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65. ラナさんのお母さん救出作戦 - 14

と私が急かすと、ドレークさんも「そうだな」と応じた。4人で宿を出て奴隷商の店に向かうが、途中でトスカさんが、


「ちょっと不動産の仲介業者の店に行って、農園の購入について情報を仕入れて来るよ。こういうのは下調べが大事だからね。」


と言って別行動を提案してきた。確かにトスカさんまでドリアさんの引渡に同行する必要は無い。あれ、それなら私もか? 感動の再開に成るかもだし、部外者はお邪魔かもしれない。ラナさんの念話でも町中なら届きそうだから、昨日みたいなことが有ったら私達に知らせることも可能だろう。そう考えて、私はトスカさんと一緒に行くことにした。後で宿の部屋で落ち合うことにする。トスカさん曰く、この町の不動産仲介業者とも何度か取引をしたことがあり顔なじみらしい。


 不動産の仲介業者の店は奴隷商の店とは反対方向らしい。次の交差点で私とトスカさんは左に折れて、残りのメンバーと別れた。歩きながら疑問に思っていたトスカさんが待ち合わせの場所に来なかった理由を聞いた。

 トスカさん曰く、私達と待ち合わせる数日前からこの辺りの自分が出資している農園を回って、それぞれの農園で問題が発生してないか確認していたらしい。その時トシマル山脈の方で魔物の活動を察知し調査に赴いたまでは良かったが、トスカさんはトシマル山脈の麓の暗黒地帯を見くびっていた。なにせ、トシマル山脈麓の暗黒地帯は、トワール王国の北にあるタイガ地帯、トシマル山脈の西端からハルマン王国の南に続く密林地帯、南の小国群の沖合にある暗黒島なんかに比べて面積が小さい上、トスカさんはこの辺りの出身だから、トシマル山脈の麓から出現する魔物を退治するのは何度も経験があり慣れていたのだ。だが今回は様子が違った、ひとつ、ひとつは相変わらず弱い魔物なのだが、退治しても退治しても暗黒地帯から次から次へと湧き出してくる。おそらく今回はドラゴンのドスモさんが目覚めたことに魔物達が怯え、徐々に暗黒地帯から南の小国家群の方向へ逃げ出していたのだろう。そのためいつもの何倍もの魔物を退治する羽目になったトスカさんは魔力が枯渇し始めた。更に悪いことに、魔力枯渇により一瞬意識が飛んだ隙に、蜂の魔物に背後から刺されてしまったのだ。

 魔物の毒に犯されたトスカさんは、最後の魔力を振り絞ってローザンヌさんの元へ瞬間移動したが、魔力が足りないため回復魔法を使うことも出来ずローザンヌさんの前で倒れてしまう。一方のローザンヌさんは愛するトスカさんの危機を目の前にし、自分のベッドに寝かせて必死に看病した。お蔭でトスカさんは再び魔物退治に出かけられるまで回復した、と、まあそこまでは良かったのだか。2度目の魔物退治から帰還したトスカさんがローザンヌさんの農園で休養していると、トスカさんが負傷したとの知らせを聞いてカミルさんとカレンさんがローザンヌさんの農園に駆け付けて来たわけだ。そして女性3人で話をしている中で、トスカさんが3人に同じような甘い言葉を囁いていたと分かって、自分こそがトスカさんの最愛の人だと言い争いになり、トスカさんに詰め寄っていたわけだ。まあ、蜂の魔物にやられたのはお気の毒だけど、3人の女性に詰め寄られていたのはどう考えても自業自得だから同情の余地はないと思う。


 仲介業者の店に入ると店主は満面の笑みで接してきた。


「これはこれは、トスカ様、ようこそおいで下さいました。本日も農園をお探しですか?」


「やあ、ジョン。景気はどうだい? そうそう今日も農園探しさ。いい物件が有ったら教えてくれないかな。」


「トスカ様は運がよろしいですね。今、取って置きの物件がふたつございます。どちらも格安ですよ。只今資料をお持ちいたしますので、どうぞお座りになってお待ちください。お連れのお嬢さんもどうぞ。」


店主が一旦店の奥に引っ込むと、若い女店員がお茶を運んでくる。


「やあ、バーバラ、今日も綺麗だね。君の顔が見られるだけでもこの店に来る価値があるってものさ。」


とトスカさんがスラスラと女店員への褒め言葉を口にする。いや、確かに美人だけど、つい先ほど3人の女性から結婚を迫られて「殺されるかと思った」と口にしていたのと同一人物とは思えない。


「まあ、ありがとうございます。ところで今日はかわいいお連れ様とご一緒なんですね。」


と女店員はトスカさんに言って、私に視線を送って来る。ん? 何か視線に敵意が込められてないか?


