朝
「姉さん、起きて!!」
毛布をぱしぱしと叩く音が聞こえる。
「嫌よ、あと5分だけ…」
「それ、さっきも言ったよ!」
朝からなんて元気のいい弟だろう。
このまま寝ていれば、毛布を引っぺがされそうな勢い。
「わかったわ、起きるから、起きるから…」
そう言ったものの、面倒くさくて手を伸ばす。
その手を彼は仕方ないなぁと言いながら引っ張り、
私を起こす。
そのまま、私を椅子の方へ移動させて、髪を解かして、
細いゴムでハーフアップにしてから、
「姉さん、青と赤」
とそれだけ言った。
「赤」
と、私もそれだけを返すと、
彼は慣れた手つきで赤いリボンを結んだ。
「ねぇ、姉さん?そろそろ髪ぐらい自分で結んだらどうかな?」
「…あら、おはよう、シュナイザー」
「うん、おはよう…って、話を逸らさないでよ!」
私はどうも不器用なようで、上手く髪を結ぶ事すら出来ない。
その分、弟であるシュナイザーがとても器用なので、助かっている。
「朝ごはん、何がいい?」
私の当番だったことを思い出す。
何がいい?とは聞いたものの、パンを焼くことと目玉焼きを作ることぐらいしかできないが。
「姉さんの料理なら何でもいいよ、美味しいし。」
「舌がおかしいんじゃない?」
実際、本当に美味しいとは言えないのだ。お世辞にも。
「そんなこと言ってないで、早く作ってよ。お腹空いたー」
いつもののんびりとした口調。
はいはい、とキッチンへ向かい、やかんでお湯を沸かす。
その間にパンをトースターに入れて、目玉焼きを作る。
やかんが音を立てると今度はティーポットに移し替えて紅茶の茶葉を入れる。
古典的なやり方かもしれないけれど、やはりこれが1番美味しい。
少しすると焦げたような匂いがしてきて……
「あっ、パン!と目玉焼き!!」
「ちょっと!?」
急いでパンを取り出して、目玉焼きの火を止めたけれど、遅かった。
「シュナイザー、ごめん…」
「良いよ、姉さん。美味しいし。」
炭のような塊を頬張る様は、あまりにも滑稽だった。
ところで、と、紅茶を一度啜ってから、カップを置いて
「姉さん、提案があるんだけど…」
「?なぁに?」
同じように紅茶を啜ってから聞き返す。
「"僕らの家"に、戻らない?もうすぐ大学も卒業でしょ?良い機会だと思わない?」
僕らの家、と言う言葉を、頭の中を反芻させた。