僕は。
君は信じてくれるかな。
言っただろう、大切なものほど、側に。
「まぁ!本当にお返事が来たわ!」
朝から彼女があんまりはしゃぐので、僕はマグカップにコーヒーを注いで手渡し、落ち着いて、と座るように促す。
「もう読んだの?」
「いいえ!これからよ、読み上げる?」
「んーん。静かに、じっくり読みなよ」
静かに、と言う部分を強調する。
自分で書いた彼女宛ての手紙なんて読み上げられたら恥ずかしくってたまったもんじゃない。
しばらく読んでいると、何かに気付いたようで、
手紙を持っていた手を下ろした。
「…これ、クロードのでも、アレンのでもないわ、字が違うもの。
こんなに、丸文字じゃない。文字のちょっとした癖もよく似ているけれど…」
やはりバレたようで、
「何故こんなこと、したの…?」
その目には涙が溢れそうなほど溜まっている。
「それ、は」
微かに言葉を発する。
打ち明けるのも嫌だったが、
彼女の悲しむ顔はもっと見ていられなかった。
「僕、僕がクロードで、アレンだからだよ、」
信じてもらえるか、少し不安だった。
彼女は酷く困惑したような表情を見せてから、落ち着きを取り戻し、
「……そう言う悪魔もいるのね。」
と、微笑んだ。
それから、僕はそう主張していた経緯を話した。
メアリーの弟、クロードは
不慮の事故死の末にメアリーを怪物のように扱った両親を憎み、
その魂が悪魔になったこと。
そして1人になったメアリーを、悪魔として支えようとしたこと。
アレンはと言うと、
戦死し、それでも帰ろうとした結果、悪魔としてクロードとアレンの人格がくっついたこと。
それが、僕なのだ、と。
彼女はその説明一つ一つを、本当なのかどうか見極めるように聞いていた。
時々、鋭い質問をしては、僕があまりに正確に答えるので、複雑そうな顔をしていた。
「……そうなのね、」
彼女は僕の頬に触れて、確かめるように笑った。
彼女が受け入れるのは、思っていたよりも早かった。
「なら、もっと早く言ってくれれば良かったのに。」
そのまま頬を引っ張られる。
少しびくっとしたけれど痛くはなかった。
「…お願いしたい事があるんだ、メアリー。聞いてくれる?」
「あら、なぁに?もう吹っ切れたから、何でも聞くわ。」
メアリーはふふ、と笑った。
「僕と……」
一緒に死んでくれないか、なんてとてもじゃないけれど言えなかった。
悪魔には、決まりがある。
その生前を明かしたら、ただの人間になってしまう。
1人は、また、彼女を1人にするのは嫌だった。
彼女は、僕が続きを言う前に、
「良いわよ、」
そう言った。
流石は僕の魔女。僕の心の中までお見通しだった。
「一緒に歳を取ってあげる。」
にっと笑った。
まだ乾ききらない涙があったかい日差しを反射して、きらりと光った。
その水色の瞳に、今度は僕が吸い込まれそうになった。
なんて馬鹿な私の愛しい人。
なんて愚かな気付かなかった私。