「ああ、この子はちょっとした知り合いだけど、君が気にするような仲じゃないから安心してね。美しい君とは比べものにならないさ。」


女店員は「そんなことありませんわ」と言いながら、嬉しそうに顔を赤らめている。


ララさんじゃないけど、私も頭を抱えたくなった。トスカさんは息をする様に女を口説く。呆れて物が言えない。先ほど奴隷を助けるために尽力しているのを知って抱いた尊敬の念が霧散して行った。これさえなければ尊敬できる人なんだけどな...。


そうこうしている内に店主が戻って来ると、女店員はお辞儀をして下がって行った。


「お待たせしました。今お勧めなのはこの2件でございます。どちらも持ち主が売却を急いでおられましてね。価格や条件の交渉は私に一任して頂いております。早く現金化できるなら、売却金額は少々安くても構わないそうです。」


「へえ~、そうなんだ。何かいわく付きの物件じゃないよね。」


「とんでもございません。特にこちらの方は、農産物の品質が良いとこの辺りでは評判の農園でございます。突然売りに出されたのが不思議なくらいです。お買い得ですよ。」


と言って差し出された資料を見ると。ドレークさんの農園だった。この農園は実質的にドレークさんが運営していた様な物だとラナさんが言っていたけれど、評判が良いと言うことはドレークさんの経営手腕が良かったということだな。安心したよ。


「そうなんだ。それでもうひとつの物件はどんなのなの?」


「そうですね。ここだけの話ですが、この物件の売主は国でございます。なんでも元の持ち主が犯罪を犯して、財産没収の上犯罪奴隷にされた様でして、没収した財産の中にこの農園があったわけです。国から売却を委託されております。」


まさか? と思ったが資料にある農園の場所を見るとドレークさんの農園の隣だ。間違いない、コントラの農園だろう。この国では犯罪を犯すと奴隷に落とされるんだ。ちょっと可哀そうな気もするが、いままでさんざん奴隷をいじめて来たそうだから、奴隷の気持ちが分かる良い機会なのかもしれない。大丈夫、その内奴隷制度は無くなるだろうから、それまでの我慢だよ。


「国としては、犯罪者の財産を処分して得た金で被害者の補償をするつもりらしく、出来る限り早く売却する様にとのお達しを頂いております。先ほどの物件と同じく、条件交渉等は私に一任されております。」


「興味深いね。それじゃあ詳細を聞かせてもらおうか。」


「畏まりました。」


と言ってから、店主は説明を始めた。説明の内容は、農園の面積、過去の生産実績、現在の農園の従業員の人数とそれらの人が継続して働く意志があるかどうか。農園の奴隷の人数、性別、年齢等の内わけ、農園の設備、備品について等多岐に渡る。


「なに分、急な話ですので、私共でもまだ農園の資産と設備のリストが作成出来ておりません。数日あれば作成できると思うのですが...。」


「そうなんだ、じゃあ、こっちの物件だけで良いから明日中にリストを作成してよ。リストを見て常識的な内容なら、そうだな...この位でだったら買うよ。」


と言いつつ、トスカさんは指を何本か立てて金額を示している様だ。残念ながら不動産業界独特のサインなのか、私には金額が分からない。


「トスカ様、さすがにその金額では応じかねます。この位はいただかないと...。」


と店主さんも指で金額を示している。それからふたりで何度も金額のやり取りがあったが、少しして折り合いがついた様だ。


不動産の仲介業者の店を出てから宿に戻る途中で、私はトスカさんに確認した。


「トスカさん、先程の店主さんとの話を聞いていると、トスカさんがドレークさんの農園を購入する様に聞こえたんですけど私の聞き間違えですか?」


「いや、聞き間違えじゃないよ。一旦は僕が購入して、それをドレークさんに同じ価格で転売するのさ。今の持ち主はドレークさんを嫌っているんだろう。ひょっとしたら買手がドレークさんだと知ったら売ってくれないかもしれないからね。だから僕が買うのさ。一旦買ってしまえば、僕がそれを誰に売ろうが勝手だよ。転売に必要な書類は僕が作成するから仲介料も必要ない。その為の勉強もしたからね。」


おー、なるほど。色々考えてくれていたんだ。正に心配していたことを回避できる妙案だよ。


「実は、解放した奴隷を農園主にする時に取っている方法なんだ。いくら僕が彼女達に資金を貸すとはいっても、奴隷から解放されたばかりの彼女達には社会的信用がないからね。直接交渉しても中々農園を売ってもらえなかったんだよ。だから一旦僕が購入して、それを彼女達に転売する形を取っているのさ。」


「すごいです。流石トスカさんですね。」


いや、本当にすごいよ。おしい! これでナンパ男でなければ立派な人なんだがなあ....。

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