67. 神様からの呼び出し
それからしばらくして、私は結婚式を済ませたヤラン兄さんとラナさん、それに母さんと一緒に、瞬間移動でドレークさんの農園まで挨拶に行って来た。本当はドリアさんとドレークさんもヤラン兄さんとラナさんの結婚式に招待したかったのだが、ふたりを私達の居住地に、それも結婚式という目立つ場所に連れて来るとなると、ふたりがどのようにして大草原の真ん中の、それも街道から外れたところにある居住地まで来れたのかを説明しなければならない。色々考えて、招待する代わりに結婚式が終わったら家族全員でドレークさんの農園まで結婚の報告に伺うことにしたのだ。
ドリアさんはラナさんとヤラン兄さんの仲の良い姿を見て満足そうだった。母さんはドリアさんと母親同士親交を深めていた。なお、ドリアさんとドレークさんの結婚は、農園の経営が落ち着いてから行うので少し先になるそうだ。農園の人達全員で祝ってくれることになっているらしい。その時には是非私達も出席させて欲しいとお願いしておいた。ちなみに、ドレークさんの農園の隣にあったコントラの農園はトスカさんが購入して、例によって若くて美人の解放奴隷が農園主になったらしい。トスカさん、「殺されるかと思った」とまで言っていたのに、まだまだ懲りてなさそうである。
数日前に行われたヤラン兄さんとラナさんの結婚式はもちろん素敵なものだった。アイラ姉さんの時と同じように、長老が厳かに太陽の神ギル様にふたりの婚姻の報告をする。そして、そのあとは一族全員が参加しての披露宴だ。それまでは準備を手伝っていた私だが、ごちそうを前にしては、食欲に勝てず食べる方に回る。まだまだ色気より食い気だよ。もちろん、美しいラナさんの花嫁姿は記憶に留めた。一族の皆が心から祝ってくれるのが分かる。もっとも、一部には例外がいるようだが...。親友のカライはヤラン兄さんをラナさんに取られたといって、ずっとラナさんを睨んでいた。宥めるのに苦労したよ。アマルは「僕達もこんな結婚式を挙げようね」と言ってくれた。もちろん大きな声で「うん!」と頷いておいた。
そして、ドリアさんとドレークさんへの挨拶も終わり、居住地に帰って来て数日経ったある夜...
<< イルちゃん、イルちゃん、起きて下さい。>>
と誰かに呼びかけられた。念話だ! 目を開けて驚いた。ここは天幕じゃない。私は神殿を思わせる石造りの大きな部屋に立っていた。服は寝間着ではなく、外で着る服である。でも今日着ていた服と微妙に異なる。そして何よりも驚いたのは、目の前に見知らぬ若い男性が佇んでいること。茶髪にイヌ耳の小柄な獣人族で、茶色の大きな目がクリクリしていていたずらっ子の様な印象を受ける。
<< イルちゃん、突然で申し訳ないね。ルちゃんの魂だけ僕の亜空間に来てもらったんだ。夢の中に居る様なものと思ってくれたらいい。もちろん、後で元の場所に戻すので安心してね。>>
「ええっと、あの、どなたですか?」
<< おっと、自己紹介がまだだったね。僕は中級神のコルティだよ。昔はこの世界を管理する下級神だったんだけどね。イルちゃんはドスモにあったことがあるよね。ドスモ達聖獣を作ったのは僕なんだ。 >>
「ええ! 神様ですか!!!」
<< そういう事。それと、念話で話してもらえるとありがたいかな。僕がこの世界にいたのはかなり昔なので、少し言葉が変わってしまっているようだからね。>>
<< 中級神様ですか!? それって偉い神様ってことですよね。>>
<< まあ、一応そうかな。僕の上は最高神様だけだからね。でもあまり気にしないでくれるとありがたいかな。>>
いや、そういう訳には行かないと思う。なんで偉い神様が私に用事があるのだろう...。ひょっとしてと嫌な予感が身体を走る。
<< あの、ひょっとして私死んだんですか? だから神様に会ってるんでしょうか。>>
<< えっ、ははは、違うよ。今イルちゃんの身体は天幕の中で寝てるさ。死んではいないよ。>>
良かった。アマルのお嫁さんになる前に死んでしまったんじゃないかと心配したんだ。
<< 良かったです。それで私がここに居るのはなぜですか? >>
<< イルちゃんにお願いがあるんだ。本当は身体ごと来てもらおうと思ったんだけど、イルちゃんが急に居なくなるとご家族が心配するかもしれないので、身体を残して魂だけに来てもらったわけ。先ほども言った様に、後で元に戻すので心配しないでね。>>
<< そ、そうなんですね...。>>
いや、いきなり魂が身体から離されたと聞いたら、死んだと思うよね。と言うことは、私は魂なのか? まったく違和感が無いのだけれど。
<< それにしても、ここまで身体にそっくりな姿をした魂を見るのは初めてだよ、それも全く不自由なく動かせる様だね。大したものだよ。>>
ああ、そういうことか、私は魂のコントロールの訓練の一環として、自分の魂を私の身体そっくりの姿に変えている。その上で魂を身体と同じように自由に動かす訓練をしてきた。考えてみれば、今着ているのは私が魂の外観として選んだ服だ。
<< ありがとうございます。あの、それで、神様のお願いと言うのは何でしょうか? >>
<< それを言う前に、イルちゃんの魂が成長した経緯を聞いても良いかな? ドスモからも聞いたんだけど、やはり本人から聞きたいんでね。魂がこれほど急激に、しかも人族として生きている間に成長するなど、ほとんど前例がないと思うからね。 >>
コルティ様に分かりましたと応えて、生まれた時から前世のおぼろげな記憶があって魔法が使えたこと。魔導士仲間が持っていた神の魔力が充填された巨大魔晶石の魔力を使ったら、魂が成長したことを伝える。それを聞き終わると、コルティ様は自分の額に手を置いて話し始めた。ちょっと呆れているように見える。
<< どうやら犯人は最高神様だったようですね。その魔晶石は昔最高神様が、この世界を守るようにお願いした若者達に与えたものでしょう...。>>
ということは、ラトスさんとララさんがあった女神様は、最高神様だったわけか。最高神って言うからには一番偉い神様なんだろうな。
<< それでは僕のお願いを言う前に、少し魂の成長について話しておこうか。その方が理解しやすいだろうからね。




