episode 13
堪忍袋の緒がぶちっと切れた。クズかもとは思っていたが、絵に描いたような本物のクズだった。
ジェインは、柱の陰から出ると、つかつかと二人へと近づいていった。そして、壱花の腕を掴んでいる男の腕をバシンと叩き落とし、そして壱花の肩を掴み、ぐっと抱き寄せた。
「な、なにす、誰だよ! おまえはっ!」
「Hey such a jerk! Ichika! Are you really in love with him? 」
「じ、ジェイン……さん」
壱花の肩を抱きながら、顔を覗き込むと、薄紅色の唇がかすかに震えていた。左頬が少し、赤い。
(さっきの音……ぶたれたのかっ)
込み上げてくるものがあった。
「shit! don't come near Ichika again!!」
「なんて言ったんだ! 日本語でしゃべれよっっ!」
「このクソ野郎、壱花に二度と近づくんじゃない!」
ジェインは睨みを効かせながら、ドスのきいた低い声でゆっくりと告げた。
その様子に男が怯む。
「くそっ! おい! 壱花、金を渡せ」
反射的に壱花はカバンの中に手を入れ、封筒を取り出した。その封筒をばっと奪い取り、そして男は踵を返した。
「壱花! 今度、会ったときにシメてやるからな! 覚えてろよ!」
怒りの背中を見せながら、スタスタと歩いていく後ろ姿を目で追う。駅の出口へと消えていくのを確認し、そしてほっと肩をなでおろした。
「壱花ちゃん、こんなことを言うのはあれだけど、男は選んだ方が良い」
ジェインが再度、壱花の顔を覗き込む。ぎょっとした。泣いている。ぼろぼろと大粒の涙をこぼしながら。
「ちょ、ちょっと、待って」
ジェインがスーツのポケットからハンカチを出し、壱花の頬に当てる。涙はハンカチに吸い込まれ、そして滲んでいった。
「どうしてこんなことするんです、か、どうして、」
震える声に、ぎゅっとつぶったまぶた。
「壱花ちゃん」
「なんでこんな……余計な、ことを……」
小さく消え入りそうな声だが、自分が非難されているのは声色でわかる。
「ごめんな。彼氏のあんな態度、我慢できんかった」
ジェインのその言葉も、小さく消えていった。




