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53. ラナさんのお母さん救出作戦 - 2

「そうか...。そうよね。ねえ、イル。あなたの魔法で何とかならないかしら?」


と、珍しく母さんから私に魔法を使う様に言って来た。きっと同じ娘を思う母親として共感するものがあるんだろう。そりゃ、花嫁衣裳を着たラナさんを見てもらうだけなら何とかなると思う。瞬間移動の魔法を使って、ラナさんとふたりで南の小国家群にあるラナさんの故郷へ行って来れば良い。ラナさんの無事な姿を見るだけでもきっと喜んでくれるだろう。でもそれだけでよいのだろうか? ラナさんのお母さんは奴隷なんだよね。ラナさんもきっと、そんな境遇のままお母さんを放って置きたくないよね。


「うん、出来るよ。でもどうせならラナさんのお母さんにもここに来てもらったらどう? もちろん奴隷ではなく私達の家族としてね。」


「まあ、それは良い考えね! ヤランとラナさんがこの天幕を出て行くと寂しくなると考えていたところよ。」


「奥様、イル様、いけません。そこまでしていただく訳にはまいりません。」


「あら? ラナさんはお母様がここに住むのは嫌なのかしら?」


「嫌じゃありません。でも母さんを攫ってきたら、きっと犯罪者として追手が掛かります。それに奴隷監督のドレークさんはいい人なんです。「雇われている身だから大したことは出来ない」と言いながらいつも私達奴隷の境遇を気にしてくれてました。母さんが居なくなったら、監督が不十分だったとしてドレークさんが罰せられてしまいます。」


「大丈夫、攫ったりしないから。ラナさんの国では奴隷売買は合法なんでしょう。それなら、ラナさんのお母さんを買い取ればいいのよ。お金はあるのよ。」


と私は言って、亜空間から金貨の入った小袋を取り出し、中身を床にあけた。小袋には金貨が99枚入っている。100枚でなく99枚と端数なのは、金貨1枚分は銀貨と銅貨でもらっているからだ。私の持っているお金はまだまだこんなものではないが、これだけでも、遊牧民の母さんにとっても、奴隷だったラナさんにとっても見たことの無い大金のはずだ。


「地竜の女王から取れた魔晶石を売却したお金を貰ったの。このお金でラナさんのお母さんを買い取ればいいのよね。」


奴隷の価格がいくらなのか知らないが、金貨99枚で足りなければ大金貨も沢山ある。資金に関しての心配は無いはずだ。


「イル様、ダメです。私なんかの為にそんな大金を使ってはいけません。 それにとてもお返し出来る金額ではありません。奴隷は高いのです。」


「何言ってるの、返してもらおうなんて考えてないわよ。ラナさんは私の家族よ。家族の間で貸し借りなんて無いわ。」


「でも...。」


と言い淀むラナさんに、母さんが 「ヤランに相談して決めたらどうかしら?」と提案してくれ、ラナさんも(ようや)く受け入れてくれた。多分ヤラン兄さんも賛成してくれるだろう。愛するラナさんのお母さんのことだものね。


 だが心配事がひとつある。私は南の小国家群についてはアトル先生から教わった範囲でしか知らない。ひとつひとつの国の名前も知らないし、奴隷売買の制度についても同様だ。奴隷を買い取るのにどの様な手続きが必要か分からないし、奴隷の値段がいくら位なのかも知らない。ラナさんも奴隷は高いとは言っていたが、実際の値段まで知っているわけではなさそうだ。このままでは騙されてお金だけ取りあげられるという恐れもある。まあ、少々お金が減るくらいは問題ないが、その結果としてラナさんのお母さんを連れて帰れないことになったら大変だ。だけど、私の周りに奴隷売買に詳しい人なんていないしな...と考えて思い付いた。いるよ! 詳しい人が! トスカさんだ! 女奴隷の待遇改善に尽力してくれているとラナさんが言っていたから、きっと奴隷制度についても詳しいはずだ。


