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39. ラナさんの求婚 - 2

「イ、イル様。そんな、私なんかが....」


また自分は奴隷だからと言い出しそうなので、先手を打って、


「おめでとう、兄さん。で、結婚式はいつにするの?」


と兄さんに話しかけた。


「そうだな、俺はいつでも良いが、新しい居住地に着いたら結婚するか?」


と、兄さんがラナさんを見ながら真面目な顔で言う。が、ラナさんが答える前に母さんが口を挟んだ。


「ヤラン、何馬鹿なこと言ってるの。女性は花嫁衣裳を縫わないといけないのよ! ラナさんに花嫁衣裳を着せてあげないつもりなの?」


「そ、そうだったな。」


「ふふっ、結婚式のことは母さんに任せておきなさい! きっとすてきな式になるわよ。」


ひとり話に入れないラナさんが念話で話しかけてきた。


<< イル様! 酷いです。こんなのヤラン様に申し訳ないです。>>


<< ハンカチの意味を黙っていたのは御免なさい。でも兄さんはラナさんの求婚を受け入れてくれたのよ。何の問題も無いじゃない。>>


<< ありますよ。私なんかが... >>


<< 兄さんはね、今度ラナさんに指輪をプレゼントするつもりだったの。そしたらラナさんはどうしてたかな? まさか指に嵌めないなんてことはないよね。>>


<< そ、それは... >>


 だが、話はそこまでだった。急に周りが騒がしくなったのだ。誰かが叫んでいる。


「カマルだ! カマルが盗賊に追われているぞ!」


 ラナさんから視線を戻すと、遥か遠くでラクダルに乗った人を複数の馬が追いかけているのが見える。まだラクダルと馬とには距離があるが、ラクダルは足が遅い。追いつかれるのは時間の問題だろう。先ほど叫んだ人は、ラクダルに乗っている人の服装や、ラクダルの背に掛けられている布の模様から行商人のカマルさんと判断した様だ。いつもの荷馬車を引いていないのは既に盗賊に奪われたのかもしれない。


 それから一族の男達の行動は素早かった。もちろんカマルさんを助けに行くのだ。カマルさんは長年私達の居住地に行商に来てくれた人だ。その商売は誠実で、だまされたことなど一度もない。皆カマルさんを友人と思い、遠くの出来事についてカマルさんから話を聞くのを楽しみにしているのだ。誰に指図されることもなく、男達のほとんど全員があっと言う間に武器を持って馬に乗り込んだ。もちろんヤラン兄さんもだ。


「ヤラン様、お気を付けて。」


とヤラン兄さんに駆け寄って、縋る様に言うラナさんに、兄さんはラナさんの頭を撫でながら何か言った。途端にラナさんが満面の笑顔になる。


「行って来る。」


と兄さんが叫んで一族の男達と共に馬を走らせる。ここから見える盗賊の数は5人くらいだ。こちらは20人近くいる、負けることは無いだろう。予想通り兄さん達が近づくと、盗賊たちは戦うことなく元来た方向に逃げ出した。


 しばらくしてカマルさんと一族の男達が帰還すると、ヤラン兄さんが私を呼びに走って来た。なにやらあわてている様だ。急いで兄さんと共に男達の方に向かう。長老に手招きされて、男達の集まりの真ん中に行くと、カマルさんが地面に俯きに横たわっていた。背中には深々と矢が突き刺さっており、服は傷口から溢れた血で真っ赤に染まっている。肺を傷つけているのは間違いない、一刻を争う状態だ。私は急いで魔法使いの杖を取り出し、全力の回復魔法を掛けた。矢が消えカマルさんの身体が淡く輝く。間に合った様だ。カマルさんが意識を取り戻し、上体を起こすと周りから驚きの声が聞こえた。その声で我に帰る。しまった、一族の中でも私の魔法のことを知らない人の方が多いのだ。私が狼狽した顔をしたからだろうか、長老が優しく声を掛けてくれた。


「イルよ、心配するな、ここに居る皆には口止めをしておく。皆、今見たことは家族にも口外無用だぞ。これは長老としての命令じゃ。良いな!」


全員が頷くのを確認してから長老はもう一度こちらを向いた。


「それにしても、さすがはラナイの娘じゃな。儂が頼むまでもなくカマルを治療してくれよった。ありがとうな。」


と言って長老は私の頭を撫でてくれた。


「あの~、私はいったい...」


とカマルさんが長老に向かって声を掛ける。


「ほい、そうじゃ。口止めしなければならない人間がもうひとり居たわい。」


と長老は笑いながら言い、カマルさんに、盗賊に追われているカマルさんを見つけてからのことを説明した。説明を聞いたカマルさんは驚いた顔で私を見詰め、「草原の魔導士...こんなところに居たとは!」と呟いた。私はあわてて口の前で人差し指を立てる。それにカマルさんは頷いてくれた。流石はカマルさん、各地を巡って様々な情報を知っているからだろう、私が唯の魔法使いではなく、草原の魔導士だと気付いた様だ。

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