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この人生が終わるまで  作者: 侵略する兎
この人生が終わるまで
3/8

Dear Mary

夢とは深くに沈んだ記憶を呼び覚まし、鏡は真実を映し出す。

探し物や、大切なものは、案外近くにある。

「誕生日おめでとう!大好きな姉さん!誕生日ケーキ作ったんだ、姉さんの好きな苺の」


あぁ、私の弟。可愛い××××。

茶色の髪に金色の瞳。

姉思いの、世界一優しい弟。

私は言う。


「まぁ、ありがとう、"クロード"!」


顔を上げた先の、鏡が目に入る。

そこに映ったものに目を疑い、すぐに彼の顔を見る。

ボロ、ボロと、ペンキが剥がれるように崩れていく


「ねェサ…ン…きズィ…」


目からドロドロとした黒いものが溢れ出て白いシーツに染みを作る。

ぎゅっと目を瞑った。

突然辺りは眩しくなって、目を瞑ると今度は見慣れた部屋の中で、


「メアリー、君の好きなクッキーを作ったんだ、食べてくれるかい?」


今度は、目の前に見慣れた男の人がいる。

私より頭ひとつ分高い背丈、控えめで、優しい声。

それは、私のアレン。大切な人。

胸がきゅぅ、と音を立てて苦しくなるのがわかる。

えぇ、勿論、とそう答えようとした時。


「、繝。繧「繝ェ繝シ蛛エ縺ォ螻?k繧医?∵ー嶺サ倥>縺ヲ」

「ひっ…!」


さっきと同じ、ドロドロ。あぁ、悪い夢。

もう誰なのか分からなくなった「それ」はゆっくりと手を伸ばす。

嫌だわ、お願い、何を言ってるの、辞めて…

その手が私に触れた時、


「メアリー、おはよう、随分とうなされていたけど、だいじょぶ?コーヒー淹れる?」


柊希が、私の髪を撫でた。

目が、覚めたのね。

いつもの呑気そうなその声に、何故か安心した。

ほっとしたのと、寂しくなったので、自然と涙が溢れて、そのまま彼の胸に身を委ねた。

こんな風になるのは、久しぶりだった。


「えっ、ちょ、どうしたの??めありぃ…!」


とんでもなく困惑した顔をして言った。


「すこし、いえ、すごく安心して。またいなくなってしまうかもって、怖かったのよ。人間でない貴方は、ずっと側に居てくれるから、安心したの。」


思えば私も柊希も随分と変わったのかも知れない。

私は弱さと泣く事、沢山の人と過ごす面白さを知ったし、

昔に比べて柊希はずっと安心できる存在になった。


「そっか、そんなに怖かったんだね、クロードとアレンの夢。」


その名前にパッと顔をあげる。

夢の内容をまだ話してない辺り、クロードやアレンの名前が出てくるのはおかしかったから。


「何で知っているの、」

「悪魔の勘ー」


くす、と怪しげに笑う。

その瞳から目が離せなくなる。




僕は、悪魔。

この世を去るときに、この世に強い未練を残し、この世に留まって力を得た、そんな存在。

メアリーは、僕と契約して魔力を手にした魔女で、誰よりも強く冷酷で、本当は弱く、優しい、そんな女性だ。

僕の「大好きな」人。


今朝、彼女の夢を盗み見た。

彼女は夢の中で、最愛の家族と、ずっと前に去った青年との記憶を辿っていた。

幼い頃の彼女は今の彼女よりもずっと退屈だったが、それでもなお愛おしかった。

夢に出るほどに、彼女もまた、愛していたのだろう。

とてもいい夢とは、言え無さそうだけど。


「ねぇ、メアリー、そんなに会いたいなら、出してみたら?手紙。」


そんな提案をした。


「出せるの?」


きょとんとして言うので、またどうしようもなく愛おしくなって。


「さあ?出せるんじゃない?物は試しだよ、さ、書こう!」


自分は興味ないようなフリをして、半ば強引に手紙を書かせた。

夜、彼女が寝た後に、手紙の封を開ける。

手紙の返事を書くために。

多少の罪悪感はあったが、彼女の希望になると思った。


"クロードへ

貴方に拝啓、なんて堅苦しい文を使ったところで、お馬鹿な貴方は分からないでしょうから、それは抜きにして書いたわ。

今でも料理の勉強はして居るのかしら、私に世界一の料理を食べさせてくれるんでしょう?

私は随分と舌が肥えてしまったの、また会ったら、貴方の自慢の料理を食べさせてちょうだいね。

メアリーより"



"拝啓

少しずつ暑くなって来ましたが、お元気ですか。

私はまぁまぁと言ったところです。

貴方がいなくなったあの日から、ずっと貴方のことを待ち続けているのですが、まだ帰って来てはくれないのでしょうか。

のんびりでも良いので、必ず帰って来て。

貴方の幸せを願っています。

敬具


遠くを生きる愛しい貴方(アレン)


2×××.6.9.

変わらないままにある魔女 メアリー"


それぞれに宛てた、思いの詰まった手紙。

どうしようもなく愛しくって、抱きしめたくなった。

返事を書く手は止まらなかった。


"僕は馬鹿じゃないって、何度言ったら分かってくれるの。馬鹿じゃなくって、阿保なんだよ、僕は。

今なら姉さんを間違いなく美味しいって言わせられる料理が作れると思う。今度会ったらまた一緒に散歩しよう!

クロードより"




"随分と待たせてごめん、なるべく早く帰ってくるよ。だから、帰ったら1番に、君の美味しい紅茶と、少し焦げたクッキーを食べさせてくれるかい?

愛しい君へ

大遅刻の一等兵 アレン"




このまま全て打ち明けてしまえたらと思った。

君の弟のクロードは、君の1番愛しいアレンは、君のすぐ近くにいるんだよメアリー。

姿形はずっと違うけれど、ちゃんと、ずっとそばにいる。


鏡に映る僕には、今まで魔女(メアリー)の捧げてくれた、数々の人間の魂が見える。

勿論、僕にだけ。

取り囲む様に恨めしそうに見つめる中心は、

茶色い髪と金色の瞳をした少年と軍服に身を包んだ青年。

月明かりに照らされて、その瞳は揺らいだ。

縺。繧?s縺ィ蛛エ縺ォ縲∵?縺励>蜒輔i縺ョ鬲泌・ウ縲√Γ繧「繝ェ繝シ

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