episode 35
ダサいしオタク。黒髪でどんと重い前髪のせいで、余計にネクラに見えるし、更に言えばどんくさくてトロい。
そんな認識しかなかった。
「なんでこのサークルに入ったんかなあ、あの子」
和田 弥一は握っていたテニスラケットのグリップを握り直し、自分の後輩とラリーをしている壱花を視線で捉えた。
しかも、テニスもくっそ下手。二つ向こうのコート。ちょこまかちょこまか、あっち行ったりこっち行ったり、ボールに翻弄されている。
ほっときゃいいのに、コロコロと転がっていくテニスボールをいちいち追いかけていくからだ。
(おむすびコロコロリンか⁉︎ っての)
しかもだ。なかなかボールに追いつかない。コートの反対側を見ると、相手役の後輩が、腰に手を当てて、ダルそうに突っ立っている。
「悪い、ちょっと休憩!」
弥一が自分のパートナーに声を掛ける。ため息をひとつつき、二つ向こうのコートに向かうと、壱花の相手をしていた後輩に喋りかけた。
「代わるわ」
後輩は、助かった〜という意味合いの苦笑いを浮かべると、さっさとベンチへと向かう。それと同時にボールを拾った壱花がコートに戻ると、弥一は大きな声で壱花へと言葉を投げた。
「おーーっし、打ってみーー」
はいっ。返事は小さい。
壱花は持っていたボールをラケットで叩いた。ボールはネット際に当たりはしたが、辛うじて弥一の面へと落ちる。
自慢の脚力でボールに追いつき、それをラケットで拾った。飛んでいったボールは壱花の手前で弾んで転がっていく。
「す、すみませんっ」
謝りながらボールを追いかけていく、の繰り返し。
ラリーとは言えない打ち合いを終えると、壱花はより一層、萎縮してしまっていた。
「先輩、す、すみません」
「そんなに力入れてラケットを握ってると、ボールがガットの真正面を捉えられないから、もっとリラックスして」
「はい!」
一生懸命だ。それは伝わってくる。けれど、運動神経が壊滅的なのかもしれない。運動神経が遺伝的要素なら、それは仕方がないと、諦めるしかない。
弥一は、壱花と同時に入部した、壱花の友達をも見た。まだ完璧ではないが、多少ラリーは続くようになっている。壱花の友達は、髪をオレンジと緑に染めてピアスをし、可愛い服を着たりブランドバッグを持ったりと、キラキラと輝いている。
それに比べて壱花は、地味な外見、黒髪ボブ、黒縁のださメガネ。そしてこの壊滅的な運動神経。
(これ以上、みんなと差がつく前に、少し特訓した方がいいかもな)




