだ壱花は来ていないと思いきや、店内のすみの席にちょこんと座っていた。近づいていき、壱花と声をかけた。
「早いね。いったい何時からいたんだい?」
笑いかけると、恥ずかしそうに俯いた。
「えっと、さっき来たばかりです」
「本当にそうなの?」
向かいの席に座る。テーブルに乗っているアイスティーは、半分以下に減っている。
ふと見ると、恥ずかしそうに俯いていると思っていた顔が、少し暗かった。頬が引きつっているようにも見える。
「壱花ちゃん? どうしたの? なにかあった?」
「い! いえ! ……なんにも、」
「そう?」
店内に入ってきた時に、少しだけ悪い予感はあった。壱花が、ブラックのワンピースを着ていたからだ。
元に戻ってしまったのは、あの弥一となにかあったのかと、どうしても勘ぐってしまう。
(この前のオンラインでは、俺が贈った服を着てくれていたのに……)
けれど、どんな服を着ようが着まいが、それが壱花の確固たる権利。ここで強制させてしまったら、元恋人の弥一と同じになってしまう。
気にしていない、そんなていで、壱花に話しかけた。
「今からどこに行きたい? レンタカー借りてあるから、どこにでも連れていくよ」
「はい。実は行きたいところがあって」
「どこ?」
「美術館に」
「いいね」
スマホで見せてもらった美術館を、自分のスマホの検索に入れる。地図を開いて位置情報を得た。
「常設、今はなにやってるの?」
「『ステンドグラスの歴史、その変遷』です。色使いとかに興味があって、前から行きたいって思ってたんです」
「よし! じゃあ決まりな。行こう! っとその前に……」
立ち上がってから、マックの注文カウンターを親指で指す。
「ハンバーガーセット買ってきてもいい? 壱花ちゃんはなにがいい?」




