62. ラナさんのお母さん救出作戦 - 11
ドレークさんが居なくなると、私はラナさんに向き直ってドレークさんに付いて尋ねた。
「ねえ、ラナさん、ドリアさんはドレークさんが落札したのだから、農園の奴隷じゃなくなってドレークさんの奴隷に成るのよね。それで大丈夫?」
「それは大丈夫です。ドレークさんは優しい人です。きっとお母さんを大事にしてくれると思います。」
「でも、ドレークさんの奴隷になったら農園には住めないよね。ドレークさんの家に住むことになるのかな。ドレークさんに奥さんがいたら良い気はしないかも...」
「それも大丈夫です。ドレークさんは農園に来るまではずっと軍隊暮らしで結婚はしていないと聞いています。身体を壊して軍隊に居られなくなったので、今の農園に雇われたんです。今は農園の中にある奴隷監督用の小屋にひとりで住んでいます。奴隷達は皆ドレークさんに感謝してるんです、ドレークさんが来てからずっと暮らしやすくなりましたから。ドレークさんが来る前は1日2食しか食べられなかったそうです。着ている服もぼろぼろで、水浴びなんかめったに出来なかったとか。今はお腹を減らしている奴隷はいませんし、子供達には読み書きまで教えてくださいます。」
おお、ドレークさん、なかなかすごい人じゃないか。子供達に読み書きまで教えてくれるのか。あれ、それならひょっとしてラナさんも?
「ラナさんもドレークさんに読み書きを習ったの?」
「はい、でも恥ずかしながら子供の時は勉強嫌いだったので、読めない言葉が結構あります。勉強すると貰えるお菓子が目当てでしたから。今はもっとちゃんと教わっておけば良かったと後悔しています。」
なんと! ラナさんは奴隷だから読み書きは出来ないだろうと決めつけていた。ごめんなさい。
「ただ心配なのは、農園主がどう思うかです。お母さんを奴隷商人に売ったのは農園主です、そのお母さんを雇い人であるドレークさんが買い戻したら、例え自分のお金で買い戻したのだとしても面白くはないでしょう。ドレークさんはこれまでも奴隷の扱いについて農園主と度々衝突してますから...。」
「ドレークさんがクビになるかもしれないってこと?」
「いえ、たぶんそこまでのことは無いと思います。ドレークさんがあの農園に雇われた時は、農園を管理する支配人が居たんです。でも今はその人は辞めてしまって、その人の仕事もドレークさんがしているんです。農園主から見たらドレークさんは2人分の仕事をひとり分の賃金でやっている訳です。そんなドレークさんを手放したら損をするのは農園主ですから。」
「農園主ってどんな人なの?」
「申し訳ありません、私は会ったことが無いんです。この町に住む貴族様としか知らないです...。」
「了解。まあ、このままうまく行くかもしれないんだから、とりあえず様子を見ましょう。大丈夫、私なら居住地からここまで1回か2回瞬間移動すれば来ることが出来ると思う。いつでも会いに来れるわよ。」
「イル様、流石です。安心しました。」
とラナさんはホッとした表情で言った。さて、ドリアさんの話が終わったら次はあのドラゴンをどうするかだ、一旦引き返してくれたけどいつまでもあのままって訳にはいかないよね。どうしたら良いのか皆目見当がつかない。とりあえずトスカさんに相談だな。それでも良いアィディアがでなければ、ララ女王とラトスさんにも相談してみよう。
トスカさんに念話を送ろうとして気付く、しまった、杖が無いから念話を送るには魔力遮断結界を解除する必要がある。でも長い間魔力遮断結界を解除していたら、例え部屋の中であってもまずいことに成りかねない。トスカさんから呼びかけてくれるのを待つしかないのだろうか。そんなことを考えていると念話が届いた。
<< 女神殿、ドスモでござる。>>
キャーッ、ドスモってあのドラゴンさんだよ。どうしよう? まだトスカさんにも相談できていないのに向こうから接触があるなんて、早すぎる...。でも、無視して怒らすわけにもいかないよね...。
「今日はドスモさん。今は念話が使えないので私の心を読んでもらえますか?」
<< なんと、女神殿が念話を使えないとは面妖な。いかがいたしたのでござろうか。儂で役に立つのであれば如何様にもお申し付けくだされ。>>
「実は魔法使いの杖が壊れてしまったのです。魔力遮断結界を解除すると周りの人を怖がらせてしまうので、新しい杖を手に入れるまで魔法が使えないのです。」
<< 何と! そうでござったか。人族を気に掛けておられるとはお優しい女神殿でござるな。それでこそお仕えする甲斐があるというもの。なあに、それなら良い物がござるよ。これから送るでござる。>>
ドスモさんがそう言うなり、床の上に長細いものが1本転がった。直径3センチメートル程度の棒状で、色は黒に近い青、長さは1.5メートルくらい。表面はなめらかで磨き込んだ宝石の表面の様に光沢がある。
<< 儂の鬣を短く切った物でござる。先代の神から、お前の鬣は魔力の通りが良いからそのままで魔法使いの杖として使えると言われたことがござる。いかがでござろうか? >>




