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俺は全方位を警戒しながら馬を走らせる。
馬には申し訳ないが、此処で立ち止まっている訳にはいかない。
疲労がたまっているだろうが、無理にでも走ってもらう。
俺はなんとしても逃げ切る……メアリー様からご褒美をまだもらっていない。
「俺は絶対にメアリー様の元に生きて戻るんだ‼」
自らを鼓舞する為に声を上げ言葉を胸に誓い、森には俺の声が響き渡る。
するとその声に反応するかのように、突如走っている馬の足元に魔方陣が現れた。
「はあっ! 何だよこれ!」
魔方陣からは魔力で出来た鎖が現れ、一瞬にして走っている馬が拘束される。
馬は暴れて鎖から逃れようとするも、びくともしない。
俺は知っている、この魔法は『チェーンバインド』、対象を拘束する魔法だ。
本来なら術者が近くにいるはずだが、周囲を見回しても誰一人見当たらない。
ならこれは、魔方陣を地面にセットし、触れたら発動する設置型魔法で作った罠ということになる。
誰が何故こんなことをしたのかは分からないが、走っている馬を完全に拘束するとは中々の腕前。
状況が状況ではなければ称賛するところだが、今は怒りが沸き上がる。
「誰だっ! こんなことをするのは! 出てこいっ!」
俺は『チェーンバインド』の罠を仕掛けた犯人に向かって声を荒げる。
もしかしたら、そう遠くない場所で俺を見ているかもしれない。
『…………』
だが返事はなく、虚しくも森に俺の声だけが響き渡る。
犯人はどうやら姿を見せるつもりはないようだ。
黒染めイタチ達に追われている俺としては直ぐにでも馬を走らせたいのに、『チェーンバインド』で拘束され馬が走れない。
俺は馬から降り、『チェーンバインド』を使ってきた者を探すため、魔法に触り俺のスキル【影の記憶】を使う。
……俺の意識は底無し沼に沈んでいくかのように落ちていく。
……ぼんやりとした映像が頭の中に浮かんできた……
次第に映像はハッキリと浮かび、……設置型魔法をセットした犯人の顔が見えてくる。
「……はあっ! 嘘だろ……っ‼」
俺は信じられないものを見てしまった。設置型魔法の犯人の顔……何より後ろの木の影に魔法を使って気配を消して隠れる犯人達を。
慌てて後ろに振り向こうとした俺より早く、【影の記憶】で見えた犯人…………エイジ達が襲ってきた。
「ぐはっ‼」
俺はエイジの攻撃で吹き飛ばされ、木に背中を激しく打ち付けた。
黒染めイタチにやられた背中の傷もあり、体全体に激痛が走る。
「どけ、雑魚! お前の馬は俺達がもらっていくぞ。あのイタチから逃げるため俺の力になれるんだ、ありがたく思えシン!」
そう言いながら、勇者のエイジ、魔法使いのクララ、聖女のフラン、の三人は俺が乗っていた馬の『チェーンバインド』を解き、馬を奪って逃げていく。
恐らくエイジ達も黒染めイタチ達の罠に掛かり、危ない状況だったのだろう。そして何処からか俺がこの森にやって来たのを見て、馬が走れる唯一の道であるこの道に設置型魔法をセットし、逃げ帰る俺から馬を奪う罠を張ったんだ。……自分達が助かるために……
それが勇者のする事か、と思うが怒鳴る声さえ激痛で出せない。
……背中の激痛で一歩も動く事が出来ない俺は、無力にも逃げていくエイジ達の背中を見つめる事しか出来なかった……。
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