59. ラナさんのお母さん救出作戦 - 8
龍が喋った? それに神??? 何のことだ? 何かすごい誤解をされている。私は慌てて否定した。
「何かの間違いです。私はただの人です、神じゃありません。」
「お戯れを! 貴方様のその魔力、間違えようが御座いません。人などと比べるべくもありませぬ。」
「そんなことを言われても、私は神じゃありません!」
「何と! こ自覚がないと仰るか!じゃが儂が目覚めたのが何よりの証拠でござる。儂は先の神より次の神が来られたら目覚めてお仕えする様に言われ、あの山脈の下で眠りに就いたのですからな。」
いや、そんなことを勝手に言われてもだ。その時、トスカさんが私の横に瞬間移動してきた。
「イルちゃん、大丈夫か?」
と尋ねるトスカさん。ちょっと疲れている様に見える。何があったんだろう?
「お主も神の僕でござるかな?ならば儂の先輩で御座るな。よしなにお願い申す。」
龍から突然こんな風に言われ、流石のトスカさんも面食らった様だが、私が先程からのドスモさんとの会話を伝えると復活した。
「そうだよ、僕もイル様の僕なんだ。よろしくね。ところで、言いにくいんだけどね、君の姿を見て人々が騒いでいてね。君の姿に慣れていないから、自分たちを食べに来た怪物だと思っているんだ。そこで申し訳ないんだけど、僕が誤解を解くまで元の場所で隠れていてくれないかな?」
流石はトスカさんと言うか、よくもまあそんな出鱈目が言えるなという内容をサラサラと口にする。でもこれで龍が引き下がってくれればありがたいかも。いつまでも隠れていてもらう訳にもいかないだろうが、考える時間を貰えるのはありがたい。
「何と!そうでござったか!これは失礼し申した。それであれば、儂は山の麓でお呼びがかかるまで隠れているで御座るよ。ついでに魔物供が人里に降りぬ様見張っておこう。」
「それは助かるよ。これからもイル様にお仕えする仲間としてよろしくね。」
「よろしくお願いします。」
と、つい私もトスカさんに合わせてしまう。ドスモさんは「失礼し申す」と言って山脈の方に飛び去っていった。ドスモさんが居なくなると、トスカさんがため息を吐き言った。
「イルちゃん、町の方を見てごらん。」
言われるままに、足元の町を見る。良かった大した被害は出ていない様だ。だけど何か様子が変だ、多くの人がこちらを向いて跪き頭を下げている。
「イルちゃんの魔力に驚いている所に、さっきのドラゴンの声が聞こえただろうからね。完全にイルちゃんのことを神様って思っているよ。今から否定しても無駄だろうね。幸い、下からじゃイルちゃんの顔までは分からないだろうから、このまま瞬間移動で姿を消せば大丈夫だ。まあ、姿を消すのは急いだ方がいいだろうね。その後町に戻るなら服の色を変えるのがオススメだよ。」
えぇ〜〜〜!である。私を神様なんて誤解にもほどがあるよ!
それからトスカさんに今までどうしていたのかを尋ねたが、私は急いで町の人の前から姿を消した方が良いから後で話すよと言われた。ただ魔物バッタ以外の魔物がどうなったのかが気になる。それだけ答えてくれる様にお願いすると、
「イルちゃんが魔力遮断結界を解除した途端、皆、イルちゃんの魔力に驚いて山に逃げ帰ったよ。あっという間だった。よっぽど怖かったんだね。」
と返って来た。こんな可愛い女の子が怖いなんて失礼な魔物達だ。
その後、トスカさんの言うように一旦町から見えないところに隠れようと下を見回す。すると荒れ果てた農園がいくつも目に付いた。魔物バッタの被害に遭ったのだ。ドリアさんのいた農園も被害に遭っている。もうこうなったら乗りかかった船だ。畑の作物を意識して回復魔法を発動する。植物に回復魔法が効くのか心配だったが、魔物バッタに齧られた作物が見る見る育って行く。1分もしないうちに全ての畑が元に戻った。回復魔法はすごい!と我ながら驚いた。隣で呆れた顔で見ていたトスカさんから、
「神の奇跡がもう1つ増えたね。」
と言われてしまった。しょうがないじゃないか今更だし、それに、このまま神はどこかへ行ってしまうのだから問題なしだ....たぶん。
さて、とりあえずの危機は去った様だ。疲れた顔をしているトスカさんは気になるが、ラナさんとドリアさんのことも気になる。トスカさんとは後で連絡を取り合う約束をして、町から見えない場所まで瞬間移動する。そこで魔法で服の色を変え、再び町に戻って直ちに魔力遮断結界を張り直す。