 私はひとりになると、トスカさんに念話を飛ばした。遠方に居る可能性が高いが、私は魂が成長して魔力が強くなった分、念話の到達距離も伸びている。トワール王国では500キロメートル離れた場所にいたラトスさんと念話で会話出来た。もしかしたらと期待して、念に精一杯の魔力を乗せた。


<< もしもし、トスカさん。もしもし >>


と呼びかけると、直ぐに返事があった。いや、返事と言うより叫びだ。


<< ちょっ、イルちゃん、魔力を下げて! 頭が割れる! >>


私はあわてて、魔力量を調整する。さっきは最高出力で念を飛ばしたからな、さすがに強すぎたのだろうか。


<< ごめんなさい。これでどうですか? >>


<< ごめん、もうちょっと下げてくれるかな? >>


<< これでいいですか? >>


<< うん、助かったよ。さっきは本当に頭が割れるかと思った。>>


<< ごめんなさい。遠くに居るかもしれないと思って、思いっきり念を飛ばしてしまいました。>>


<< たぶん遠くに居るよ。大陸の南の端、キュメール共和国だからね。イルちゃんが大草原に居るならとんでもなく遠距離だね。>>


<< そうなんですね。キュメール共和国って、南の小国家群のひとつですか? >>


<< そうだよ、良く知っているね。それで用件は何かな? >>


<< 実は、トスカさんの時間のある時で良いので、奴隷制度について教えて頂きたいんです。奴隷をひとり購入したいんです。>>


<< 今なら時間があるよ。ちょうど美女をナンパして振られたところさ。この国の女性は冷たいね。それにしてもイルちゃんが奴隷を買うのかい? ちょっと意外だね。>>


トスカさんは相変わらずだなあ。「これだから男って奴は!」というララさんの嘆きが聞こえてきそうだ。


<< もちろん購入してから直ぐに解放するつもりです。>>


と言ってから、兄さんのお嫁さんになるラナさんのお母さんを、解放してこちらに連れて来たい旨を説明する。


<< なるほどねえ。そうゆう事なら僕も協力するよ。中年の女奴隷なら金貨10枚もしないから資金面での心配は無いんだけどね。購入の手続きが問題で、書面に名前や住所、身分を正しく記載しないといけないから、住所が定まっていない遊牧民には購入出来ないんだ。それに記載が終わったら、嘘を見破る魔道具に手を置いて自らそれを読み上げないといけないから、嘘を書いても直ぐばれるしね。それに奴隷を購入する条件として、奴隷の人権に関する講習を受けたという証明書も必要になる。結構大変なんだよ。>>


<< そうなんですね。>>


ちょっと驚いた。住所がないと購入できないのか、遊牧民は全員住所不定だよ。それに奴隷の人権に関する講習会か!? 奴隷の人権を守るという考えがあるんだ!


<< まあ、この制度が導入されたのは数年前からで、導入させたのは僕なんだけどね。正直、頭の固い王国の連中を説得するのには骨が折れたんだよ。と言う訳で、イルちゃんの代わりに僕がその奴隷を購入して解放すれば良いわけさ。もう百人くらい同じことをしているから慣れた物さ。>>


えー、正直すごく驚いた。ただのナンパ男と思っていたトスカさんが...。ラナさんから奴隷の待遇改善の為に尽力していると聞いていたけれど本当だったんだね。信じなくて御免なさい。購入者の住所を明確にするのも、奴隷が安易に転売されて不当な扱いを受けない様にだろう。購入者の名前と住所が分かっていれば、奴隷がどこに売られたか追跡するのも容易だろうからね。


<< すごいです! トスカさん尊敬します。>>


<< まあ、もっとも解放するのに値する、若くて美人な女奴隷を見つけるのには苦労しているんだけどね。>>


ちょっと待て! 若くて美人な女奴隷限定かい! 前言撤回、やっぱりただのナンパ野郎だ! でもまあ、ラナさんのお母さんを解放する手続きはトスカさんにお願いするのが一番なのは分かった。もちろんお金は私が出すけどね。それから、私達も南の小国家群に向かうことと、予定が決まったら連絡することを話して念話を切った。

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