第六話
翌日の放課後。
俺はさっそく莉那に選んでもらった真新しい服に袖を通していた。
加えて、莉那がこっそり買っていたらしいワックスで髪型を整えてもらった。莉那は髪のセットが上手くて、俺が何度やってもそれっぽくならなかった髪型も、いともあっさり形にしてくれた。
……ただ、なんであいつがお礼を言ったんだろうな?
髪のセットが終わってお礼を言おうとしたら、「ありがとうねお兄ちゃん。頑張って!」と言って、自室に鼻歌を歌って戻っていったのだ。
何がありがとうなのか分からなかったが、まぁいい。とりあえず、面談だ。約束の時間まであと五分。俺達の生活が掛かっているという意味でも、絶対に合格を貰うために気合を入れた。
「うん、OKだね! 君、立派な彼氏だねぇ! じゃあ、もうIDとマニュアルをメールに送ったから、後は確認よろ! それじゃ、レン彼頑張ってねぇ!」
『ホストから切断されました』
面談時間、僅か一分。
ノートパソコンを繋いで、名前を名乗って、立って全身を見せたら、さっきの言葉が返ってきた。
……軽いなぁ。
あまりに軽くて不安になるレベルだが、まぁいい。電話した時から、なんかそんな気はしていた。それに、あまりに窮屈な雰囲気よりも、こういう緩い方がやりやすいはずだ。多分。
ともあれ、言われた通りにIDとマニュアルを確認する。
「届いてるな」
レンタル彼氏の為に作ったメアドに、それはちゃんとあった。開いて確認していく。
まず、IDを開いた。初回起動の為にパスワードの変更を求められ、変更を終える。すると、次はレンタル彼氏としてのプロフィールの作成画面に映った。
どんなことを書けばいいのかマニュアルを確認すると、嘘ではないが多少盛ってカッコよく! というとても曖昧な指示があった。
「何書くか……」
悩んで、結局他のレンタル彼氏を参考にすることにした。
内容としては、趣味と呼び方と、彼氏からの一言。
やはりカッコいいイメージの為か、趣味はスポーツが多い。呼び方も軽い感じで、一言はちょっとクサいが、イケメンが言いそうな一言が並んでいる。
とりあえず、趣味にはスノーボードと打ち込む。これは嘘ではなく、小学生の頃のスキー教室でスノボを選択して以降嵌っている、俺の数少ない趣味である。
次に呼び名だが、これは『るい』とする。俺のレンタル彼氏名は、『瑠唯』という名前に決めていた。理由は、何となくだ。前にテレビで見たイケメンが唯だったので、ちょっと弄ってお借りした。
最後に、彼氏からの一言。
例として挙げると、「一緒に楽しもうねッ」「リードされたい子は僕を選んでね」とかとか。「僕の胸に飛び込んできて」なんてものもあった。
さすがにそこまでクサい一言を書く勇気が無いので、少し考える。スマホで萌える一言を調べたりした挙句、無難なものにする。
「『一緒に楽しい時間を過ごそうね』、と。」
これなら、変にハードルも上がらない無難な一言だろう。
「後は……」
ザッ、と下まで確認する。
後埋めなくてはいけないのは、写真と料金設定だった。
「写真、ねぇ?」
乗っけられるような写真があったか? と考えるが思い当たらない。しょうがないので、これは後で莉那に頼んで、手を加えてもらった写真を載せることにする。
となると、最後に料金設定だ。まず前提として、レンタル彼氏にはランクと呼ばれるものが存在する。
ブロンズ、シルバー、ゴールド、そしてプラチナ。
全部で四つのランクに区分されたこれらは、上がると手取りが増える仕組みだ。上げるためには、一定の売り上げと専属指名を受けないといけないらしい。マニュアルにはそう書いてあった。
「今の俺は、当然ブロンズだから……」
マニュアルを目で追っていく。
料金設定は、決められた幅で彼氏側が設定できる。ブロンズだと、4000~5000円/hだ。因みに、手数料が取られる為、手取りは七割になる。
俺が他の彼氏よりもイケメンだ、などとは到底思えないので、最低額の4000円という設定にしておいた。それでも、俺と一時間過ごすために4000円もするのだから、個人的には高いと感じるが。
……それだけ払って貰うんだから、しっかりと相手を喜ばせないとな。
実際に設定したことで、ちょっと気が引き締まる。
最後に完了ボタンを押したことで、初期設定は終わった。実際にサイトに掲載されるのは、登録完了から三日後。その間に、デートについて学んでおかなければいけない。
他のバイトとは毛色の違うこの仕事に、少々の不安を感じる。けれど、それ以上に楽しみも感じていた。
……頑張ろう。
内心で呟いて、俺は改めて気合を入れるのだった――
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