問題です!
「問題です!」
小学生の息子が、図書室で借りたらしい本を手に出題してきた。
近ごろ謎解きに凝っている息子は、よくこうして出してくる。
親としては、乱暴な遊びより安心できるが、頭を悩ませるのはその難易度だ。簡単な問題だと即答できてしまうが、それが続くと息子が不貞腐れてしまう。かといって難しければ『真面目に考えてる?』と小馬鹿にしてくる。何問も出されても、難問を出されても勘弁してほしい。
とはいえ、ほぼ毎日のことなので、私は洗濯物を畳みながら、片手間に相手をする。
「はいはい?」
「『ある大企業の社長が、白昼堂々、女子トイレへと入っていった。
ところが、それを目撃した社員は、誰ひとりとして驚かなかった。
それは何故か?』」
「⋯⋯?」
顔を上げると、私はよほど困った顔をしているのだろう、息子がニヤニヤしている。
視線を下げ、本を見るとタイトルは『水平思考クイズ』⋯⋯所謂ウミガメのスープ問題というやつだ。ルビとポップなイラストで表紙が飾られているのを見る限り、小学生向けのクイズブックだろう。
⋯⋯え、社長が女子トイレ?
ほんとに小学生向け?
私はタオルをふたつに折ったところで手が止まった。息子の表情が早く答えてと急かしている。
「えーっと⋯⋯女装して入ったから?」
「ぶー!」
腹立つ表情で不正解判定される。小学生男子とは、イラッとくる表情の作り方をよく心得ていると見える。
しかし、これもほぼ毎日のことだ。私はめげない。
「えー、あ、清掃業の社長だったから?」
「残念!」
「女子トイレで工事かなんかするため?」
「違いまーす!」
「そういう性癖だってみんな知ってたから!」
「真面目に考えてる?」
ごめん、最後はおふざけに走った。
謝って、諦めて正解を訊ねると、息子は仕方ないなぁと解説ページを読み上げる。
「『大企業の社長は女性だから。』」
「⋯⋯あ」
「『女性だから、女子トイレに入っていっても、誰も驚かなかった。
大企業の社長といわれると、男性を想像しちゃうよね?』」
「はい、男性だと思いました⋯⋯」
ごくシンプルな思い込みを利用した問題だ。いい問題だ。いい問題というのは、答えに納得がいって爽快感がある。
「もう一問出していい?」
「洗濯物畳むの手伝ってくれるならいいよ」
私が山積みの洗濯物を指すと、息子は素直に頷いた。
「はーい、パパ」
2021/01/25
いつから「私」が女性だと錯覚していました?