それは私の生まれた日
少女は産まれる。
この時代の闇を背負って。
作者の好みがいっぱい詰まっております。
拙い文章ですが、読んでいただければ幸いです。
西暦は今よりもずっと昔。
日本がまだ江戸という時代だった頃。
イギリスは産業革命の渦中、少女は産まれた。
生まれながらにして産業革命の闇を受けたその少女は、裕福な家庭にも関わらず、酷く苛まれていた。
手は霜で焼けたかの様に赤くひび割れていて、
所々にある痣、
特に酷いのは爛れてしまった様にも見える右目だった__
私の両親が仕事でいない間に、
弟の×××と教会へ出かけるのが私は好きだった。
ステンドグラスから透ける光が、
花瓶に入った色とりどりの花が、
何よりも美しく見えた。
教会で私は跪いて、願うのだ。
「この病気を治して」と。
神さまは不平等なもので、
どんなに願っても私の望むものを与えてはくれなかった。
「今日は君の誕生日だって言うのに、またそんな『鬱小説』なんか読んで。どしたの、メアリー。」
そのやけに苛立つ様な声にハッとする。
いつもと同じ天井。
痣も、ひび割れも無い。
あるのは、右目の爛れた痕だけ。
「べつに。たまたま手に取っただけよ。」
と、温くなってとても美味しいとは言えない紅茶を啜って答える。
『たまたま』手に取ったその本のどこを探したって、私の探す名前は出てこない。
どんなに大切な人であっても、時が経てば忘れてしまうものなのね。
この本は、日記。言わば、私の歴史。
けれど、私の記憶と共にあるから、私の忘れた事は消えてしまう。
現に弟の名前は黒く塗り潰されたままだ。
『魔法は君の意識』だとあの悪魔は言った。
今でも彼は好きになれそうに無い。
「もしかして、まだ根に持ってる?僕が君の目を直せなかったコト。」
半ばからかう様に彼は言う。
そういうところだ、と私は思う。
「あら、治してくれるの?今すぐ」
くす、と笑みを浮かべてみる。
無理だねぇ、と彼は笑った。
その笑顔になんとも言えない喪失感に襲われる。
目の前の彼の金色の瞳をあの人と重ねた。
あぁ、あの人は、彼は空を舞ったのだっけ。
格好いい軍服を着て、行ったんだわ、戦場へ。
2度と帰ってくる事はなかったけれど。
私はケーキを口に運んだ。
今日は私の生まれた日。
でも、彼にとっては命日かしら。
貴方は必ず帰ってくるから、と此処を出て行った。
私は見送ることしかできず、必ず、と言葉を繰り返すだけだった。
一体いつまで待っていれば良いのかしら。
金色の瞳と、色素の薄い、柔らかい茶色の髪。
その姿にどこか見覚えがあって、一目で恋に落ちてしまった。
それは私の愛しかった人。
1つの名前が頭をよぎる、それは無意識に口から出される。
「………アレン、」
第一話、いかがでしたでしょうか。
感想等いただけると嬉しいです。