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56. ラナさんのお母さん救出作戦 - 5

 と私が言うとドリアさんは少し考えていたが、意を決したように言った。


「イル様、お申し出は大変ありがたいですが、私は生まれてから今までずっと農耕民として生きてきました。この歳では、今から遊牧の仕事を覚え、馬に乗り、弓を射ることは出来ないでしょう。なにより、私は娘の幸せそうな顔を見ることが出来ただけで十分満足でございます。どうか、どうか私の分も娘をよろしくお願い申し上げます。」


 そう拝むように言われると私に返す言葉は無かった。仕方なく私達はこのまま立ち去ることにした。去る前にラナさんが自分が作った見事な花嫁衣裳を着て見せると、ドリアさんは涙ながらに喜んでいた。


 農園を出た私とラナさんは、ドリアさんのオークションを見定めてから帰ることで意見が一致した。ドリアさんが性質の悪そうな奴に買われたら攫ってでも救い出すのだ。明日ドリアさんが奴隷商人に売られた時点でドレークさんの管理下から外れる。その後にドリアさんが攫われたとしても、ドレークさんの責任にはならないはずだ。追手がかかったとしても、大草原まではやって来ないだろう。ちなみに、兄さんに念話で帰るのが遅れる旨伝えたのだが、その時も、もう少し小さな声で話してくれと頼まれた。魔力の強さを調整したつもりだったがまだ強すぎた様だ。ここから居住地までの距離を考えると脅威的なことかもしれない。


 その日、私達は明日オークションが開かれる予定の町の宿で宿泊することにした。ここはラダーナ王国でもトシマル山脈に近い辺境の町の様で、なんだか町全体に活気が無い様な気がする。トシマル山脈を通る街道を通っての交易が減っている影響もあるのかもしれない。宿も数件しかなく、どの宿も似たようなものだが、せっかくお金があるのだからとその中でも一番上等そうな宿を選んだ。宿では若い娘と小さな子供のふたり連れと言うことで奇異の目で見られたが、料金を先払いすると問題なく泊まることが出来た。オークションは明日だが、その後にドリアさんを攫って帰る可能性を考え3泊分を先払いする。宿の人に聞いたところでは、オークションは町の広場で定期的に開かれている物で、開始は正午から、入札に参加するには以前トスカさんから聞いた条件があるが、見学は誰でもOKだそうだ。


 翌日は早めの昼食を食べて、オークション会場で開始を待った。ラナさんは心配の余り食事も喉を通らない様で、ほとんど食べなかった。会場には周りより一段高いステージが設置されており、その周りに入札者用の座席が置かれている。私達見物者はその後ろで立ち見だ。


 立見席でオークションの開始時間を待っていると、びっくりする人物が会場に入って来た。ドレークさんだ。ドレークさんは緊張した面持ちで一番後ろの入札席に座った。私達には気付いていない様だ。私はドレークさんに声を掛けるか迷って止めた。ドレークさんがここに来た意図が分からないからね。


 しばらくして、オークションの開始時間となり、奴隷を10人くらい連れた奴隷商人と思われる男がステージに上がった。ステージの後では腕を縛られた奴隷たちが一列に並んでいる。ドリアさんの姿も見える、ちょうど列の半ばぐらいだ。


 奴隷オークションが始まる、ステージの後に並ばされた奴隷達の内、左端に立っていた高齢の男性がまずステージにあげられた。自分が誰に買われるのか心配なのだろう、入札席をキョロキョロとしきりに見回している。奴隷商人がステージの端にある机に付き、オークションへの参加者に向かって奴隷の説明を始める。


「皆様、本日も我がカービナス商会が主催する奴隷オークションにお集まりいただきありがとうございます。本日もカービナス商会が自信を持ってお勧めする、選りすぐりの奴隷達を取り揃えております。お眼鏡にかなう奴隷が居ましたら挙手の上、提示金額をおっしゃって下さい。それでは、最初はこの奴隷です。人間族の男性で年齢は60歳。歳は取っていますが、御覧の通り身体は頑健そのもの。まだまだ肉体労働もこなすことが出来ます。読み書きは出来ませんが、二桁までの加減算が出来ます。今まで農園畑仕事をする傍ら、奴隷達のまとめ役も担っておりました。皆さま方がお持ちの奴隷達のまとめ役として活躍してくれるでしょう。掘り出し物ですよ。本日は特別サービスとして、開始価格を銀貨1枚からとさせていただきます。それでは入札される方は挙手をお願いします。」


入札者達はしばらく周りの入札者の様子を見ていた様だが、しばらくして手を上げる者が居た。


「銀貨1枚」


「はい、銀貨1枚が出ました。他に入札される方はおられませんか?」


「銀貨1枚と銅貨50枚」


「銀貨1枚と銅貨50枚です。さあ、いかがでしょうか? 他に金額を提示される方はおられませんか?」


「銀貨2枚」


「銀貨2枚! 銀貨2枚が出ました。まだまだお買い得な値段ですよ。さあ、いかがですか?」


と奴隷商人は入札者達を煽ってゆく。結局、その男性奴隷は銀貨5枚まで値段が吊り上ったが、そこで入札が止まった。奴隷商人はしばらく新たな入札を待っていたが、これ以上の値はつかないと判断したのか、机の上に置いてあった木槌を手に持ち、机の上の木の台に叩きつけた。ドンと意外に大きな音がする。


「おめでとうございます。そちらの黒服の男性に銀貨5枚で落札されました。落札された方はそちらのカウンターで奴隷の所有権移転の手続きをさせて頂きます。なお、料金の支払いは現金のみとさせていただいております。ご了承よろしくお願いします。」

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