第四話
「そう言えばさ、お兄ちゃん?」
「どうした、我が妹よ?」
ファミレスで昼食を取り、コーヒーを飲みながら食休みをしていると、何やら思い出したらしい莉那が声をかけてきた。
「私の今日の服装、どう?」
「ん? あぁ、似合ってると思うぞ?」
今日の莉那は、ダボッとした感じの青のTシャツに、裾の広いベージュのワイドパンツを着用している。ちょっと大人向きなファッションな気がするのだが、それでも素が良い莉那なので、良く似合っている。
「むぅ、なんかてきと~」
俺は素直に言ったのに、正面の莉那はむくれている。
「なんだ、本心だぞ?」
「そうだとしてもさ? やっぱり、聞いてから答えられると威力半減なんだよね。だから、聞かれる前に感想を言う事。いい?」
「わ、分かった……」
女子は、自分の努力や変化を認められることに喜びを見出すのだと、前に莉那がテレビを見ながら言っていた気がする。だからこそ、こちらから気が付いてあげないといけないんだろう。
……良い彼氏になるって、思ったよりも大変なんだな。
一応意識していたのだが、まだまだ抜けている点があることを学んだ、昼食だった。
昼食を済ませた後。予定通り俺達は、服を見るために移動していた。
訪れたのは、この辺だと一番デカい、駅前にあるショッピングモールだ。
……実際の仕事でも、来ることがありそうだな。
ショッピングモールと言えばデートの定番なことくらい、俺でも知っている。
今日来ているこの場所じゃないにしても、今後レンタル彼氏として来る機会はあるだろう。せっかくの機会だし、ショッピングモールデートの予行練習として頑張ってみようと、気合を入れた。
莉那と手を繋いで、俺達はモール内へと入った。流石日曜日という事もあって、人が多い。
……やっぱり、カップル多いなぁ。
チラリと周囲を見れば、そこには多数のカップルの姿。彼氏は優しい笑顔を振りまいており、それに彼女がときめいている様に、俺の目には映る。
これまでの俺は、それを羨ましいと、眺めているしかなかった。だけど、これからは俺が彼氏役をやる。その為にも、今は少しでも見て盗まなければならない。
「お兄ちゃん? 何してるの?」
俺がキョロキョロと、色んなカップルを見ていると、隣の莉那が聞いてくる。
「いや、なんでもないぞ。それより、人が多いな?」
「だねぇ。でも、だからこそ、こうやって密着できるんだよッ♪」
そう言って、莉那が繋いでいた手を離すと、次は俺の腕に抱きついて来た。
控えめな成長途中の胸が、しかし夏で薄着という事もあって、俺の腕にその存在を主張してくる。
「うひひっ。お兄ちゃん、顔赤いよ?」
目敏く、莉那は俺が照れていることに気が付き、ニヤニヤと笑みを浮かべて来る。
「うるせぇ。ほら、行くぞ」
「はぁ~い」
俺をからかえて上機嫌らしい莉那と一緒に、俺達はショッピングモールを進んでいった。
やってきたのは、庶民の味方GYだ。
安く、且つ品揃え豊富なこの店ならば、多少数を買ってもお手頃で済む、という判断でここになった。
ウキウキの莉那に手を惹かれ、早速メンズの売り場に移動する。
「まず、お兄ちゃん。その服装は、今持ってる中で一番清潔感のある服なんだよね?」
「ん? あぁ、そうだな」
「そっか。じゃあ、やっぱり全部揃えないとダメかな」
「え? そんなにこの服ダメか?」
自分としては、かっこよくは無いにせよ、普通くらいのつもりだったのに。
「いやぁ、ダメじゃないよ? すっごく普通。でもさ、お兄ちゃんがこれからやる仕事、普通でいいの? お金を貰うんだから、周りからカッコよく見える様にならないとダメじゃない?」
「ごもっともです」
莉那に論破されてしまった。
そうだ、俺がやるのはレンタル彼氏。普通ではいけないんだ。
……さっき見た彼氏達は、みんなカッコよかったしなぁ。
なんだかキラキラしているというか。皆が自分に自信もって、胸を張って歩いていた、様な気がする。
……俺も、自信を持たないとダメだよな。
すぐには自信なんて持てる物じゃないにせよ、今から胸を張って歩くだけでも、印象は変わるはずだ。
少しずつ変わっていこう。俺はそう、自分に活を入れた。
