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3分読み切り短編集

問題です!

作者: 庵アルス

「問題です!」

 小学生の息子が、図書室で借りたらしい本を手に出題してきた。

 近ごろ謎解きに凝っている息子は、よくこうして出してくる。

 親としては、乱暴な遊びより安心できるが、頭を悩ませるのはその難易度だ。簡単な問題だと即答できてしまうが、それが続くと息子が不貞腐れてしまう。かといって難しければ『真面目に考えてる?』と小馬鹿にしてくる。何問も出されても、難問を出されても勘弁してほしい。

 とはいえ、ほぼ毎日のことなので、私は洗濯物を畳みながら、片手間に相手をする。

「はいはい?」

「『ある大企業の社長が、白昼堂々、女子トイレへと入っていった。

 ところが、それを目撃した社員は、誰ひとりとして驚かなかった。

 それは何故か?』」

「⋯⋯?」

 顔を上げると、私はよほど困った顔をしているのだろう、息子がニヤニヤしている。

 視線を下げ、本を見るとタイトルは『水平思考クイズ』⋯⋯所謂ウミガメのスープ問題というやつだ。ルビとポップなイラストで表紙が飾られているのを見る限り、小学生向けのクイズブックだろう。

 ⋯⋯え、社長が女子トイレ?

 ほんとに小学生向け?

 私はタオルをふたつに折ったところで手が止まった。息子の表情が早く答えてと急かしている。

「えーっと⋯⋯女装して入ったから?」

「ぶー!」

 腹立つ表情で不正解判定される。小学生男子とは、イラッとくる表情の作り方をよく心得ていると見える。

 しかし、これもほぼ毎日のことだ。私はめげない。

「えー、あ、清掃業の社長だったから?」

「残念!」

「女子トイレで工事かなんかするため?」

「違いまーす!」

「そういう性癖だってみんな知ってたから!」

「真面目に考えてる?」 

 ごめん、最後はおふざけに走った。

 謝って、諦めて正解を訊ねると、息子は仕方ないなぁと解説ページを読み上げる。

「『大企業の社長は女性だから。』」

「⋯⋯あ」

「『女性だから、女子トイレに入っていっても、誰も驚かなかった。

 大企業の社長といわれると、男性を想像しちゃうよね?』」

「はい、男性だと思いました⋯⋯」

 ごくシンプルな思い込みを利用した問題だ。いい問題だ。いい問題というのは、答えに納得がいって爽快感がある。

「もう一問出していい?」

「洗濯物畳むの手伝ってくれるならいいよ」

 私が山積みの洗濯物を指すと、息子は素直に頷いた。

「はーい、パパ」

2021/01/25

いつから「私」が女性だと錯覚していました?

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