episode 6
その姿を見た途端、ジェインの足が前へと進んだ。けれど、ジェインがドアに小走りで走り寄るころには、さすがに大人二人、ドアの中へと無事に乗り込んでいた。
「わわ、おっとっと……!」
勢いがつき過ぎて、ドアの前で踏ん張った。乗る予定の新幹線ではなかったため、そこで足を止めるはずが、目が合ってしまったのだ。
少女がこちらをじっと見ていた。乗る勢いで走ってきた姿を見られたから、ここで乗らないという選択肢はない。なんだか気まずかったのもある。
「えっとお、……乗ります」
ベビーカーを押す母親がようやく背後に気がついて、「邪魔してしまって。すみません」と頭を下げた。すかさず、ベビーカーを奥へと押した。
「いえ、大丈夫。通れます」
「席はどちらですか?」
少女が母親に話しかける。大きなカバンを肩にかけ直し、いきましょうと母親を促した。カバンは、可愛いウサギの柄。どう見ても、その母親の荷物だ。
(また人助けしてるのか)
良い子なのだろう。表情は暗いが、その風貌に人の良さが垣間見えるような気がした。彼女はベビーカーを押す母親の後を、大きな荷物を抱えて、ひょこひょことついていった。
我に返って思ったことは、二つ。今日もおにぎりだった、ということ。そして、
「それにしてもやばい……ひとつ前のに乗っちまった」
ドアはとっくに閉まっている。
走り始める新幹線の中、ジェインはとりあえず車掌を探そうと、通路を歩き始めた。