「それじゃあ、早速見ていこっか。お兄ちゃん、今日のご予算は?」
「一応、二万五千持って来た」
「なら、そこそこ揃えられるね」
そう呟いた莉那は、早速服を物色し始めた――
今日の目的は、ここで俺のコーデを最低二つ、予算が足りれば三つ揃える事だ。
俺が買うと普通以上にはならないので、選ぶのは基本的に莉那。選んでもらった服を俺が試着して、その結果良いと思ったものを二人で選ぶ、という流れだ。
今、俺の手元には三着のトップスと、二本のパンツ。そして、スニーカーが一足ある。
まずトップスは、なんにでも合わせやすい白のロングTシャツと、こちらも白のサマーニット。そして通気性抜群の、麻の生地で作られた黒のリネンシャツ。
次にパンツは、黒と濃いベージュが一本ずつ。それぞれ、足のラインを良く見せる細身パンツだ。
最後にスニーカーだが、これは黒と赤のチェック柄。莉那曰く「黒と白に、ワンポイントの色合いがあると良い」という事だった。
実際、試着室に入ってとりあえず一式着てみると、何となくしっくりくる気がする。とりあえず、今日俺が来て来た服よりは格段に良くなっている。
「お兄ちゃん、終わったぁ?」
鏡で確認していると、外から莉那が声をかけて来る。なので、カーテンを開けて見て貰う。
「どうだ? 俺的には、結構いいと思うんだが」
「う~ん、そうだね……。うん、いいと思うよ」
「なんだ、今の間は?」
「ううん、なんでもないよ。ただ、お兄ちゃんってちゃんとすればカッコいいんだなっ、て思って」
「そうか?」
莉那にそう言われてもう一度鏡を見るが、自分をカッコいいとは感じない。まぁ、感じたらそれはそれで、という気もするが。
「うん。その組み合わせはOKだから、次のも着てみて」
「了解」
莉那にカーテンを閉めて貰って、俺は再び着替え始める。
結局、莉那の選んでくれた組み合わせは全部よくて、そのまま購入することになって、店を出たのだった。
GYを出て、俺達は再びショッピングモール内を散策していた。
「あ、クレープだ」
莉那が視線を向けるその先に。子供連れとカップルが列を作る、クレープ屋があった。
「食べたいか?」
「え? う、ううん! やめとく!」
「驕りだぞ」
「ほんと⁉ いこ、お兄ちゃんッ♪」
驕りだと言った瞬間、手の平を返す我が妹。
まぁ、お小遣いを少ししか渡せてないから、致し方ないとは思うのだが。
……付き合って貰ったし、今日くらいはな。
こうして一緒に出掛けることも、最近は少ないのだ。偶に外に出た時くらい、莉那にはサービスしてやりたい。
莉那が、笑顔を浮かべて最後尾に並ぶ。俺も遅れて、莉那の隣に並んだ。
「それで、何食べる?」
壁に張られているメニュー表には、定番のチョコバナナから、ツナマヨなどの惣菜系まで、色々あった。
かなりの数で、選ぶのに迷ってしまう。
「ねぇ、お兄ちゃん?」
「ん?」
俺が悩んでいると、莉那が控えめに腕を引いて来た。視線を向けると、莉那が顔を赤くさせ、俺を上目遣いに見ていた。
「ど、どうした?」
不意なことに、思わずドキリとするも、どうにか平静を装って問いかける。
「その、さ? これって、デートの練習でしょ? だから、一緒に一つのクレープを食べない? ほら、お仕事でもあるかもしれないし……」
と、莉那が視線を彷徨わせつつ、提案してくる。
確かに、クレープとかアイスとか。恋人同士なら一つを共有する、というのはあるかもしれない。
……恥ずかしいのに、提案してくれたのか。
「ありがとな、莉那。一緒に食べるか?」
「う、うんッ!」
莉那が頷いたので、一緒に食べるクレープを選ぶ。
「私、このブルーベリーチーズケーキが良いな」
「ケーキが入ってるのもあるのか。だけど、美味しそうだな。それにするか」
「うんっ♪」
莉那が笑顔で、順番を待つ。そして、順番が来ると率先して注文を済ませた。
……よっぽど楽しみなんだな。
そんな莉那を見守りつつ、俺達は出来上がったクレープを受け取る。そして、近くのベンチに座って、二人で一つを食べるのだった――
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